試合に敗れたパンは、怪我を負っていたが、誰の手も借りず、歩いて控え室まで戻った。そして、餃子に回復してもらった。
「ありがとう。餃子さんが味方で良かったわ」
「でも、次の試合の時だけは敵になる」
「敵って、そんな大げさな事でもないでしょ。私と餃子さんの応援する人同士で闘うだけじゃない」
二人の視線の先には、部屋の隅で座禅を組んでいる天津飯が居た。天津飯は、目を瞑り、この半年の間に起こった出来事を思い返していた。
惑星ジニアから帰還した天津飯と餃子は、リマの城に行き、リマの部下の魔族達にリマの遺体を引き渡し、事のあらましを伝えた。リマの死を知った魔族達の驚きや悲しみは大きく、中には天津飯を非難する者まで居た。しかし、天津飯は、何を言われても反論せず、黙って耐えた。リマの死には多少なりとも自分に責任があると思っていたからである。
リマの葬儀が執り行われた後、新たな魔王を選出する事になった。魔界中から腕に自信のある者を集め、新魔王を決める為の武術大会が執り行われる事になり、天津飯にも出場してみないかと声が掛かった。しかし、天津飯は、頑なに固辞し、武術大会には出場しなかった。餃子も出場しなかった。結局、天津飯や餃子抜きで武術大会が執り行われ、とある魔族が優勝して魔王となった。その者は、魔界では飛び抜けて強いのだが、天津飯や餃子には遠く及ばなかった。
新魔王が治める事になった魔界の治安は不安定で、各地で反乱が発生した。天津飯は、誰に頼まれる事なく率先して動き、各地の反乱を鎮めていった。それは天津飯にとって修行にすらならない生温いものだった。
魔界の混乱が収まった後、天津飯は、悟空に勝つ為の修行を再開した。ところが、その矢先にウーブが天津飯の元を訪ねてきた。ウーブは、ある目的の為に魔界で一人で修行して魔力を高めたいと言うので、天津飯は、魔力を高めるのに最適だと思われる星にウーブを連れていった。これまで魔界の様々な星で修行してきたので、魔界の星について詳しかった。また、魔力の効率的な高め方や、食料のある星等を教えた。
ウーブと別れた後、天津飯は、かつて三つ目人が住んでいた星に行き、先人達が残した巻物を読んで、悟空に勝てそうな技を改めて探した。しかし、そんな都合の良い技は見つからなかった。そんな折、今度はピッコロが訪ねてきた。ピッコロ曰く、惑星レードで第二回宇宙一武道会が開催される事になり、天津飯と餃子もエントリーされているという。その時、何故か天津飯は、自分が武道会で悟空と闘うと直感した。そして、それが最後の機会であると思った。
ピッコロは、別の星で修行しているウーブにも武道会の事を伝えるため、天津飯の元を去った。そして、武道会で悟空に勝つという目標が出来た天津飯は、修行の方針を変えた。それは新たな技を会得しない事だった。三つ目人の技は、どれも難しいので、会得までには相当な時間が掛かる。武道会まで半年しかないのに、それでは間に合わない。それよりは既に会得している技の精度を上げる事に精進した。それとは別に、自身の戦闘力を上げる修行も怠らなかった。
時折、天津飯は、ウーブと組み手の修行をした。その際、ウーブを悟空と想定し、新しく考えた技の使用法を試してみた。また、それを悟空に知らせないようウーブに念押しした。そして、組み手といえども一切手を抜かなかった。一方、ウーブは、戦闘力こそ天津飯よりも高いが、老練な天津飯の気迫や戦術に気圧され、度々劣勢に陥った。
天津飯が餃子と修行している最中、魔界の長老が訪ねてきた。以前にリマに紹介された事があったので、長老とも面識があった。しかし、長老の方から訪問してくるのは、究めて異例だった。何か用があれば使いを寄越して呼び出せば良いものを、わざわざ長老の方から訪ねてきたのは、あるニュースを一刻も早く天津飯に知らせたいからだった。そのニュースとは、魔界の外れにある星に、三つ目人と小人族の集落が最近になって発見された事だった。
天津飯は、長老の話に大いに興味を持ち、その星の場所を尋ねた。そして、帰還する長老を見送った後、餃子と共に教えられた星に向かった。その星には少数だが、確かに三つ目人と小人族が暮らしていた。彼等は、ダーブラが軍を率いて三つ目人を滅ぼしに来た際、運良く逃げ延びた者達の子孫だった。俗世間から離れていた為に世情に疎く、未だに魔王がダーブラで、自分達が命を狙われていると思い込んでいた。
天津飯と餃子が彼等の元を尋ねると、自分達以外に同族の生き残りが居た事に一同驚いた。そして、天津飯は、彼等に魔界の現状を説明し、もう隠れて生活する必要はないと告げた。もし別の種族の者から伝えられていたら、彼等は、信用しなかっただろう。しかし、他ならぬ同族の者から伝えられたので、素直に信じた。それから天津飯と餃子は、かつて三つ目人が住んでいた星に彼等を案内した。初めて見た故郷に感激した彼等は、この星に移り住む事を即決した。
