悟空と天津飯の闘いは、序盤は天津飯が優勢だった。天津飯の多種多様な技と、それ等を組み合わせた戦法の前に、悟空は持ち前の力を活かせずに苦戦を強いられていた。
四人の天津飯は、再び気と姿を消した。そして、天津飯の一人が悟空を背後から羽交い絞めではなく、悟空の両方の足首を掴んだ。次も羽交い絞めされると悟空が予想して待ち構えていただけに、またもや虚を衝かれた。次に悟空の足首を掴んでいる天津飯が静止拳を使って悟空の時を止め、時を止められた悟空の前に、静止拳の適用範囲から僅かに外れる位置で、二人の天津飯が背を向ける形で赤色となって現れた。
二人の天津飯は、客席の前で印を結んで立っている状態で現れた天津飯に向け、新気功砲を放った。二つの新気功砲は合体し、気功倍返しで倍の力になって跳ね返り、飛び上がった二人の天津飯の下を通過して悟空の手前で止まった。
ところが、静止拳の効果が切れた瞬間、悟空がかめはめ波を放った。静止拳をされる直前、またもや正面から合体新気功砲が来ると予想していた悟空は、それに対処する為に、かめはめ波の準備をしていた。そして、時が動き出すと、合体新気功砲が来てるかどうか確認せず、かめはめ波を急いで放った。かめはめ波は、合体新気功砲と激突し、大爆発を起こした。至近距離からの爆発に巻き込まれた悟空だが、気功砲の直撃を免れたので、ダメージは軽微だった。
爆発によって闘技場に煙が立ち込めた。そして、煙が四散すると、悟空の足首を掴んでいた天津飯は、足首から手を離して立ち上がった。この天津飯も爆発に巻き込まれていたが、大きなダメージを受けていなかった。
「お前との力の差を痛感させられる。咄嗟に放ったかめはめ波が、合体して倍加した新気功砲を相殺したんだからな」
「もしオラがかめはめ波をしてなかったら、おめえは死んでたぞ。足首を掴んでたから、オラの足と足の間から気功砲を喰らってたはずだからな」
「何度も言わせるな。俺は、お前に勝てるなら死んでも構わないと思っている」
天津飯は、命懸けで放った合体新気功砲が、悟空が瞬時に放ったかめはめ波に打ち勝てなかった事を悔しがった。もう一つ悔しかったのは、悟空に合体新気功砲を当てられなかった事だった。先程と同じ羽交い絞めでは、悟空に見抜かれて上手く対処されると思い、両足を掴んだまでは良かった。しかし、悟空が即座にかめはめ波を放って合体新気功砲に対応した。少し変化を加えても、やはり悟空に同じ手は通用しないと改めて思い知らされた。
天津飯達は、奥の手を使うしかないと思った。威力があり過ぎて悟空の命を奪いかねないので、試合前は使わないで済む事を願っていた。しかし、事ここに至っては、他に勝つ方法を思い付かなかった。
覚悟を決めた天津飯達は、一斉に四妖拳で背中に二本の腕を生やした。そして、再び姿を消した。ただし、気までは消さなかった。気を消さないので、姿が見えなくても天津飯達が何処に居るのか悟空には明白だった。
「何のつもりだ?気を消さなかったら、姿を消しても意味がねえぞ」
「これで良いんだ。目に見えなかったら、俺達の居る位置は分かっても、攻撃までは見切れまい」
天津飯達が一斉に飛び掛かった。悟空は、迎撃しようとしたが、思わぬ苦戦を強いられた。天津飯達が来てるのは気で分かるが、一つ一つの攻撃が見えない上に、腕が全部で十六本もあるので、全ての攻撃を裁き切れなかったからである。何度も攻撃を喰らい、両腕を掴まれて上空に投げ飛ばされた。
それから天津飯達は全員が赤色となり、上空の悟空に向けて新気功砲を放った。一人一人が元々ある両手と、背中から生えた両手から一発ずつ放ったので、全部で八つの新気功砲だった。それが一つに合体して巨大な合体新気功砲となって悟空に迫った。悟空は、避けられずに当たってしまい、落下した。しかし、意識を失っていなかったので、床に激突しないで着地した。
「あいててて・・・。流石に今のはやばかったぞ」
「次にもう一度喰らえば、命に関わってくるぞ。降参しろ」
「降参なんかしねえよ。もう二度と喰らわねえからな」
「自分には同じ手が通用しないという絶対の自信があるようだな。良いだろう。それがこれにも当てはまるか試してやろう」
天津飯達は、再び姿を消し、一斉に飛び掛かった。ところが、悟空には自分達の姿が見えていないはずなのに、何故か攻撃を避けられた。それどころか、逆に悟空の方が天津飯達に攻撃を当ててきた。思わぬ反撃に動揺したので、闘いを中断して悟空に尋ねた。
「どうして俺達の攻撃を避けられるんだ?見えていないのに・・・」
「空気の流れを読んだ。そうすれば見えなくても、おめえの動きは手に取るように分かる。さっき羽交い絞めされた時や足首を掴まれた時だって、空気の流れを読んでいれば避けられたんだ。おめえが気を消していてもな」
「なるほどな・・・。やはり同じ手は通じないか」
ボラリス戦でゴジータがしたのと同様に、悟空は、天津飯の動きを空気の流れで把握した。空気の流れさえ読めば、実際に目で見なくても、相手の動きが手に取るように分かる。最初からこうしていれば、天津飯達の一連の攻撃を回避出来ていただろう。しかし、天津飯達がどういう攻撃をしてくるのか興味があったので、途中まで敢えて使わなかった。
最後の奥の手も、もう悟空には通じないと判断した天津飯達は、観念して姿を現した。
「大した奴だ。俺がどんな技を繰り出しても、どんな戦法で攻めても、即座に対応してしまう。出来れば策に頼らず、純粋な力で勝負したかった」
「やっぱり闘いというのは、体と体でぶつかり合うもんじゃねえのか?おめえだって策を用いて勝つより、正々堂々と闘って勝つ方が嬉しいだろ?」
「確かにな。それに策を用いるにも限度がある。良いだろう。受けて立つ」
天津飯達は、悟空との肉弾戦に応じた。不利と分かっていても応じたのは、武道家としての性だった。そして、攻撃重視の赤色となり、悟空との決戦に臨んだ。
悟空と天津飯達は、この試合で初めて正面から激突した。ようやく本来のスタイルで闘える悟空は、天津飯の腕が四本あろうと、四人居ようと関係なく、次々と攻撃を浴びせた。しかし、天津飯達は、諦めずに闘い続けた。
天津飯達は、攻撃を受け過ぎて変色拳が解けた。更に四妖拳も解け、四身の拳まで解けた。一人になった天津飯は、いよいよ追い詰められたが、全く焦りが無かった。むしろ自然と笑みが零れていた。敗色濃厚で、もう逆転のチャンスが無いのに、心から戦闘を楽しんでいた。まともに闘っては勝ち目が無いので、これまで様々な技を駆使してきたが、本音はしたくなかった。技を使う事を卑怯と思っているのではなく、それを使わざるを得ない事が嫌だった。
悟空の攻撃を受け続けた天津飯は、とうとう力尽きて倒れた。意識を失い、これ以上は闘えそうもなかった。そして、悟空の勝利を告げるアナウンスが流れた。悟空に勝ちたいという一心で、命まで掛けた天津飯の挑戦は終わった。勝った悟空は勝ち誇らず、跪いて天津飯に呼び掛けた。それによって意識を回復した天津飯は、状況を即座に理解した。
「俺は、負けたみたいだな・・・」
「惜しかったな。でも凄かったぞ」
「そうか・・・。最後にお前と闘えて良かった」
「最後って、別に死ぬ訳じゃねえだろ?」
「かなり無理をしたからな。もう長くあるまい。見ろ」
天津飯は、若返りの術を解いた。すると、その顔は皺だらけだった。試合前より明らかに皺の数が増えていた。寿命を削る新気功砲の連発の影響だった。それでも己のした事に後悔していなかった。全ての力を出し切った上での敗北だからである。同じ負けるにしても、余力を残して負けていれば、その時こそ後悔していただろう。
「もう闘う事はあるまい。引退する。余生は後進の育成に専念する。実は魔界で三つ目人の生き残りが発見されたんだ。まだまだ未熟だが、俺が死ぬまで指導する」
「おめえに鍛えられたら、かなり強くなるだろう。そして、そいつ等が強くなったら、ウーブやパンといった次世代の戦士達と試合させてみるのも面白いかもな」
「きっと面白い試合になる。今度は勝つぞ。それまで生きていないとな」
悟空の弟子と天津飯の弟子が試合で闘う。そんな未来図を想像し、天津飯は微笑んだ。
天津飯の長い格闘家人生は終わった。結局、目標としていた悟空に敵わなかった。本人にとっては悔いの残る戦歴かもしれない。しかし、誰よりも真剣に打ち込んできた生き様には、彼を知る者達を感動させた。悟空や控え室に居る悟飯達は無論、魔界に居る三つ目人の後輩達、更には死んだリマもそうである。記録よりも記憶に残る武道家だった。


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