其の百三十八 悟天の逆上

かつて天下一武道会の少年の部の決勝戦で闘ったトランクスと悟天が、宇宙一武道会の準々決勝で再戦した。しかし、かつての様な互いの技量を競い合う清々しさは無く、血みどろの闘いとなっていた。尤も血みどろになってるのはトランクスだけで、悟天の体には傷一つ無かった。以前は互角の実力だった二人だが、今では悟天が大きく引き離していた。

窮地に立たされたトランクスは、超サイヤ人5に変身して悟天に飛び掛かった。しかし、同じく超サイヤ人5に変身した悟天に蹴飛ばされて返り討ちにあった。

「ふっ。お互い超サイヤ人5に変身出来るんだ。変身しても優劣が変わる訳ないだろう。それとも、こっちは超サイヤ人4の状態で闘ってやろうか?それなら良い闘いになるかもしれないぞ」

悟天は、挑発的な態度を取り、超サイヤ人4にランクダウンした。ところが、対するトランクスは、変身そのものを解いた。幾ら実力が数段上とはいえ、悟天の人を見下した態度に、トランクスのプライドが許せなかった。

「ふっ。折角チャンスをやったのに、それをどぶに捨てるとはな。呆れた馬鹿野郎だ」

悟天も変身を解いた。そして、大きな欠伸をした。

「実力差があり過ぎると、闘いが一方的になって面白くないな。そろそろ終わらせるとするか。だが、心配しなくて良い。一瞬で殺してやるから、苦しまずに済む」
「・・・そうか。なら、これだけは言っておきたい。お前は、力が相当強くなったのが自慢らしいが、心が随分弱くなったぞ!」
「ふん。下らん負け惜しみか・・・」

悟天は、鼻で笑ったが、トランクスの次の台詞で表情が一変した。

「お前は、臆病者だ!俺の話を聞くのを恐れているからな!」
「何だと!?俺は、恐れてなんかいない!下らん戯言を聞きたくないだけだ!」
「どうして聞いてもいないのに、下らん戯言と言い切れるんだ!?俺の話を聞くのを恐れていないなら、俺が何を話しても笑って聞き流せるはずだ!それが出来ないから臆病者なんだ!」

悟天は、言い返せなかった。ただ黙って拳を握り締めていた。そして、トランクスに向かって歩き出し、目と鼻の先で止まった。それから右の頬をトランクスに突き出した。

「ほら!殴れよ!俺に一撃を浴びせて話をしたいんだろ?さっさとやれ!」

悟天は、話を聞くのを恐れていないとアピールする為、わざわざ殴られ易い位置に移動し、トランクスに自分を殴らせようとした。トランクスは、遠慮せずに悟天の頬を殴った。傷付いて弱っていたので悟天の頬に傷を付けれなかったが、そんな事を気にもせず、ようやく話が出来ると安堵の溜息を吐いた。

「よく聞け、悟天。これを聞けば、悟空さんを憎むのが間違いだと気付くはずだ」

トランクスは、ベジータから聞かされたアイスの死の真相を話した。トランクスが話をしている間、悟天は、話の腰を折らず、最後まで黙って聞いていた。

「・・・以上が真実だ。辛い思いをしたのは分かるが、だからと言って何をしても許される訳ではない。はっきり言って、お前がした行為は最低だ。だが、今ならまだ間に合う。試合が終わったら悟空さんに会い、今までの数々の無礼な態度について謝罪しろ。そうすれば、全てが丸く収まる。悟空さんだって許してくれるさ」

話し終えたトランクスは、続いて悟天を諭した。これで悟天の目が覚め、悟空との仲が修復すると信じていた。

「この話を、控え室に居る皆は知っているのか?」
「ああ。お前の事を誰もが同情していたぞ」
「同情だと?嘘付け!どうせ馬鹿にして笑ってたんだろ!俺の事をな!」
「は?何を言ってるんだ?そんなはずが・・・」
「俺を馬鹿にするなー!」

現実は残酷だった。トランクスの話で悟天が改心すると思いきや、却って悟天の怒りに火を注ぐ結果になってしまった。激怒した悟天がトランクスに殴り掛かった。トランクスは、防御したが、勢いよく殴り飛ばされた。

