其の百三十三 年貢の納め時

悟飯とハートボーグ五十七号の試合に乱入し、五十七号に代わって悟飯と闘う事になったレードの分身達は、一斉に悟飯に襲い掛かった。

まず一人目の分身が飛び蹴りしてきたが、悟飯は飛び上がって蹴りを避けた。次に二人目の分身が目から破壊光線を放ったが、悟飯は残像拳で光線を躱した。続けて三人目の分身が小型のエネルギー球を放ったが、それを悟飯は弾き飛ばした。ところが、四人目の分身が手から蜘蛛の糸の様なものを放ち、悟飯の体に巻きついた。更に五人目が尻尾の先端で悟飯の左腕を突き刺した。これによって悟飯の左腕が麻痺した。

いきなり危機に陥った悟飯だが、気を開放して蜘蛛の糸の様なものを吹き飛ばし、更には気合で左腕の麻痺を自力で治した。

次に分身達は、操縦型の気円斬を個別に放った。対する悟飯は、飛び回って五つの気円斬を避けたが、気円斬にしつこく追跡された。しかし、気円斬を引き付けつつ、分身の一人に迫った。そして、分身の直前で急に向きを変え、気円斬は分身を切り裂いた。ところが、残った四人の分身達は、死んだ分身を全く気にせず、相変わらず気円斬を操って悟飯を追跡させた。不思議に思った悟飯は、飛びながら分身達に質問した。

「貴様等は、死ぬのが怖くないのか?自分達も同じ様に切り裂かれると思わないのか?」
「俺達は、本体ではない。闘って相手を倒す為だけに産み出された分身だ。闘いの妨げとなる恐怖心なんて端から無い」
「恐怖するのは悪い事ばかりじゃない。時には必要になる場合だってある。それが分からないようでは、闘いに勝てない」

恐怖心を抱かず、ひたすら悟飯を倒す事だけ考えて行動している分身達は、正に殺人マシーンだった。しかし、悟飯は、分身達の弱点を既に見抜いていた。

悟飯は、気円斬の一つを真剣白刃取りで受け止め、それを別の気円斬に投げつけ、二つとも消滅させた。次に残った二つの気円斬を左右の手に一つずつ自分の手の平を切らないように掴み、それ等を持って分身達に接近した。そして、気円斬を自らの武器として、分身達を次々と切り裂いた。全ての分身達を切り裂いた後、持っていた気円斬を頭上に放り投げ、空中で衝突させて消滅させた。分身達の呆気ない全滅に驚愕した五十七号は、表情が青褪めていた。

「恐怖心が無ければ、危険に対して鈍感だ。危険を察知していない者を倒すのは、難しい話じゃない。あんなのが百人居るより、本物のレード一人居る方が、よっぽど手強い」
「ど、どうして、今ので俺の体も切り裂かなかった?」
「貴様をすぐに殺しては、俺の気が済まない。貴様を殺す前に、俺が受けた苦しみの全ては無理でも、何分の一かは味あわせてやる。覚悟しろ!」

五十七号は、恐怖に震え、生きた心地がしなかった。

「くそっ!こうもあっさり分身が殺されるなんて・・・。レードの計算違いか?」
「それは違う。レードは、分かっていたはずだ。あの程度の分身達では俺を倒せないとな。本気で俺を倒すつもりだったら、もっと分身の人数を増やすか、何か凄い作戦を分身達に授けていたはずだ。中途半端な人数の分身で貴様を安心させ、この闘技場に送り込んだのは、全く戦力にならず、邪魔な貴様を俺に始末させる為だろうな」

悟飯の指摘は、五十七号にとって意外過ぎる内容だった。レードの心中が分からない五十七号は、驚愕する他なかった。

「自分の立場が分かってないようだな。貴様より強い分身を何人も産み出せるなら、レードが貴様の力を必要とするはずがない。それに、貴様の様に横柄な態度を取る奴が好かれるはずない。レードは、貴様の存在を目障りに感じていたはずだ。それでも殺さずに生かしておいたのは、単に武道会の出場選手の数合わせの為だろう。武道会が終われば、用が済んだので殺すつもりだろうな。万が一この試合を貴様が生き延びれたらの話だが・・・」

