其の百三十七 天才と超天才

ピッコロと闘い、辛くも勝利したハートボーグ五十八号は、切断された自分の左腕を持って控え室に戻った。そこで待っていたのは、立腹しているドクター・ハートだった。

「情けないわね!ピッコロ位、楽に殺せると思っていたのに、勝つのがやっとだなんて!」
「も、申し訳ありません」
「ふん!まあ良いわ!その左腕を接合するから、付いてらっしゃい!」

ドクター・ハートは、五十八号を連れ、控え室から出て行こうとした。ところが、急に立ち止まると、同じ控え室の中に居た悟天の方を振り向いて話し掛けた。

「孫悟天。私は、あなたの事を信用していない。いずれ孫悟空達の元に帰るでしょうね」
「そんな事はしない!俺を見縊るな!」
「口では何とでも言えるから、行動で示してもらうわよ。次の試合でトランクスの首を切断し、それを持ち帰りなさい。あなたは残酷な殺し方をする必要があるの。孫悟空達が、あなたを取り戻すのを諦める位のね」

悟天がトランクスを無慈悲に殺せば、ベジータやブルマ、ブラやパンは、悟天を激しく憎むようになる。そうなると、例え悟天が改心しても悟空達の元に帰れない。それを見越したドクター・ハートの冷酷な提案だが、悟天は拒めなかった。

「・・・分かった。トランクスの首を持ち帰ってくれば良いんだな」
「期待してるわよ。それが出来れば、あなたは何の迷いも抱かずに孫悟空を殺せるようになるわ」

ドクター・ハートは、冷笑を浮かべながら五十八号と共に退室した。

一方、控え室には悟天とゴカンだけが残ったが、ゴカンが腹立たしげに怒鳴った。

「何なんだよ、あの女は!偉そうにしやがって!父ちゃん、あの女を殺しても良いか?」
「駄目だ。あんな女でも殺せば、レード様に迷惑が掛かる」
「そう言えば、その爺ちゃんは、何処に行ったんだ?何で戻ってこないんだ?」
「半年間も惑星レードを留守にしていたんだ。やらなければならない仕事が山積し、今は仕事に追われているのだろう。それでも自分の出番になったら戻ってくるはずだ」

それから間も無くして、トランクスと悟天の登場を促すアナウンスが流れた。トランクスが闘技場に颯爽と姿を現すと、そこには既に悟天が腕を組んで待っていた。

「よく逃げずに来たな。そこだけは褒めてやろう」
「悟天!お前は間違っている!しかし、お前が悪い訳じゃない!騙されているんだ!まずは俺の話を聞け!」
「話と言っても、どうせ命乞いだろ?そんなものは聞きたくない」
「違う!話とは真相だ。それを聞けば、悟空さんを憎むのが間違いだと気付くはずだ」

トランクスは、ベジータから聞いたアイスの死の真相を悟天に伝えるつもりだった。ところが、悟天は、聞く耳を持たなかった。

「お前の話など聞くつもりはない!どうしても聞かせたいなら、俺に一撃を当ててからにしろ。どうせ無理だがな」
「舐めやがって!圧倒的に強くなったのが自慢らしいが、俺を見縊るなよ!」

トランクスは、さっと身構えた。二人の会話中に試合開始を告げるアナウンスが流れていたので、もう闘っても問題なかった。トランクスは、悟天に向かって飛び掛かって激しい攻撃を次々と繰り出したが、悟天は、余裕の表情で全て躱した。

「どうした?その程度のスピードでは、俺に当たらないぞ」
「五月蠅い!これでも喰らえ!」

トランクスは、エネルギー波を放ったが、それを悟天が気合で搔き消すと、衝撃波でトランクスを無人の客席まで吹っ飛ばした。トランクスは、すぐに立ち上がると悟天に向かって体当たりした。しかし、悟天は、右手だけで体当たりを受け止め、トランクスを上空高く蹴り上げた。そして、自身も上空に飛び上がり、トランクスを床に叩き落とした。トランクスは、床に激突したが、ふらつきながら立ち上がった。そのトランクスの目の前に、悟天が腕を組んだまま降り立った。

「くっくっく・・・。まるで相手にならんな」
「な、何故だ!?何故お前との実力差が、こんなにも開いたんだ!?俺は、修行を怠っていた訳じゃない。そもそも子供の頃から俺は、お前に一度も負けた事がなかった」
「確かに俺は勝てなかった。しかし、毎回ほぼ互角だった事に疑問を感じないのか?」
「何?どういう意味だ?」