彼等の存在は、天津飯と餃子にとって大変喜ばしい事だった。彼等の存在を知るまで、自分達が三つ目人と小人族の最後の生き残りだと思っていた。二人が死ねば、必然的に二つの種族が絶滅するはずだった。しかし、他に生き残りが居たので、二人が死んでも、二つの種族が地上から消滅しない。惜しむらくは、この事をリマに教えられない事だった。もしリマが知れば、大いに喜んでいただろう。
天津飯は、自身の修行で忙しいにも拘らず、暇を見つけては彼等を鍛えた。ここは争いが絶えない危険な魔界なので、力が弱い種族だと常に滅ぼされるリスクがあった。これまでは誰にも知られずに隠れ住んでいたから、彼等に力は必要なかった。ところが、これからはそうはいかなかった。未来に血脈を繋げていく為には、彼等に力が必要だった。
天津飯が鍛える前の彼等の力は弱かった。しかし、彼等は、流石は三つ目人と言うべきか、あるいは天津飯の教え方が良いと言うべきか、驚くべきスピードで強くなっていった。最初は天津飯に言われて嫌々修行していたが、次第に天津飯が何も言わなくても、自分達で自主的に修行するようになった。中には巻物を読んで新たな技を覚えようとする者まで居た。
ある日、悪魔界から悪魔達が攻めてきた。悪魔界の王であるサイムは、求心力が低く、いつも誰かに寝首を掻かれる事を恐れていた。そんな折、リマが死んだと知り、暗黒魔界を攻めて魔王の座を強奪するよう周りの悪魔達を唆した。悪魔達の目が他に向けば、自分の地位を脅かされずに済むと考えたサイムの姑息な考えだった。しかし、天津飯と餃子の活躍によって悪魔達は、瞬く間に一掃された。
月日は瞬く間に過ぎていった。天津飯と餃子とウーブは、再度魔界を訪れたピッコロから、宇宙一武道会の開催日を知らされた。そして、その日が来ると、三人は地球に向かった。その後、悟空達と合流し、共に惑星レードを訪れた。そして、決勝トーナメントの組み合わせ発表で、悟空と一回戦で対戦すると知った時、特に驚かなかった。そういう組み合わせになるだろうと何故か察していた。
第一試合が終わり、続く第二試合は餃子の不戦敗に終わった。天津飯と共に懸命に修行してきた餃子は、優勝は無理でも、一回位は勝ちたいと思っていた。しかし、初戦で闘う事になった悟天との力の差は歴然で、しかも命を落とす危険性があったので、修行の成果を見せる事なく、餃子の武道会は終わった。餃子は、表情にこそ出さなかったが、内心は無念であると天津飯には分かっていた。ならば餃子の分まで頑張らねばと、天津飯に闘う理由が一つ出来た。
第三試合が終わって十分後、遂に第四試合の開始を告げるアナウンスが流れた。悟空は、座禅を組んでいる天津飯の元に歩み寄り、親しげに声を掛けた。
「天津飯、行こうか。最後に闘った時は邪魔が入って途中で止められちまったが、ようやく、あの時の続きが出来るな。あの時点で勝敗を決めるとしたら、おめえの優勢勝ちかな」
「なら今回は一本勝ちをさせてもらおうか」
「へっ、そうはさせねえ」
悟空と天津飯のやり取りは、これから闘う二人とは思えない程に打ち解けていた。そして、二人一緒に闘技場まで歩く最中、天津飯は、悟空に話し掛けた。
「一つ頼みがある。この試合で俺が死んでも、ドラゴンボールで生き返らせないでくれ」
「え!?何を言ってるんだ?オラは、おめえを殺す気なんてねえぞ」
「この闘いは俺の人生の集大成となるだろう。試合が終わっても悔いが残らないよう、持てる力を全て使う。無事に終わらせるつもりはない。勝つ為だったら、死んでも構わないと思っている。お前にもそうしろと言うつもりはないが、覚悟だけはして欲しい」
天津飯の表情は真剣そのものだった。とても悟空との闘いを楽しむ雰囲気ではなかった。悟空は舐めて掛かったら、とんでもない目に遭うと思った。そして、控え室内に居る餃子とウーブは、番狂わせが起こり得ると思っていた。
天津飯の人生の目標は、悟空に完勝する事だった。それは悟空と天下一武道会の決勝戦で拳を交えた時からの目標だった。大きく実力差が開いて目標を諦めた時もあったが、リマとの出会いによって目標が復活した。そのリマの為、いつも自分を支えてくれる餃子の為、魔界に残してきた三つ目人の後輩達の為、そして、何より自分自身の為、天津飯は、全身全霊で闘う所存だった。いよいよ天津飯にとっての最後の挑戦が始まる。


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