五十七号は、レードに限らず周りから嫌われていた。悟天親子は、五十七号と口を利かず、話し掛けられても無視していた。死んだフリーザやセルは、何時か五十七号を亡き者にしてやろうと企んでいた。五十八号は、元から五十七号が嫌いだった。ドクター・ハートも不甲斐無い五十七号に愛想を付かしていた。配下のサイボーグ達は、五十七号からの指図を嫌々ながら従っていた。

「分身達が勝てない事を分かっていたのは、レードだけではない。俺の仲間達もだ。あからさまな反則なのに、俺の助けに来ていないのが何よりの証拠だ」

分身達が参戦する事は、明らかな不正だった。それでも悟空達が悟飯の助けに来なかったのは、悟飯一人で分身達を倒せると確信していたからである。

「人の力に頼ってないで、偶には自分の力で闘ったらどうだ?もしかしたら俺を倒せるかもしれないぞ。試しに殴ってみろよ」
「ば、馬鹿にしやがって・・・。後悔しやがれー!」

五十七号は、悟飯の左頬を本気で殴った。しかし、悟飯は、微動だにしなかった。

「こんなパンチじゃ百発当てても俺を倒せない。しかし、俺には貴様を一撃で倒せる自信がある。そらっ!」

悟飯は、五十七号の左頬を殴った。五十七号は、吹っ飛んで倒れた。そして、ふらつきながら立ち上がった。

「これでも手加減したんだぞ。貴様を殺さないようにな」
「こ、ここまで差が開いていたとは・・・。十年前の貴様は、俺に手も足も出なかったのに・・・」
「月日の流れは、時に残酷なものだ。十年前の貴様は、威厳があって強いと感じられたのに、今では臆病で雑魚としか思えない。強さは当時と変わってないようだが、人としての器が小さくなったな」

五十七号は、悟飯との実力差を痛感し、戦意を失った。

「じょ、冗談じゃねえ!こんな試合、やってられるか!」

五十七号は、降参する為に跪いて床を右手で叩こうとした。ところが、何故か出来なかった。代わりに左手で叩こうとしたが、またもや出来なかった。不思議に思った五十七号が手元を見ると、何と左右の手首から先が無くなっていた。驚いて悟飯を見ると、何と五十七号の両手が悟飯の手に握られていた。

実は五十七号が床を叩こうとした正にその時、悟飯は、素早く五十七号に接近し、五十七号の両手を手刀で切り落としていた。そして、切り落とした両手を持ち、元の場所に戻っていた。五十七号は、痛覚が無い為、自分の両手が無くなった事に即座に気付かなかった。

「床を手で叩かなければ、降参の意思を示せない。そして、手が無い貴様に降参は出来ない」

悟飯は、五十七号の両手を床に落とし、憎しみを込めて踏み潰した。

「こ、こうなったら逃げるしかねえ!」

五十七号は、悟飯に背を向けて逃げ出した。しかし、悟飯は、右腕を真一文字に振って真空の刃を作り、五十七号の両足首を切り落とした。五十七号は、バランスを崩し、うつ伏せに倒れた。

「貴様を逃がす訳ないだろ!さあ、報いを受ける時間だ」

悟飯は、倒れている五十七号の目の前まで回りこんだ。五十七号は、上体だけ起こし、正面の悟飯を見上げた。

「この俺の両手両足を切り落とし、更に何をする気だ?そんなに俺が憎いか?」
「当たり前だ!貴様が俺に何をしたと思っているんだ?惑星ジニアでの長く辛い日々は、貴様に連れて行かれた時から始まったんだからな!貴様には何度も何度も傷付けられた!」

悟飯は、惑星ジニアに連れて行かれ、牢屋に入れられた。傷が治りかけると、牢を破って脱出を試みたが、その度に五十七号に捕まり、散々に痛み付けられて別の牢に入れられた。その後の強制労働や人体実験に比べれば幾分ましだが、五十七号から受けた仕打ちを決して忘れていなかった。

「しかし、俺が最も許せないのは、あの日の出来事だ。俺は、あの日を決して忘れない」
「あの日だと!?どの日の事を言ってるんだ?」
「分からないのか?これでも思い出せないか?」

悟飯は、五十七号の頭を踏みつけた。

「あの日、こうやって貴様に頭を踏まれたよな?」
「ま、まさか、あの日というのは・・・」

五十七号の脳裏に、ある日の出来事が思い出された。そして、五十七号は、悟飯が何故こんなに怒っているのかを悟った。

コメント

タイトルとURLをコピーしました