「な、何て強さだ・・・。悟空さんを超えたかもしれない」

強烈な一撃を喰らったトランクスは、最早闘う所か、立ち上がる事すら出来なかった。この時点で、トランクスは戦闘不能と見なされ、悟天の勝利がアナウンスされた。ところが、悟天の怒りは収まる気配が無く、鬼の形相でトランクスに近付き、何度もトランクスを足蹴にした。

「この野郎!昔の誼で、せめて楽に死なせてやろうと思ったが、もう止めだ!人の傷口に塩を塗る真似をしやがって!殺す前に存分に苦しめてやる!」
「ど、どうして分かってくれないんだ?俺達は、お前の事を心配して・・・」

悟天は、トランクスを殺さないよう力を抑えながら、情け容赦無く攻撃し続けた。対するトランクスは、身動きすら出来ずに傷だらけになった。しかし、体よりも心に深い傷を負っていた。試合前から勝てないのは分かっていた。殺されるかもしれないと思っていた。それでもトランクスが悟天との試合に臨んだのは、親友として心から悟天を心配し、何とかして悟空との仲を取り持とうとしたからだった。ところが、悟天にはトランクスの想いが届かなかった。

この時、悟空が瞬間移動で闘技場に現れ、悟天を蹴飛ばした。悟空は、悟天の蛮行を観て、居ても立ってもいられずに乱入した。続けて駆け付けた悟飯がトランクスを介抱した。一方、悟天は、立ち上がると、悟空に向かって怒鳴った。

「孫悟空!これは俺とトランクスの試合だ!邪魔をするな!」
「もう試合は終わったんだ!これ以上の攻撃は必要ねえ!」
「五月蠅い!俺は、これからトランクスの首を刎ねるんだ!」
「悟天。そんな事を父さんや俺がさせると思っているのか?」

悟空の隣に悟飯が立ち、二人で悟天と真っ向から向かい合った。

「ちっ、貴様等二人を同時に相手にするのは、流石に分が悪い。ここは大人しく引いてやるか」

不利を悟った悟天は、あっさり引き下がった。

「トランクスに酷い事をしやがって・・・。恥ずかしくねえのか!?」
「俺に舐めた口を叩いた罰だ。この程度で済んで良かったと感謝して欲しい位だ。しかし、次の準決勝の試合は、こんな生易しいものではないぞ。まあ、貴様がゴカンに勝てればの話だがな。ゴカンは、俺を超える天才だ。子供だと思って甘く見てると、痛い目に遭うぞ。くれぐれもあっさり負けて、俺を失望させるなよ」

悟天は、反省の色を見せずに闘技場を去っていった。そして、悟天がレード側の控え室に向かう通路を歩いていると、チチが涙目で現れた。その両隣に、ピッコロとウーブが居た。チチが再び悟天に会うと言って聞かないので、チチに危害が及ばないよう二人が護衛していた。

「悟天!一体、何が不満なんだ!?悟空さに非があるなら、悟空さを謝らせる。オラに非があるなら、オラが謝る。だからお願いだ。元の素直で優しい悟天に戻ってけれ!」
「まだそんな事をほざいているのか・・・。消えろ!二度と俺に顔を見せるな!」

チチの精一杯の訴えも、悟天の心には響かなかった。この悟天の態度に、ピッコロが立腹した。

「悟天!幾ら何でも言い過ぎだぞ!」
「偉そうに俺を叱るんじゃねえ!」

悟天は、ピッコロの胸部を殴った。ピッコロは、痛みの余り、その場に蹲った。

「悟天さん!何て事を!」
「俺に口答えするんじゃねえ!」

悟天は、ウーブの腹部を殴った。ウーブは、血を吐いて倒れた。そして、チチは、涙を流しながら、「もう止めてけれ!」と絶叫した。

「悟天。悟空さを殺した後は、どうする気だ?まさかレードと手を組んで、宇宙を支配するつもりじゃねえだろうな?」
「宇宙の支配か・・・。それも悪くないな。孫悟空達を一掃すれば、俺達に敵は居ないからな」

チチが最も聞きたくない言葉だった。チチは、ショックの余り腰を抜かした。しかし、悟天は、母親を心配する素振りすら見せず、その場を立ち去った。チチは、去り行く悟天の背中に向かって、「悟天!」と大声で叫んだ。それは、怒りとも悲しみとも受け取れる叫びだった。しかし、悟天は、立ち止まる所か、振り向きさえしなかった。

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