其の百三十二 ルール無き闘い

ドクター・ハートの怒りは、しばらく収まりそうもなかった。これ以上ドクター・ハートの怒声を聞いてられないと思ったレードは、控え室を出てメディカルマシーンがある部屋に向かおうとした。ところが、部屋を出て歩き出すと、慌てて追いかけてきたハートボーグ五十七号に呼び止められた。

「おい!レード!お前の力の一部をくれる約束だぞ!次は俺の試合だ!早くしろ!」
「それが人にものを頼む態度か?『お願いします』だろ?」
「そんな事、誰が言うか!お前が力を寄越さないなら、俺は試合放棄するぞ!」
「放棄したければすれば良い。俺に殺されたければな」
「やれるものなら、やってみやがれ!そんな疲れた体で俺を殺せると思っているのか?」

五十七号の強気な態度に呆れたレードだが、すぐに目付きが鋭くなり、「バージョン2!」と叫んだ。するとレードの全身が硬い皮膚で覆われた。そして、レードの背中のラインを境に背中が二つに裂け、裂け目から複数の何かが飛び出した。その何かを観た五十七号は、態度が一変した。

「ま、待て!俺が悪かった!お、お願いします!俺に力を下さい!」
「最初からそう言えば良いんだ。お前に与える力とは、こいつ等の事だ。孫悟飯との試合では、こいつ等と共闘しろ」
「力の一部とは、そういう事だったのか・・・。これなら孫悟飯に勝てるぞ!」

五十七号は、自身の勝利を確信して歓喜した。もう用が済んだと思ったレードは、その場を離れようとしたが、再び五十七号に呼び止められた。

「ま、待ってくれ。彼等を連れて闘技場に行ったら、孫悟飯の仲間達も来るかもしれない。『こんなのフェアじゃない。俺達も一緒に闘うぞ』とか言ってな。そうなってしまっては、俺の優位性が失われる。出来れば彼等の存在を試合開始前まで隠しておきたいのだが・・・」
「こいつ等は、体の大きさを自由に変えられる。サイズを小さくして、隠して連れて行けばいい。もう用は無いな?俺は行くぞ」

レードは、バージョン2を解除し、足早に去っていった。

その数分後、第七試合の開始を告げるアナウンスが流れた。すぐに悟飯は闘技場に現れ、五十七号も笑みを浮かべながら登場した。二人は闘技場の中央で向かい合った。

「貴様みたいな奴が、よく今日まで生き延びられたな。悪運だけは強いようだ」
「ふっ。これから先も俺は生き続けるぞ」
「大した自信だな。俺が貴様を生かしておくと思うか?」
「お前がどれだけ強くなっても、俺には勝てない。それを今から証明してやる」

この時、試合の開始を促すアナウンスが流れた。悟飯は、五十七号に飛び掛かったが、左頬に何かが当たって突撃を妨害された。しかし、何が自分に当たったのか、悟飯には分からなかった。悟飯が首を左右に振って探してみると、背後から何かが当たってきた。しかも一つではなかった。

「当たった時の感触から判断して、非常に小さなものだ。それに、かなりのスピードだ。一体、何だ?」

その後も正体不明の何かが悟飯に当たってきた。しかし、やられっ放しでいる悟飯ではなかった。まず五十七号を観察したが、何も怪しい動きをしていなかった。次に五十七号が超能力で何かを動かしてると思ったが、複数なのに一定ではなく不規則な動きで当たってくるから、その可能性も無かった。そもそも五十七号に、そんな能力は無かった。ならば五十七号の仕業ではなく、何か別の存在が居る事になる。そこで気を探り、正体を探る事にした。

悟飯は、目を瞑り、周囲の気を探った。そして、急接近してきた何かを右手で掴んで捕まえた。次に触感から正体を確かめると、人の形をした何かだった。しかもその何かは、悟飯に強く握り締められているのに、潰されずに生きていた。それどころか、隙を見て脱出して飛び上がり、再び悟飯に向かって飛んできたが、待ち構えていた悟飯に弾き落とされた。固い床のタイルに叩き付けられ、流石にダメージを負って震えていたが、まだ生きていた。

