其の百五十八 最悪の決断

レードが主催した宇宙一武道会。十年前に開催された第一回目は、優勝候補であるレードが準々決勝で敗れ、しかも重体に陥るという波乱が起こった。一時は心臓が止まる事態にまでなった。その後、何とか蘇生したが、意識が無いまま寝台の上に寝かせられていた。そんなレードに、アイスが傍らで必死に呼び掛けていた。

「パパ!死なないで!お願い!目を覚まして!」

レードからの応答は無かった。それでもアイスは、何度も何度もレードに呼び掛けていた。やがてレードは、長い眠りから目を覚ました。目覚めたレードの視界に一番最初に飛び込んできたのは、寝台の横に置かれた椅子に腰掛けて眠っているアイスだった。レードがしばらくアイスを見ていると、医者が近付いてきた。

「おお!レード様。目が覚めましたか」
「・・・アイスは、ずっと僕を看病していたのか?」
「はい。レード様を心配して、寝ないで看病していました。今は疲れて寝ているようですが」
「そうか・・・。皆に僕が目覚めた事を伝えろ」

レードは、医者を下がらせ、それから再びアイスの方を見た。

「僕は、夢の中でアイスの声を何度も聞いた。アイスが居てくれたからこそ、目を覚ます事が出来たのかもしれない」

レードが目覚めたのは、最新科学による医療設備、多くの星から集められた優秀な医者、持ち前の生命力の高さ等があったからだが、レードは、アイスが居たからだと思った。そして、アイスの存在がレードにとって一層大きくなった。

レードが起き上がろうとすると、アイスが目を覚ました。アイスは、レードの復活を喜んだ。ところが、レードが自分を傷付けた者を倒しに行くと言い出すと、表情が一変した。そして、レードを力尽くで押さえ付けた。復活したばかりのレードでは、アイスの力を跳ね除ける事すら出来なかった。

「何を考えてるのよ!折角助かった命なのに!今の状態で闘っても勝てる訳ないでしょ!まずは体を治す事に専念して!それとさあ、お祖父様の真似か何か知らないけど、その変な喋り方も変えた方が良いわよ。普通に話した方が格好良いわ」
「格好良い・・・そうか!」

アイスと接している内に、レードの復讐したいという気持ちが薄れてきた。レードの部下達から悟空達が魔界に行ったという報告を受けても、自分も魔界に行こうとは思わなかった。そんな事より、まずは体を治し、二度と不覚を取らないよう修行に専念するべきだと思った。また、喋り方を標準に戻す練習を始めた。

それからレードの体が完全に回復するまでの間、アイスに頼まれて稽古を付けてやった。そして、意外にもアイスは強かった。無論、レードに比べれば全然だが、レードの他の子供達より遥かに強かった。

後にレードは、悟天からジュオウ親衛隊の個々のメンバーについて詳しく話を聞き、当時の自分では万全の状態でも勝てなかった事を知った。もしアイスが居なかったら、他に誰も止める者が居なかったので、怒りに任せて魔界に乗り込み、間違いなく返り討ちに遭っていただろう。アイスのお陰で、二度も命を救われた。

これだけ自分の事を気に掛けてくれた最愛の娘。その娘を一時の気の迷いで失ってしまった。レードは、改めて自分が犯した最大の過ちを悔いた。そして、これまで抑えていた感情が遂に爆発した。

「孫悟天!認めよう!俺が最も欲しいのはアイスだと!そのアイスが居ない今、この世に俺が望むものは何も無い!宇宙など要らない!帝王の座も要らない!最強にならなくても良い!惑星レードすら要らない!この命すら要らない!全てだ!全てを滅ぼしてやる!」

自暴自棄になったレードは、背後で腕を組みながら成り行きを見守っていたメカ神龍の方を振り向いた。

「メカ神龍!願いだ!俺の理性を破壊しろ!」

レードの余りにも突拍子の無い願いに、悟空や悟天は無論、メカ神龍も唖然とした。アイスを失ったレードの悲しみは、悟天の想像以上に大きかった。抱えきれない悲しみの末にレードが出した結論は、自我を崩壊する事だった。

「ふはははは・・・!レードよ、本気か?一度理性を破壊すると、二度と元には戻らねえぞ」
「構わん。何もかも忘れて、全てを破壊したい」
「良かろう。では、行くぞ」

メカ神龍の目が赤く光った瞬間、レードは、目付きが獣のようになった。そして、唸り声を上げながら、悟天に向かって飛び掛かった。ところが、悟空が超サイヤ人6に変身しながら悟天の前に立ち、レードと手四つの体勢になった。それから悟空とレードは、激しい攻防戦を繰り広げた。

