悟空とレードの闘いは、傍若無人なメカ神龍の介入により、仕切り直しとなった。悟空は、レードの計らいにより、共に闘ってくれるパートナーを一人連れてくる事になった。そして、悟空が選んだのは、何と死闘を演じたばかりの悟天だった。悟空が悟天を伴ってレード達が待つ闘技場に姿を現すと、レードが仰天した。
「これはどういう事だ!?俺は、貴様が孫悟飯を連れてくると予想し、孫悟飯を貴様より先に殺そうと目論んだからこそ、貴様に一人連れてくるよう促した。貴様を殺した後だと、孫悟飯が激怒して、より厄介な相手になるのが目に見えていたからな」
武道会終了後のレードの狙いは、悟空の仲間全員を始末する事であった。そして、その際に最も厄介なのは、悟飯だと思っていた。なので決勝戦の舞台で、悟飯を悟空もろとも始末しようと画策していた。
「オラも最初は悟飯を連れてこようと思っていた。でも、控え室に悟天が居て、しかも目付きが昔に戻っていた。オラ達が闘っている間に裏で何が起こったのか知らねえが、元の素直で優しい悟天に戻った事が分かったから、悟天と一緒に闘ってみたいと思い、悟天を選んだ」
レードが悟天の目を見ると、確かに目付きが違っていた。昔の悟天に戻ったと悟ったレードは、次第に怒りが込み上げてきた。
「孫悟天!貴様が孫悟空達と仲違いして居場所を失った時、俺は、貴様に屋敷を与えて住む場所を提供した!大食いの貴様に存分な食事を用意し、トレーニング施設を自由に使わせた!ここまでした俺に対し、貴様は何をしてくれた!?俺の為に惑星を一つでも滅ぼしたか!?俺に対して何の貢献もしてないくせに、俺を裏切るつもりか!?恩知らずな奴め!恥を知れ!」
レードは、悟天の裏切りを許せず、声を荒げて悟天を罵倒した。それに対して悟天は、怯む事なく落ち着いて語り始めた。
「レード様。あなたは、アイスが死んで以降、ずっと苦しみ続けている。その苦しみから解放してあげたい。その為に俺が来ました」
「馬鹿な事をほざくな!アイスが死んだ事など、今では気にもしていない!」
「だったら、どうしてアイスの墓に薔薇の花束を供え続けていたのですか?」
「し、知っていたのか・・・」
悟天の指摘に驚いたレードは、言葉が詰まった。秘密にしているつもりだったが、アイスの墓に薔薇の花束を備え続けていたのは、紛れもない事実だった。悟天は、構わず話し続けた。
「アイスが死んだ時、俺は、凄く苦しかった。そのせいで自分を見失い、暴走してしまった。しかし、俺には仲間が居た。俺がどんな酷い仕打ちをしても、俺を信じ続けてくれた仲間が居た。彼等が居たからこそ本来の自分を取り戻す事が出来た。一方、あなたの苦しみは俺以上だ。何故なら、アイスは、あなたにとって唯一の心の拠り所だからだ。そのアイスが死んだ時、一ヶ月以上も絶食していた。そして、あれ以降、一度も笑っていない」
悟天の指摘は正しかった。実際にレードは、アイスが死んでから、一度も人前で笑わなかった。レードの雰囲気が以前と変わった位なら悟空達も気付いていたが、レードが一切笑わなくなった事は、側に居た悟天だからこそ気付いた。
「あなたが本当に欲しいのは、宇宙でも最強の座でもない。アイスです。あなたにとってアイスは、掛け替えの無い存在です。あなたがどんなに強がっても、一人では苦しみを乗り越える事は出来ません。あなたには苦しみを共有出来る仲間が必要です。俺がその仲間になります。その為に、ここに来ました」
レードは、俯き、何も言い返せなかった。そして、何故か次々と昔の事が頭に浮かんできた。
およそ三十年前。当時のレードは、子供の頃に虐げられた過去の体験から世の中を恨み、憂さ晴らしとして侵略した星の住人を皆殺しにしていた。ある時、大陸の全てに雪が積もっている極寒の星を攻めた。レードの兵士達は、命令に従って星に住む人々を虐殺し、遂には王宮に侵入して王を殺した。そして、レードは、王宮の外で空飛ぶ玉座に腰掛けながら、兵士の報告を嬉々として聞いていた。
「レード様。王を殺しました」
「おう、よしよし。これで、この星も私のものになりましたね」
「それと、レード様。王宮の中に王女が居たので捕らえたのですが、いかがしますか?」
「ここに連れてきなさい。殺す前に話位は聞いてあげましょう」
「かしこまりました」
