長年に渡って仕えてきたハートボーグ五十七号が悟飯に倒されるのを、ドクター・ハートは、控え室にあるモニターで観ていた。しかし、怒りも悲しみもせず、まるで他人事の様に冷静な面持ちだった。以前の堂々とした姿は何処へやら、次から次に現れる強者に気圧され、すっかり卑屈になった五十七号など、人の目に触れるのも恥ずかしい失敗作としか思っていなかった。そして、五十七号の事など気にもせず、側に居た五十八号に命令した。
「五十八号。次の試合でピッコロを殺しなさい」
「はい。分かりました」
五十八号は、素直に応じた。それに待ったを掛けたのは、同じ控え室の中に居た悟天だった。
「おい。勝手な事を言うな。レード様は、殺すなと言ったんだぞ」
「レードが殺すなと言ったのは、孫悟飯を怒らせない為よ。でも、既に怒ってるわ。だったら、ピッコロを殺しても殺さなくても同じ事よ。また、向こうの陣営は誰一人死んでいないのに対し、こちらは既に三人も殺されている。余りにも不甲斐無いわ!まさかとは思うけど、かつての仲間が死んで欲しくないから、そんな事を言ってるんじゃないでしょうね?」
悟天は、何も言い返せなかった。悟空を殺すという自分の信念を疑われたくなかったからである。
やがて第八試合の開始を告げるアナウンスが流れた。五十八号とピッコロは、それぞれ別々に闘技場に姿を現した。そして、闘技場の中央で向かい合った。
「悟飯の力は、悪を倒す為に磨かれたのものだ。それを悪用するとは許せん」
「だったら力尽くで止めてみろ。まあ無理だろうな。感情が邪魔して、俺を殺せまい」
「本物の悟飯ならまだしも、偽物を殺すのに躊躇いは無い」
「いずれにしろ、お前では俺を殺せない。それだけの実力が無いからだ」
ピッコロは、マントとターバンを脱ぎ捨て、気を限界まで高めた。そして、試合開始の合図と同時に気功波を放った。対する五十八号は、気功波を片手で弾き飛ばしたが、その間にピッコロに距離を詰められ、顔面に飛び蹴りされた。しかし、踏ん張って倒れず、ピッコロの腹部を殴った。更にピッコロの側頭部を蹴り、続けて後頭部に肘鉄した。
続け様に攻撃を受けたピッコロは、両目から光線を放った。光線は命中したが、即座に顎を殴られた。更に蹴飛ばされて床に激突した。何とか立ち上がったものの、ダメージのせいで足元がふらついていた。
「その程度の実力では、やはり俺を止められんな」
「くっ。五十八号の奴、以前より強くなっている」
「ふっ。俺に手古摺ってるようでは、孫悟天の前では赤子同然だぞ」
早くもピッコロは、五十八号との実力差を痛感していた。しかし、棄権する選択肢は無かった。例え殺されても、次の試合で五十八号と闘う悟飯の為に少しでも長く持ち堪え、悟飯が五十八号を攻略する手掛かりを見つけて欲しいと願っていた。
一方、悟天達とは別の控え室で観戦していた悟飯は、ピッコロの劣勢に気が気でなかったが、ピッコロが殺される前に助けに行こうとはしなかった。ルールなどあって無いような武道会とはいえ、それでも形式上は一対一の試合なのだから、相手が反則行為をしない限り、試合が終わるまでは手を出すべきでないと思っていた。
五十八号は、ピッコロを殴り飛ばした。そして、倒れているピッコロに歩み寄った。正にピッコロ絶体絶命のピンチの中、何者かがピッコロの心に話し掛けてきた。
『苦戦しているようだな。力を貸してやろうか?』
『だ、誰だ?お前は?』
『俺を忘れたのか?無礼な奴め。まあ良い。このままでは、間違いなく殺されるぞ』
『余計なお世話だ。俺は、一人で闘う』
『お前に死なれたら、お前の体を依代にしている俺が困る。無理矢理でも力を貸すぞ』
会話が途切れると、ピッコロの体が勝手に動き、五十八号に向けて右手を伸ばした。すると、五十八号の体からエネルギーが球状になって飛び出し、ピッコロの体の中に吸い込まれていった。エネルギーの一部を奪われた五十八号は、思わずよろけた。
「い、今、何をした?」
「くっくっくっ・・・。油断したな。エネルギーの一部を貰ったぞ」
「エネルギーを貰っただと!?お前に、そんな技は無かったはずだぞ!それに雰囲気が変わった。これは一体・・・」
五十八号は、ピッコロの異変に戸惑ったが、何も分からなかった。
ピッコロが再び右手を五十八号に向けて伸ばした。五十八号は、側面に飛び、エネルギーを奪われるのを防いだ。ならばとピッコロは、五十八号に飛び掛かり、激しく攻め立てた。混乱している五十八号は、本来の力を発揮出来ず、防戦一方となった。体勢を立て直す為にピッコロから離れようとしたが、しぶとく追い掛けてきた。
「鬱陶しい奴め!これでも喰らえ!」
五十八号は、かめはめ波を放ち、それを喰らったピッコロは、傷を負った。しかし、ピッコロの体が一瞬だけ光ると、何と傷が回復した。
「い、今のもピッコロには無い技だ・・・。ますます分からなくなってきたぞ」
五十八号は、激しく動揺した。
「お前は、何者だ?ピッコロではないな」
「当ててみろよ。俺が誰かをな。俺は、貴様に会った事があるんだぞ」
「俺が滅ぼした星の住人か?そんなの数が多過ぎて、いちいち覚えてないぞ」
「違う!貴様と会ったのは、惑星ジニアでだ。ほんの少しの時間だったがな」
「惑星ジニアで会った?強制労働させられた奴隷か?それとも人体実験の検体か?」
五十八号は、色々と考えたが、答えが出てこなかった。次第に苛ついてきたピッコロ、もといピッコロに取り付いた何かは、更なるヒントを与えた。
「鈍い奴め!俺が貴様と会ったのは、惑星ジニアに攻め込んだ時だ!」
「惑星ジニアに攻め込んだだと!?そんなのは孫悟空達以外に居ない」
五十八号は、惑星ジニア襲撃時の悟空や、その仲間一人一人の顔を思い浮かべた。そして、該当する一人の人間に行き着いた。
「もしやリマとかいう魔界の大魔王か!?」
「やっと分かったか。鈍い奴め。今はピッコロの体に乗り移っているから、ピッコロ大魔王と言うべきかな」
「馬鹿な!?お前は、ドクター・ブレインに殺されたはずだぞ!」
ピッコロの体に取り付いている者の正体は、死んだ大魔王リマだった。リマが死んだ時、すぐ側には悟空・ピッコロ・ウーブ・天津飯・餃子が居た。リマは、ピッコロを選び、成仏する前にピッコロの体の中に入った。
「死んで魂が肉体から離れた瞬間、側に居たピッコロの体の中に憑依した。本当は天津飯の体に乗り移りたかったが、そんな事をすれば天津飯に嫌われてしまうからな。そこで止む無くピッコロにした。これまでピッコロの体の中で大人しくしていたが、ピンチだったので助けてやった」
リマは、魔神技の一つである憑依を使ってピッコロの体に乗り移った。しかし、これまで何もせずに静観していた。その為、ピッコロ自身でさえリマの存在に気付かなかった。
「死んで魂だけの状態になっても、まだ現世に執着するとは女々しい奴め。今度こそ昇天させてやろう。ピッコロ共々な」
「そう簡単にいくかな?今の俺は、流石に三つ目人の技までは無理だが、それ以外の技や魔力を使えるぞ。おまけに、ピッコロの能力もな」
リマが正体を明かさなければ、五十八号は、訳が分からず困惑したままだった。しかし、目立ちたがりなリマの性分のせいで正体が明らかになり、合点がいった五十八号は、落ち着きを取り戻してしまった。
この時、今度はピッコロがリマに話し掛けてきた。
『おい。勝手に人の体を使うな。お前に俺の体を使う事を許可した覚えは無いぞ』
『助けてやったのに、随分な言い草だな』
『これは俺の試合だ。それに、この体は俺のなんだ。気に入らなければ、別人の体に移れ。・・・レード達を除いてな』
『ちっ、分かったよ』
リマは、ピッコロに体の主導権を返した。こうして再びピッコロが自身の体を自由に使えるようになった。


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