悟天の問い掛けに対してトランクスは、答えられなかった。質問の意図が分からなかったからである。トランクスがまごついてると、悟天が得意気に語り出した。

「分からないなら教えてやろう。子供時代、俺と貴様は、揃って天才と言われていた。しかし、実は俺と貴様には、大きな違いがあった。まず貴様にはベジータが師として鍛えてくれた。また、貴様は重力室で修行していた。更に貴様は俺より一つ年上だ。子供の時の年齢の違いは、大人より影響が大きい。それだけ貴様に優位な条件が揃っていたのに、貴様は俺に圧勝出来なかった。立場が逆だったら、貴様は俺にボロ負けしていたはずだ」

悟天は、トランクスの優位点を挙げ、自分との違いを強調した。しかし、トランクスが即座に反論した。

「お前だって悟飯さんに鍛えられていただろ?」
「当時の孫悟飯は、勉強に夢中で、俺を鍛えなかった。奴が俺に教えたのは舞空術だけだ。俺の修行は、ほとんどが貴様との対決ゴッコだ。俺は、それだけで貴様に後一歩の所まで追い付いていた。しかも対決ゴッコは遊びのようなものだ。修行ではない。俺が子供の時に真面目に修行したのは、天下一武道会の直前と、打倒魔人ブウに燃えていた時だけだ」

この他にも悟天は、チチから武術を教わったが、基本的な事しか教わらなかった。チチでは、とても悟天の組手の相手が務まらなかった。おまけにチチには家事があるので、長い時間を取れなかった。悟天が一人で修行する時もあったが、所詮は子供がする事なので、長時間続かなかった。トランクスがベジータの元で真剣に修行していた時、悟天は一人で遊んでいた。修行の量も質も、トランクスの方が遥かに上だった。

「しかし、悟空さんが生き返ってからはどうだ?悟空さんなら鍛えてくれたはずだぞ」
「確かにな。しかし、俺は、修行をサボりがちだった。元々、大した苦労しないで強くなれたから、長く苦しい修行には耐えられなかった。対決ゴッコなら遊び感覚で続けられたが、何時しかそれも飽きて止めてしまった。しかも孫悟空は、俺よりも自分自身の修行に目を向けていたから、俺が修行しないでも余り気にしなかった」

甘やかされて育った悟天は、厳しい修行を進んで受け入れる事が出来なかった。それが誰よりも優れた才能を有しながら、群を抜いた存在になれなかった理由であった。

「これで分かったろう。天才は貴様一人だけで、俺は超天才だったのだ」
「馬鹿を言え!子供の時に限らず、大人になってからも、数年前までは俺の方が強かった。一緒に修行していた期間だってあったぞ。お前が超天才なら、もっと前から俺を超えていたはずだ」
「それは俺が貴様に負け続けたせいで、俺の潜在意識の中で、どんなに頑張って修行しても貴様を追い越せないと思い込んでいたからだ。それが俺の成長にブレーキを掛けていた」

人は、自分の限界を決めてしまうと、それ以上は成長しなくなる。悟天は、トランクスと何度闘っても一度も勝てなかったから、自分ではトランクスに勝てないと無意識に思い込んでいた。悟天にとってトランクスは、自分を鍛えてくれる存在だったが、同時に越えられない壁ともなった。

「しかし、俺が孫悟空を殺す事を意識するようになると、これまで超えられなかった貴様を簡単に超えた。俺の潜在意識の中で、貴様という壁が無くなったからだ。現に俺は、バトルフィールドでの闘いから一月後に超サイヤ人5に覚醒した。貴様も超サイヤ人5になれるようだが、俺より早く変身が出来るようになった訳ではあるまい」
「一月だと!?お前は、俺より一年も前に変身していたのか・・・」

トランクスは、悟天に軽い嫉妬を覚えた。

「俺が本気で修行すれば、貴様を超えるなど実に簡単だ。今まで負け続けた分を、まとめて精算してやろう。貴様の命でな」
「親である悟空さんだけでなく、親友の俺まで殺すつもりか?そこまで堕ちたか!?」
「何とでも言え。もう俺は昔の俺ではない」
「お前を止める!出来る出来ないではない。どうしても止めなければならないんだ!」

トランクスは、悟天との実力差を感じつつも、絶対に負けられないと思った。

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