「こいつは何だ?小さいくせに驚く程タフだ・・・。むっ!」

床に倒れているのとは別の何かが、一斉に悟飯に向かって飛び掛かってきた。しかし、悟飯は、気を開放して吹き飛ばした。吹っ飛ばされた何かは、もう奇襲作戦が通じないと思い、体のサイズを大きくした。倒れていた者も立ち上がって大きくなった。徐々に肉眼で見えるようになった何かを観た悟飯は、思わず仰天した。全部で五人居て、全員がレードに似ていたからである。しかし、その何かは、全身が硬い皮膚で覆われていた。そして、頭には一本の角が生えていた。

「レードに似ているが、レードではない。何者だ?」
「レードの分身だ。俺達は、体の大きさを自由に変えられる。なので体を小さくして、ここに五十七号と共に来た。そして、試合が始まったら、お前に奇襲を仕掛けた」
「分身だと!?これもサイボーグに改造された事で得られた能力の一つか?」
「まだ驚くのは早いぞ。はあっ!」

レードの分身達は、一斉に気を高めた。これまでは悟飯に存在を気付かれないよう気を抑え、攻撃する時だけ気を高めていた。しかし、もう隠す必要が無いので、遠慮無しに気を高めた。その気の大きさから判断すると、一人一人が五十七号を優に超える強さを持っていた。しかも、まだ全力ではなかった。

「一対一の闘いのはずなのに、敵側には次から次へと助っ人が出てくる。セルは試合中に自ら生み出したからセーフだとしても、これは完全にアウトだろ。しかも主催者がするとはな・・・。もうルールもへったくれも無い武道会だな」

一方、控え室で観戦していた悟天とゴカンは、レードの分身達を観て、ある敵を思い出していた。

「かつて俺達が闘ったジンの分身の様だ。あれは一体・・・?」

首を傾げる悟天親子に対してドクター・ハートは、得意気に説明を始めた。レードが目の前から居なくなったので怒りが収まっていた。

「あれはレードの分身よ。レードが産み出したの。レードは、バージョン2になると、ジンになれるの。レードがジンに改造されたと考えれば、分かり易いでしょ?」
「しかし、あのレード様の分身は、ジンの分身より気が大きいぞ!」
「ジンは、非力なドクター・キドニーが改造された生物。でも、相当強かったでしょ?だったら元々強いレードが改造されれば、ジン本人より遥かに強くなるのが当たり前でしょ?」

既存の知識を吸収し、それを応用する技術に長けているドクター・ハートは、ドクター・キドニーがどんな改造をしてジンになったのかを把握していた。そして、その知識を元にレードを改造した。ただし、ジンの特性が発揮されるのは、レードがバージョン2になった時のみだった。

「分身であれだけの気だ。バージョン2になった時のレード様は、少なく見積もってもバージョン1以上のはずだ」
「当たり前でしょ。バージョン1なんて単なるおまけ。半年前の孫悟空の力で、今の孫悟空に勝てるはずないからね。バージョン2以降が本番よ」
「先の試合でレード様の力を疑問視していたが、その心配は杞憂に終わりそうだ」

一方、援軍を得て意気揚々の五十七号は、偉そうにレードの分身達に命令した。

「さあ!レードの分身達よ!一斉に孫悟飯を襲え!但し、止めだけは刺すなよ。止めは俺が刺すんだからな」

ところが、レードの分身達は、一人も悟飯に飛び掛かろうとはしなかった。

「おい!どうした?早く攻撃しろ!」
「五月蠅い!何でお前に命令されないといけないんだ!?」
「ガタガタ抜かすな!とっととやれ!」
「自分より弱い奴の命令なんて聞いてられるか!お前を助ける義務なんて無い!」
「性格までレードそっくりだ。わ、分かった。お願いします。孫悟飯と闘って下さい」

五十七号が折れたので、ようやくレードの分身達は、悟飯と対峙した。

「これは俺と五十七号の試合だ。部外者は引っ込んでろ」
「そんな事を言って良いのか?むしろ感謝すべきじゃないのか?お前と五十七号の実力差は明白だ。俺達が居なければ、五十七号は試合放棄していたぞ」
「五十七号に逃げられるのも困るな。ハンデと思えば良いか。さっさと貴様等を片付けて、後ろに控えている弱虫を引っ張り出すとするか」

十年の時を経て、やっと憎き五十七号と再戦出来ると思った悟飯だが、思わぬ邪魔に入られた。しかし、一向に落胆していなかった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました