其の百二十五 命懸けの闘い

悟空と天津飯は、闘技場の中央で身構えながら向かい合った。そして、天津飯は、若返りの術を用い、若かりし頃の姿に戻った。この二人が向かい合う光景は、第二十三回天下一武道会の準決勝第一試合の開始直前の再現の様だった。控え室の中で当時を知る人達は、懐かしそうにモニター越しで二人を観ていた。

試合開始の合図と同時に、悟空が飛び掛かった。ところが、天津飯の全身に無数の目が発生し、複数の目が悟空に向けて怪光線を放った。悟空は、何発かの怪光線に当たって動きが止まった。しかし、太陽拳で天津飯の視界を封じ、再度飛び掛かった。それに対して天津飯は、背中を向け、後側にある目で怪光線を放とうとした。しかし、悟空は、立ち止まって再度太陽拳をし、天津飯の背中側の視界も封じた。

天津飯は、変色拳で無色透明となって自身の姿を見えなくし、更には気も消し、悟空から身を隠した。悟空が何も出来ずに天津飯の次の行動を待つ間に、天津飯の視力が回復した。前回は攻撃に使用していた透明色を、今回はピンチ時に身を隠す為に使用した。

天津飯は、透明状態のまま百目拳を止め、代わりに四身の拳で四人となった。更に肌の色が四人とも黄色になった。これも変色拳の一種であるが、黄色はスピードを上げる色である。前に悟空と闘った時には無色透明にしか変色出来なかったが、今回は他の色にも変色出来るようになっていた。また、当然の事ながら黄色になった時点で、その姿は悟空に見えた。姿が見えるので気を消す必要が無くなった天津飯達は、一気に気を高めた。

気を高め終えた天津飯達は、悟空の周囲を飛び回った。天津飯が一人なら、その動きを悟空は、手に取るように分かるが、四人も居て各自が個別に動けば、さしもの悟空でも全員の動きを把握しきれなかった。悟空が戸惑ってるのを見て取った天津飯達は、次第に悟空との距離を狭め、攻撃を始めた。攻撃の直前に天津飯は赤色になり、攻撃後は命中してもしなくても黄色に戻り、再び悟空の周りを飛び回った。赤色は攻撃力を上げる色である。

悟空は、天津飯達の動きを全て把握するのが困難なら、一人ずつ狙いを定めて順に撃退していく事にした。天津飯の一人を選んで飛び掛かったが、選ばれた天津飯は、悟空からの攻撃を避けられないと判断し、青色になって攻撃に耐えた。青色は防御力を上げる色である。青色になってダメージを最小限に止めた後、再び黄色になって飛び回った。

天津飯達は、悟空に注目しながら全力で飛び回っていた為、息が上がって動きが徐々に鈍ってきた。しかし、四人の内の一人が白色になり、残りの三人に白い気弾を放って回復させた。続いて回復してもらった三人の内の一人が白色になり、回復してくれた白色の天津飯に白い気弾を放って回復させた。白色は能力全般が低下するが、治癒能力が具わる。回復が済むと、全員が黄色になって飛び回った。

天津飯の戦法は、かつて悟空が闘ったルーエのと似ていた。しかし、ルーエは、四人それぞれが一つの色を担当していたが、天津飯は、四人とも状況に応じて色を随時変えていた。その為に悟空は、色に応じた対策が立てられなかった。しかも回復役の白色まで担当が固定されていないので、お互いに回復し合えば、半永久的に闘える。いちいち色を変えるのは面倒だが、その効果は大きかった。

このまま闘っていれば自分だけエネルギーを消耗すると思った悟空は、超サイヤ人になる手前まで気を高めた。超サイヤ人になれば、真実の目で元の姿に戻されるからである。そして、四人の天津飯を一気に倒すべく飛び掛かった。

悟空は、一人の天津飯に追いつき、青色になる前に攻撃して気絶させた。すると残りの三人は、直ちに青色になった。スピードで勝てないと判断すると、飛び回るのを止めて防御に専念した。悟空は、構わず飛び掛かり、三人の内の一人を攻撃した。しかし、身を固めて防御している青色の天津飯を一撃で気絶させる事が出来なかった。しかも、その間に残りの二人の内の一人が白色になり、倒れている天津飯を回復させた。そして、四人とも青色になり、悟空の攻撃に備えた。

ならばと悟空は、更に気を高め、超サイヤ人になった。天津飯達は、真実の目で悟空の変身を解除しようとしたが、その前に悟空が目にも止まらぬ速さで一人の天津飯を攻撃して気絶させた。すると残りの三人が透明になり、更には気も消した。そして、一人の天津飯が透明なまま真実の目を用いて悟空の変身を解除した。更に別の天津飯が倒れている天津飯の側で白色になって現れた。そして、白色の天津飯が倒れている天津飯を回復させ、二人とも気と姿を消した。

天津飯の五色を用いた戦法に為す術が無かった悟空は、次第に焦ってきたが、対する天津飯にも余裕がある訳ではなかった。天津飯が勝利する為には悟空を戦闘不能になるまで追い込まなければならないが、直接攻撃が大して効かず、悟空の体力を削る闘い方しか出来なければ、天津飯が勝利するまで、どれだけ時間が掛かるか分からなかった。その間に悟空が何か対策を立てるかもしれないし、自分が何のミスもせずに闘い続けられるとも限らなかった。

しかし、天津飯は、別の戦法を既に考案済みだった。むしろここからが本番だった。今までは命に別状が無い闘い方だったのに対し、ここからは下手をすれば自分の命を落としかねなかった。しかし、天津飯には一片の迷いも無かった。悟空に勝つ為なら、死んでも構わない覚悟があった。

一人の天津飯が透明なまま背後から悟空に忍び寄り、悟空を羽交い絞めにした。そして、悟空に振り解かれる前に静止拳で悟空と共に時間を止めた。続いて二人の天津飯が赤色になり、静止拳の適用範囲外から悟空に背を向ける形で立った。二人の視線の先には、客席近くまで遠ざかって印を結んでいる天津飯が居た。

二人の天津飯は、印を結んでいる天津飯に向けて新気功砲を放ち、その直後に上空高く飛び上がった。一方、二つの新気功砲が合わさって合体新気功砲となり、印を結んでいる天津飯に当たり、気功倍返しで倍の威力になって跳ね返り、時が止まっている悟空に迫った。

合体新気功砲は悟空の手前で止まった。悟空が止めたのではなく、静止拳の適用範囲に入ったからである。やがて静止拳の効果が切れ、悟空と悟空を羽交い絞めしている天津飯、及び合体新気功砲の時が動き始めた。悟空は、自分の置かれている状況を理解する間も無く、迫ってきた合体新気功砲を喰らった。流石に死にはしなかったが、大きなダメージを受けた。

これは天津飯自身にとっても危ない戦法だった。もし新気功砲を放った後に飛び上がるのが遅れていれば、二人の天津飯は、合体新気功砲を喰らって消滅していた。そして、悟空が羽交い絞めを振り解いて合体新気功砲を避けていれば、背後に居た天津飯に合体新気功砲が当たって、やはり消滅していた。

仮に天津飯が合体新気功砲に当たって消滅していたとしても、現在は四身の拳で四人に分かれていたから、天津飯本人が死ぬ訳ではなかった。しかし、その影響は大きかった。三つ目人の先人達が書き残した巻物によると、四身の拳で四人に分かれている時に一人が死ねば、残った三人で元の一人には戻れない。しかも残りの寿命が四分の一になる。天津飯は、それ等のリスクを承知しており、その上で実行した。

合体新気功砲を喰らった悟空は、ふらつきながら、背後に居る天津飯に話し掛けた。

「お、おめえ、オラを殺す気か?」
「あの攻撃でも、お前が死ぬとは思っていなかった。死ぬかもしれないと思ったら、やらなかった。予想に反して殺してしまったら、責任を取って自害していた」
「なるほどな・・・。でも、おめえ自身もやばかったんじゃねえのか?」
「お前に勝つ為だ。無茶をしないで勝てるとは思っていない」

幾ら悟空に勝つ為とはいえ、天津飯に悟空を殺す意思は無かった。しかし、我が身を犠牲にするのは、厭わなかった。天津飯にとっては自分の命より勝利の方が大事だった。

「それより腕は大丈夫・・・じゃねえな。どうするんだ?」

羽交い絞めをしていたせいで、天津飯の両腕は肘から先が無くなっていた。悟空ほど体が頑丈ではなかったので、天津飯の両腕は合体新気功砲に耐えられず、吹き飛んでしまった。ちなみに天津飯の他の体の部位が無事だったのは、悟空の背後に居たので、悟空の体が盾となって天津飯を守っていたからだった。青色になっていれば、両腕の消滅を避けられたかもしれない。しかし、天津飯に色を変える時間の余裕は無かった。

「心配は要らない。元の一人に戻れば良い。他の三人には両腕があるからな」

四人の天津飯は重なり、元の一人に戻った。それから四身の拳を改めて行い、四人になった。この時には四人とも腕があった。ただし、腕が元通りになると分かっていたから危険な戦法を選んだ訳ではなかった。例え腕を失ったままだったとしても、同じ事をしていた。

「おめえの覚悟は、よく分かった。出来れば勝たせてやりてえが、だからと言って勝ちを譲ったら、おめえに対して失礼だ。悪いが勝たせてもらうぞ」

悟空は、天津飯の心意気に感動した。そこまでしてでも勝ちたいと願うなら、それを成就させてやりたいという思いすらあった。しかし、故意に負けたら、天津飯は、喜ぶどころか烈火の如く怒るだろう。自分に出来るのは、全力で天津飯の相手をする事だと思い、気を引き締めた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました