悟空達がスパイン師団と闘う少し前、この頃の悟飯は、惑星ジニアで肉体労働を課せられていた。少しでも指示されたのと違う事をしたり、反抗的な態度を取ると、刑務官に容赦なく鞭で打たれた。
酷い目に遭わされていたのは、悟飯だけではなかった。住んでいた星がジニア人に攻められ、必死の抵抗も空しく敗れ、拘束されて惑星ジニアに連行された者。以前はジニア人の協力者だったが、問題を起こしてジニア人の怒りを買った者。この者達も肉体労働を課せられていた。
労働自体は厳しかったが、労働者には一日三度の不味い食事と、充分ではないが睡眠時間を与えられた。それでも大抵の者が次々と死んでいったが、悟飯には余裕だった。しかし、苦労して仕事をしているように演技し、刑務官の目を欺いていた。
一日の仕事を終えた労働者達は、宛てがわれた小屋の中に入った。小屋の中は監視されておらず、仕事の時以外は自由に利用する事を許されていた。ある日、小屋の中で悟飯は、他の労働者達に呼び掛けていた。
「このままじゃ死ぬまで働かされる。皆でこの星から脱出しよう」
「そんな事を言ったって、ジニア人の宇宙船の操作は複雑だと聞くぞ。何も知らない俺達では、宇宙船を使いこなせない」
「それに大勢のロボットやサイボーグだけでも厄介なのに、あのハートボーグ五十七号が居るんじゃ絶対に勝てない。逆らっても殺されるだけだ」
悟飯と違って身も心も疲れ果てている労働者達は、弱気になっていた。しかし、悟飯は説得を続けた。
「五十七号は俺が食い止める。今の俺なら五十七号と互角に渡り合えるはずだ。もし無理でも、足止め位は出来る。皆にはロボットやサイボーグの相手を頼む。そして、誰かがドクター・ハートを捕まえてくれ。あの女を人質にすれば、ロボット達は手出し出来ない。そして、あの女には宇宙船を操縦させ、俺の故郷である地球に行かせる。地球には俺の仲間達が居る。彼等と合流して引き返し、惑星ジニアを占拠してジニア人の野望を阻止しよう」
労働者一人一人の実力は、悟飯に遠く及ばないものの、それでも生まれ育った星では抜群に強かった。そんな彼等と共に闘えば、惑星ジニアからの脱出は可能だと悟飯は考えていた。そして、悟飯の熱意に絆された彼等は、次第に悟飯に賛同するようになっていた。
一方、悟飯達の標的にされているドクター・ハートは、自身の研究所で五十七号と話し合っていた。
「孫悟飯の話を最近聞かないけど、最近は脱走してないの?」
「はい。特別きつい仕事を毎日させていますから、逃げる気力が無いのでしょう」
「そうかしら?だったら孫悟飯の直近の仕事内容を聞かせなさい」
五十七号は、一旦退室し、現場監督者を連れて戻ってきた。そして、監督者に一週間の悟飯の仕事内容や食事の量、作業の合間の休憩時間、叩かれた鞭の回数等、事細かに報告させた。
「一日の仕事が終わった後の孫悟飯は、どんな感じ?」
「疲れ切っている様子でした」
「あの孫悟飯が、この程度の作業で疲れ切っている?この仕事量では手緩い。十倍にしても良い位よ。また、これだけの食事と休憩時間を与えれば、大分余裕があるはず。それでも歯向かったり逃げ出さないのは変よ。わざと疲れた振りをして、何か企んでるわ」
やるべき仕事を大量に抱えているドクター・ハートは、悟飯については完全に人任せで、これまで確認すらしていなかった。しかし、強大な力を持ち、反抗的な態度を取り続けている悟飯を人任せにするのは危険だと思い、慌てて確認した。
「孫悟飯は、また惑星ジニアから脱出するつもりですか?」
「脱出するつもりなら、もうやってるわ。これまで万全ではない体の状態でも、何度も逃亡を企てたじゃない。恐らく単独での脱出は無理だと判断し、他の人達と共に行動を起こす気だわ。他の人達と一緒だからこそ絶対に失敗しないよう慎重になるはずよ」
やがてドクター・ハートの読み通り、悟飯は、他の労働者達と共に決起した。仕事が始まる前の早朝に小屋を抜け出し、一斉にドクター・ハートの研究所に向かった。ところが、まだ夜が明けたばかりにも拘らず、大勢のロボットやサイボーグ達が悟飯達の前に立ち塞がった。
悟飯達は、大いに奮闘して優勢に闘っていたが、五十七号が加わってから状況が一変した。悟飯が五十七号と対戦している間に、労働者達が次々とロボットやサイボーグ達に倒された。
労働者の人数が残り少なくなると、手が空いたロボットやサイボーグ達が五十七号に加勢したので、悟飯も徐々に追い詰められていった。そして、悟飯が倒された時、労働者達は誰一人として立っていなかった。ほとんどの者達が死に、ごく少数の者達だけが生き延びた。悟飯の作戦は失敗に終わった。
重傷の悟飯は、体を鎖で縛られ、うつ伏せの体勢で広場に引き摺り出された。そして、ドクター・ハートと五十七号がロボットやサイボーグの群れを掻き分け、悟飯の目の前に立った。
「あなたの無謀な反乱のせいで、大勢の者が死んだわ。代わりの労働者を補充しないといけなくなったじゃない」
「人手が必要なら、ロボットやサイボーグに働かせろ」
「何を言ってるの?あの労働は、ジニア人に逆らった罰として苦しめて殺す為のものよ」
「くっ。そんな勝手な理由で、彼等を扱き使っていたのか・・・」
悟飯は、人の命を軽視するドクター・ハートに対する怒りを一層強くした。しかし、悟飯にとって最悪なのは、次の瞬間からであった。
「あなたは殺さない。何かの役に立つかもしれないからね。その代わり、今回の騒動の責任を別の者に取ってもらうわ」
ドクター・ハートが手を上げて合図すると、周囲の群れが二つに分かれた。そして、その間から縄で体を縛られた怪我人達が、それぞれロボットに抱えられて広場の中央に連れて来られた。この怪我人達は、悟飯と共に闘い、生き残った労働者達であった。
「あなたと違って貧弱な彼等は、このまま放っておくと、その内に死ぬだろうけど、それじゃあ私の気が済まない。あなたが二度と馬鹿な真似をしないように見せしめとなってもらうわ」
労働者達は、一斉に床に投げ出された。その背後に刀を持った五十七号が立った。そして、五十七号は、徐に刀を鞘から抜き、眼下の労働者を観ながら刀を振り上げた。
「何をする気だ?止めろ!殺すなら俺を殺せ!」
悟飯の必死の叫びも空しく、五十七号は、労働者達の首を次々と切り落とした。悟飯にとっては、正に地獄絵図の光景だった。全ての労働者達の首が胴体から離れると、ドクター・ハートは、高らかに笑った。それとは対照的に、悟飯は、大きなショックを受けて顔面蒼白になっていた。
「あなたが彼等を焚き付けなければ、こんな無様な死に方をしないで済んだのよ。あなたの事だから、自分が傷付くより、他人が傷付いた方が、よっぽど応えるでしょ?これに懲りたら、二度と私達に逆らおうなんて考えない事ね」
「こ、殺す。貴様等を絶対に殺してやる」
この悟飯の態度に苛立った五十七号は、悟飯の頭を踏みつけた。
「屑共の死に怒っているようだが、こっちだってロボットやサイボーグを大量に破壊されたんだ。お互い様だろ」
「二度と逆らう気を起こさせないよう仕事の量を倍増するわ。食事の量を減らし、ろくに睡眠時間を与えず、一日中働かせてやるわ。覚悟しなさい」
この後、悟飯は、延々と肉体労働をさせられた。朝から晩まで休めなかった。意識を失うと、容赦なく鞭で打たれて起こされた。夜になって他の労働者には休む時間を与えられても、悟飯だけは仕事を課せられた。最早惑星ジニアからの逃亡を図る所ではなく、生き延びるのに必死だった。
休み無しの肉体労働が続いた後、悟飯は、ドクター・ブレインによる人体実験で一日に何度も死にかける日々が続いた。そのドクター・ブレインを倒し、ようやく辛い日々から解放されたが、完全に晴れやかな気分にはなれなかった。殺された労働者達の事を思うと、今でも胸が苦しかった。
「今でも俺は、貴様やドクター・ハートに対する憎しみを抱き続けている。惑星ジニアでは辛い日々の連続だったが、あんなに精神的に辛かった日は無い。報いを受けろ!」
悟飯は、五十七号の頭を踏み潰した。更に五十七号の胴体をエネルギー波で粉々にした。体が無くなってしまえば、もう修復不可能だった。そして、悟飯の勝利を告げるアナウンスが流れた。遂に憎き五十七号に引導を渡した悟飯だが、怒りは収まっていなかった。
「ドクター・ハート。俺は、貴様を絶対に許さない」


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