其の百六十一 親子の絆

長かった第二回宇宙一武道会は、悟空の優勝で幕を閉じた。様々な出来事があったが、仲間を誰一人失わず、長年に渡って仲違いしていた悟天とも和解し、悟空にとって感慨深い結果となった。激闘を終えた悟空と悟天は、控え室に戻って餃子に回復してもらった。それから仲間達から賞賛を受けたが、何故か悟天が思い詰めた表情をしていた。

「どうした、悟天?まだレードの事を引きずってるのか?」
「父さん・・・。ごめんなさい!」

悟天は、手を突き、悟空に謝った。本当はもっと早く、そうするべきだった。有耶無耶にする事も出来たが、悟天は、それを潔しとせず、皆の前で悟空に謝罪した。ところが、当の悟空だけは悟天が謝る理由が分からなかった。

「へ!?いきなりどうしたんだ?何か悪い事でもしたのか?」
「俺は、父さんを憎み、散々酷い事をした。謝って済む問題じゃないけど・・・」
「ああ・・・その事か。だったら気にすんな。オラにも非があったんだからよ」
「で、でも俺は、父さんを殺そうとまでしたんだ」
「気にすんなって言ってるだろ。だって、オラ達は親子じゃねえか」

悟空は、動揺する悟天を気にせず話し続けた。

「おめえは許されねえ事をやったかもしんねえが、取り返しのつかない過ちを犯した訳じゃねえ。人は失敗して学んでいくんじゃねえのか?子供が間違った行為をしたから叱るのだけが親のする事じゃねえ。子供が間違いに気付いたなら、全てを水に流して許してやる寛容さも必要だ。オラは、そう思う。だから気にすんな」

悟天は、悟空の温かい言葉に心から救われた気がした。ところが、すぐ側で悟天を許さない者が居た。

「悟天。カカロットは許しても、俺は許していない。俺に許して欲しかったら、俺の肩を揉め」
「え!?な、何で、そんな事を?ベジータさんには何もしてませんよ」
「貴様・・・トランクスに何をしたか忘れたとは言わさんぞ!昔の俺なら殺してるぞ!それを肩揉みで許してやろうと言ってるんだから、さっさと肩を揉め!」

ベジータは、悟天に背を向け、肩揉みを強要した。悟天は、仕方なくベジータの肩を揉み始めた。その光景を見て、トランクスは、今なら悟天が何でも言う事を聞くと思った。そして、少し悟天を困らせてやろうと思った。

「おい、悟天。肩揉みが終わったら、サイダーを持ってきてくれ」
「俺は、ミネラルウオーターを頼む」
「俺は、烏龍茶をお願いします」
「私は、オレンジジュース」

トランクスに続いて、ピッコロやウーブ、果てはパンまで悟天に飲み物を注文した。悟天は、注文を忘れる前に、急いで控え室から出て行った。仲間達からの悟天に対する軽い仕返しに、悟空や悟飯は、不機嫌になった。

「おい、おめえら。あんまり悟天を虐めんなよ」
「そうですよ。あいつが苦しんでたのを知ってるでしょ」
「済みません。悪乗りしてしまいました・・・ってパン!お前は、悟天に何もされてないだろ!」
「えへへへ・・・つい」

やがて悟天が注文された飲料水が入ったビニール袋を持って控え室に戻ってくると、人が一人増えていた。それはゴカンだった。悟天は、持ってきた飲料水をパンに渡し、それからゴカンに尋ねた。

「ゴカン。どうしてここに居るんだ?」
「強引に連れて来られたんだよ。孫悟空に!」

悟空は、悟天が不在の間に、闘技場の観客席に居たゴカンを力尽くで控え室に連れて来ていた。ゴカンは、控え室から脱出しようにも周りに自分より強い者が何人も居るので逃げられず、居心地が悪そうだった。

「父ちゃん!どうして爺ちゃんを裏切って孫悟空の味方をしたんだよ!?孫悟空は、敵じゃなかったのか!?」

今のゴカンにとっての一番の怒りの対象は、悟空ではなく悟天だった。

「ゴカン。お前にも謝らなければならない。修行に夢中で、お前に余り構ってやらなかったせいで、お前の性格が捻じ曲がってしまった。俺が父さんを憎んだのは間違いだ。これからは、ここにいる人達と一緒に地球で暮らそう。そして、お前が真人間になれるよう教育する」
「嫌だ!俺は、爺ちゃんの敵を討つんだ!こいつ等と一緒に暮らすなんて出来るもんか!いつか孫悟空を殺してやる!」

ゴカンは、興奮の余り、悟天が言う事すら聞く耳を持たなかった。しかし、ゴカンの反抗もここまでだった。

「ゴカン。オラ達の仲間になれ。嫌とは言わせねえぞ。優勝者の言う事には従うルールだろ?」
「ぐ・・・。わ、分かったよ」

父親の言う事すら聞かなかったゴカンだが、悟空に優勝者の権限を持ち出されては、ぐうの音が出なかった。そして、嫌々ながらも仲間入りを了承した。その一方で、反抗的なゴカンを教育するのは、戦闘以上に骨が折れるだろうと誰もが思った。

「ところで、ピッコロさん。リマをどうするつもりですか?ずっとピッコロさんの体に憑依させておく訳にはいかないでしょう。下手をすると、ピッコロさんの体が乗っ取られるかもしれませんよ」
「大丈夫だ。リマは、天津飯の目が黒い内は勝手な真似をしない。天津飯に嫌われるのを何より恐れているからだ。代わりの体が見つかるまで、俺の体に憑依させておくさ」

ピッコロは、もしもの時に備え、リマを体内に留めておきたかった。その後、悟空達は、宇宙船に乗り込み、地球に帰還していった。

その頃、地獄の入り口付近では、命を落としたレードが立っていた。レードの頭上には死者の証である天使の輪が浮かんでいたが、体はサイボーグに改造される前の状態だった。そして、レードが地獄に向かって歩き出そうとすると、物陰からレードを呼び止める声が聞こえた。声がした方角を見ると、何とそこにアイスが居た。アイスの頭上にも天子の輪が浮かんでいた。まさかアイスに会えるとは思っていなかっただけに仰天した。

「久しぶりね、パパ」
「アイス!どうしてここに!?お前は、天国に居るのではなかったか!?」
「ええ。さっきまで天国に居たんだけど、地獄に移らせてもらったの。閻魔大王が最初は許可しなかったんだけど、『私が居ないと、パパが地獄で暴れるわよ』と脅したら、あっさり地獄行きになったわ」

アイスは、死んでからも相変わらずだった。レードは、少しだけ安心した。

「お前が地獄に居たければ、そうすれば良い。しかし、いずれ孫悟天が死んだら天国に行くだろうから、ここに居ては会えないぞ」
「その時になったら考えるわ。また天国に移してもらえるかもしれないし。今は地獄に居たいの。パパが居るからね」

アイスは、天国から下界の様子を見ていた。そして、レードが死ぬ間際に地獄に移してもらっていた。レードは、そこまでしてアイスが地獄に来たかった理由は、自分への復讐の為だと思った。そして、アイスの望む事をさせてやろうと思った。

「アイス・・・。事情は全て知っているだろう。俺は、お前を裏切った。好きにしろ」

レードは、気を限界まで下げて目を閉じた。レードとアイスには相当の実力差があるが、レードが戦闘力を限界まで下げれば、アイスの力でもレードの存在を消滅させる事が可能だと判断したからである。

「そうね・・・。じゃあ好きにさせてもらうわ」

アイスは、レードに近付くと、レードの手首を握り、レードの体ごと引っ張って歩き出した。

「お、おい。俺を何処に連れて行く気だ?」
「何処って、決まってるでしょ。パパを騙して私を殺させたフリーザとセルに復讐しに行くのよ」

アイスは、全てを知りながらも、レードを憎んでいなかった。それを知った瞬間、レードは、腹を抱えて大笑いした。アイスが死んでから今日まで笑っていなかった分を払拭するかのように、しばらく大きな声で笑い続けた。

「ど、どうしちゃったの?そんなにおかしかった?」
「ふー、ふー、笑える。アイス、お前の言う通りだ。あの二人には、きついお灸を据えねばならんな」
「そうね。さあ行きましょ。地獄の暮らしも悪くはないと思うわ」

こうしてレードとアイスは地獄へと旅立っていった。その後、地獄ではフリーザとセルの悲鳴が木霊したという。

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