レードの前に王女が引きずり出された。王女は、体を縄で縛られ、体の数箇所から血が滲み出ていた。捕らえられる時に抵抗したので、怪我を負っていた。しかし、下を向き、目の前のレードと向き合おうとしなかった。王女を連れてきた兵士は、王女に対して怒鳴った。
「おい!顔を上げろ!レード様に対して失礼だぞ!」
兵士は、王女の首根っこを掴み、強引に顔を上げさせた。その瞬間、レードは、王女の余りの美しさに心を奪われてしまった。これまで女性の事を子供を生む為の道具としか見ていなかったレードにとって、生まれて初めての体験だった。なので殺さずに惑星レードに連れ帰った。そして、元王女の機嫌を取るべく、美しい花やらドレス、宝石を与えた。しかし、故郷を滅ぼされた元王女の恨みは深く、決してレードに心を開かなかった。
やがて元王女は、レードの子供を身籠った。ところが、レードの子供を生むのを嫌がり、隠し持っていたナイフで自害しようとした。この時は側に居た兵士達が慌てて取り押さえたので事無きを得た。この報告を聞いたレードは、女性の部下達に二十四時間体制で元王女を監視させた。
数ヵ月後、元王女は、女の子を産んだ。レードの子供にしては珍しく人型の赤ん坊だった。元王女を監視し続けていた部下達は、一斉に赤ん坊に注目した。しかし、元王女は、監視の目が緩んだ隙に自殺してしまった。この報告を聞いたレードは、非常に落胆し、人の恨みの大きさを知った。それからも侵略活動を続けたが、これまでの様な皆殺しをしなくなった。殺すのは抵抗する者だけに留め、生き残った者が全く役に立ちそうになくても部下として用いる事にした。
レードは、元王女の忘れ形見である赤ん坊を「アイス」と名付けた。そして、自分の手で育てたいと思った。ところが、レードの他の子供達は、別の星で育てさせて会いもしないのに、その子だけ特別扱いするのは示しがつかないと思い、その子も止む無く別の星で育てさせる事にした。しかし、特別頑丈なプロテクターと、その子の声に反応して形状を変える武器を持たせた。
時は流れた。レードは、宇宙一武道会を開催する事を決定し、会議室で幹部達と武道会の細かな打ち合わせをしていた。
「レード様。武器の持ち込みはどうしますか?」
「許可しましょう。どんな武器を用いようと、私に通じるはずありませんからね」
レードが余裕の表情で武器の持ち込みを許可した時、会議室の外から騒音が聞こえてきた。
「お嬢様!そこに行ってはいけません!お嬢様!」
レード達は、会議を中断し、幹部の一人が注意する為に部屋の外に出ようとした。ところが、その前にドアが開かれ、一人の若い女性が部屋の中に入ってきた。大事な会議の最中に部屋の中に入ってくるなど言語道断。この女性は激怒したレードに殺されるだろうと幹部達は思った。しかし、当のレードは、怒るどころか固まっていた。その女性の美しさに一瞬で心を奪われていた。そして、その女性は、レードに笑みを浮かべながら話し掛けた。
「初めまして、パパ」
「パパ!?も、もしかして、あなたは、アイスですか!?」
「ええ、そうよ。それより、パパ。私も武道会に参加するわ」
レードの目の前に現れたのは、美しく成長した娘のアイスだった。レードは、ようやく娘に会えた喜びと、自分の娘だから決して自分とは結ばれない失恋の悲しさを同時に味わった。
「ねえ、パパ。私も出場して良いでしょ?」
「何を言ってるのですか。あなたが出場しても勝てるはずないでしょう」
「心配要らないわ。私にはこれがあるから」
アイスは、レードの目の前に、長さ一メートル程の棒を差し出した。それはレードがアイスに与えた、アイスの声に応じて形状を変える武器だった。
「アイス。残念ですが、武器の持ち込みは禁止です」
「ええー!そんなー!何とかならないの?」
「何ともなりません。分かったら大人しく武道会を観ていなさい。それと、孫悟空達にあなたの存在を気付かれないよう気を消してなさい」
レードは、許可すると言っていた武器の持ち込みを禁止にした。突然のレードの方針転換に、幹部達は唖然とした。これは命を落とすかもしれない危険な武道会に、大事なアイスを出場させない為のレードの気遣いだった。
こうしてアイスを抜きにして宇宙一武道会が開催されたが、思わぬ展開を迎えた。そして、その出来事がレードとアイスの絆を一層深める事になった。


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