先の闘いで死んでしまったリマだが、彼の魂がピッコロの体を依り代とし、今も現世に留まっていた。しかし、ピッコロにしてみれば、良い迷惑であった。
『おい、リマ。まさか俺の体を我が物とし、魔界で再び大魔王として君臨するのが目的じゃないだろうな?』
『大魔王への未練はあるし、復職したいと願っているが、それはピッコロとしてではなく、俺自身としてだ。お前の体を乗っ取るつもりなら、お前の体の中に憑依した時点でしていた。わざわざ半年も大人しくしていたのは、誰にも悟られずに自分の肉体を復元させる方法を探る為だ』
リマにとってピッコロの体は、自身の肉体を復元させるまでの仮の住まいであり、乗っ取るつもりは毛頭無かった。
「ちっ、リマの奴め・・・。俺の体から出て行きそうもないな。奴が死んだのは俺達の責任でもあるから、強引に追い出す訳にもいかない。・・・仕方ない。奴が俺の体に居座るつもりなら、その力を存分に利用させてもらうとするか」
ピッコロは、現在対戦している五十八号には残念ながら自分の力だけでは勝てない事を悟っていた。ならばリマの力を利用して五十八号を倒すしかないと思った。幸いにも、リマが体内に居るのは外からでは分かり難い。仮に審判団がピッコロに不審感を抱き、試合を中断してピッコロの体を調べても、リマの魂には気付けないだろう。リマの力を利用して闘っても、反則扱いになって失格になる可能性は低かった。
ピッコロは、気を取り直して五十八号を攻めた。まず五十八号の顔を思いっきり殴った。それに対して五十八号は、ピッコロを蹴り返した。ピッコロが五十八号に頭突きをすると、五十八号が気功波を放ってきた。ピッコロは、迫ってきた気功波を弾き飛ばし、すぐさま気功波を放って五十八号にダメージを与えた。
先程まで五十八号に後れを取っていたピッコロだが、今は対等に渡り合っていた。これは五十八号が手を抜いているからではなく、ピッコロの力にリマの力が加算されたからだった。ただし、リマの力とは言っても、今の彼には肉体が無いので、生前と全く同じではなかった。
ところが、五十八号が徐々に本気になり始めると、戦況が変わってきた。五十八号は、ピッコロの顎を蹴り、ピッコロを上空に蹴り上げた。更に自身も飛び上がり、ピッコロを三回も殴ってから床に叩き落とした。ピッコロは、受け身すら出来ず、猛スピードで床に激突した。五十八号による一連の攻撃で大ダメージを負ったものの、魔力で回復して立ち上がった。そして、五十八号の本気になった時の力に驚愕していた。
「ま、まさか、五十八号がこれほど強いとは・・・」
「雑魚が力を合わせても、俺には勝てない。俺を苛立たせた事を後悔しながら死ね」
五十八号とピッコロの実力差は、ピッコロの想像以上に大きかった。この時、ピッコロの心に再びリマが話し掛けてきた。
『おい、ピッコロ。このままではやられてしまうぞ。あれをやれ』
『あれだと!?あれとは何だ?』
『そんなのは決まっているだろう。今の貴様になら出来るはずだ』
明確に答えを言われなくても、ピッコロは、リマが意図している事を察知した。正直やりたくないが、今は好き嫌いを論じている状況ではなかった。そして、それを思い切って試してみた。
「ええい!どうにでもなれ!メタモルフォーゼ!」
自棄になったピッコロは、リマに身を任せるつもりで魔力を高めてみた。すると、ピッコロの体に多少の変化が見られた。何と悪魔の如き尻尾が生えた。しかし、それ以外は特に変化が無かった。
『中途半端な変身だが、もしや失敗したのか?』
『・・・失敗ではない!』
『おい、何で怒ってるんだ?』
『メタモルフォーゼは、体の変化が少なければ少ない程、完成度が高い。生前の俺ですら、こんなに変化の少ないメタモルフォーゼは出来なかった。これを怒らずにいられるか!』
リマが思わず嫉妬する程、ピッコロのメタモルフォーゼは完璧だった。そもそもメタモルフォーゼとは、人から魔物に変化するもので、その為には強靭な肉体と膨大な魔力を必要とする。ピッコロの場合、肉体面では問題無かったが、魔力を高める修行をしてこなかったので、メタモルフォーゼが出来なかった。しようとも思わなかった。
ところが、リマの魂がピッコロの体に憑依する際、気力と魔力を全てではないが、大半を持って来ていた。それ等が元々のピッコロの気力と魔力に加わったので、ピッコロが更に強くなり、莫大な魔力も得た。これによってメタモルフォーゼに必要な条件が揃った。
ピッコロがメタモルフォーゼをしたのに、体に変化が余り見られない最大の理由は、ピッコロが強過ぎるからだった。メタモルフォーゼをすると、魔力の膨張により体が魔物と化し、肉体が膨張した魔力を抑える働きをする。全く抑える事が出来なければ、暴走した魔力によって心まで魔物となり、二度と元に戻れない。魔力に体を支配されても理性を保てれば、元に戻れる。しかし、肉体の強さが充分でなければ、外見は人間の時とは全く違うものに変形する。
ウーブもメタモルフォーゼして姿が大きく変わったが、それは魔人となった時の力が弱過ぎたからではなかった。メタモルフォーゼは人間から魔物に変わるので、ウーブの場合、半人半魔の魔人の力ではなく、人間の時の力が基準となるからである。ウーブが人間の時の力では、魔力の膨張による体の大幅な変化を食い止められなかった。
「さあ、五十八号。仕切り直しだ」
「くっ。ピッコロを殺す所か、勝つ事すら難しくなったぞ」
五十八号が脅威を抱く程、大幅にパワーアップしたピッコロは、五十八号に飛び掛かった。対する五十八号は、左のパンチを避けたが、続く右膝の蹴りを顔面に食らった。即座に殴り返したが、ピッコロは、口から気功波を放って五十八号の腹部に傷を負わせた。更に二回続けて殴り、それから殴り飛ばした。最後に神魔光裂斬を放った。五十八号は、避けようとしたが完全には避けられず、左腕を根元から切断された。
「うぐっ!お、俺の腕が・・・」
「片腕を失っては、満足に闘えまい。止めを刺させてもらうぞ」
「よくも俺の左腕を切断してくれたな!許さんぞ!」
五十八号は、激怒して気が急激に高まった。その大きさは先程までとは段違いだった。悟飯のクローンだけに、五十八号も怒りによって強さが変化した。ただし、悟飯は、優しい性格なので、自分の体が傷付けられても怒らない。一方、五十八号は、自己中心的な性格で、自分に不都合な事が起これば怒る。つまり五十八号の方が悟飯より怒り易く、力を発動させ易かった。
怒りの形相の五十八号は、凄まじい勢いでピッコロに襲い掛かった。ピッコロは、必死に応戦したが、五十八号の勢いを止められず、次々と攻撃を喰らった。隻腕というハンデがあるものの、五十八号は、怒る前より遥かに速く、強かった。
ピッコロは、まともに闘っても勝ち目が無いと判断し、持久戦に切り替えた。それは魔力を回復だけに使用し、後は防御に専念するというものだった。回復に使用される魔力の消費量は大した事が無く、しかも今のピッコロには膨大な魔力がある。五十八号は強大な力を持つが、闘い続ければ疲労して力が落ちる。それまで自分が回復しながら耐え抜けば、自分の魔力が尽きる前に五十八号のエネルギーが尽きるだろう。その時に勝機が生まれると考えた。
ところが、予想に反してピッコロの魔力の方が先に尽き、これ以上は回復が出来なくなった。五十八号の気功波を左胸に喰らったピッコロは、メタモルフォーゼが解けて倒れた。再び立ち上がれず、五十八号の勝利を告げるアナウンスが流れた。自分の勝利を伝えるアナウンスを聞いた五十八号は、冷静になって一息付いた。その途端、急に力が抜けて片膝を付いた。それでもドクター・ハートの命令を実行しようとピッコロに近付いたが、その前に悟飯が現れ、ピッコロを抱え上げた。
「ま、待て。そいつは俺の獲物だ」
「勝負は終わったんだ。命まで奪う必要は無い」
「い、行かせんぞ。ドクター・ハートから抹殺命令を受けてるんだ」
「あの女は、何人殺せば気が済むんだ?そんなに人の命を奪いたいなら、まず自分の命を奪えと伝えろ。ピッコロさんを殺したければ、先に俺を殺してみろ。出来るならな」
五十八号は、激戦を終えたばかりで疲れていた。そんな状態で悟飯と一戦交えるだけの力が残っているはずなかった。悟飯がピッコロを抱えて引き上げるのを、指を咥えて見ている他なかった。
悟飯は、控え室に戻る最中、ピッコロと話し合った。
「ピッコロさん。大丈夫ですか?」
「ああ。それより悟飯。五十八号を侮るなよ」
「はい。あいつが俺と同じ様に怒りで強くなるとは思いませんでした。思った以上に手強い相手となりそうです」
悟飯は、次の対戦相手である五十八号が決して簡単に倒せる相手ではないと思った。


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