悟天は、超サイヤ人5に変身し、悟空に加勢しようとした。しかし、メカ神龍が悟天の前に立ちはだかった。

「喜べ。この俺様が相手をしてやろう」
「何故レード様の理性を破壊した?そんな事をするよりも、アイスを生き返らせれば、全てが丸く収まっただろうが!」

アイスが生き返れば、レードの悲しみを癒せられる。しかし、生き返ったアイスは、自分を死なせたレードを「裏切り者!」と非難し、拒絶されたレードには新たな悲しみが生まれるかもしれない。それでも互いに生きてさえいれば、いずれ和解する。悟天は、レードのパートナーでありながら、レードの心情に全く寄り添わないメカ神龍に対し、無性に腹が立った。

「自分で言って悲しくなるが、俺様は、不完全な神龍だ。俺様には叶えられる願いと叶えられない願いがある。そして、人を生き返らせるのは叶えられない願いだ。それが出来るなら、ドクター・ハートは、俺様の力でドクター・ブレインを生き返らせていた」
「・・・そうか。役立たずな神龍だな。だったら、どけー!」

悟天は、メカ神龍に飛び掛かったが、メカ神龍に蹴飛ばされてしまった。次にメカ神龍の背後に回ろうとしたが、メカ神龍に動きを読まれ、背後に回る途中で裏拳で顔面を殴られた。ならばとパンチを連打したが、メカ神龍には巧みなフットワークで避けられて一発も当たらず、逆にメカ神龍が出した一発のパンチを喰らい、もんどり打って倒れた。

「弱えな。その程度の力しか無いくせに、レードを救う為に来たとは笑わせるぜ。今のままではレードも孫悟空も救えねえな。見ろよ。このままでは孫悟空は負けるぞ。エネルギーがレードより先に尽きてな」

悟天が悟空に目を向けると、悟空は、必死になってレードと闘っていた。ところが、対するレードは、殴られても蹴られても悟空との距離を詰めてくるので、悟空は、技を使う為に気を溜める時間を作れなかった。肉弾戦に持ち込まれると、エネルギーの消費が激しい悟空の方が不利である。現に悟空の気が急速に減っていた。

「くそっ!そこをどけ!超かめかめ波!」

悟天は、超かめかめ波を放った。それに対してメカ神龍は、右手を出して受け止めようとしたが、超かめかめ波は途中で中心が大きく裂け、メカ神龍の首から下を飲み込むように噛み付いた。しかし、すぐにメカ神龍が超かめかめ波を気合で吹き飛ばした。

「この程度の技を俺様に放ってくるとは笑わせる。本気で俺様を倒す気あるのか?よーし。特別に俺様が技の手本を見せてやろう。殺される前に感謝しろ」

メカ神龍が右手を上に向けると、手の平から七個のエネルギーの球が飛び出した。エネルギーの球は、メカ神龍の周りを飛び回った。

「喰らえ!ドラゴンボール!」

ドラゴンボールと名付けられたエネルギーの球は、悟天に向かって高速で飛来し、次々と衝突した。続けて途中で引き返し、二回三回と悟天に突っ込んできた。ドラゴンボールの動きに統一性が無く、それぞれが個別に動くので、悟天には軌道が読めなかった。それでも悟天は、気功波を放ってドラゴンボールを一つずつ吹き飛ばそうとしたが、途中で向きを変えて気功波を避けられたので、一つも消せなかった。

「何故この技をドラゴンボールというのか教えてやろう。はあっ!」

メカ神龍が両手を挙げると、ドラゴンボールが一箇所に集まり、合体して形を変え、最終的に龍の姿になった。そして、龍が悟天に襲い掛かった。対する悟天は、上空に飛び上がりつつ、十倍かめはめ波を放った。ところが、龍が口からエネルギー砲を放ち、十倍かめはめ波を打ち消した。そして、悟天に迫り、悟天の体に巻きついた。

悟天は、気合で龍を吹き飛ばそうとしたが失敗した。やがて悟天が倒れるのを確認した龍は、束縛を解いて悟天から離れた。しかし、悟天は、急に起き上がり、龍に向けて背後から龍拳を放った。不意を衝かれた龍は、龍拳を受けて消滅した。

「死んだ振り作戦か?せこい手を使いやがって。恥ずかしくないのか?」
「し、仕方ないだろ!力尽くで吹き飛ばせなかったんだから!」
「はっはっは・・・。そう言われるとそうだな。だがな、安心するのは早いぞ。ドラゴンボールは何度でも出せる技。次も同じ様な戦法が通じると思うなよ」

悟天は、メカ神龍との実力の差を痛感していた。そして、悟空の様に超サイヤ人6に変身しなければ、メカ神龍に太刀打ち出来ないと思った。

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