悟天との辛い再会を果たしたチチは、控え室内に設置してあるベッドに横になり、魘されていた。
「悟天。元の優しい悟天に戻ってけれ・・・」
一方、悟空達は、ビーデルからチチが悟天に会ってきた事を聞かされ、驚いていた。チチを悲しませたくなかったからこそ、これまで悟天について話さなかったが、まさかチチが自分達に黙って悟天に会いに行くとは想像だにしていなかった。
「今の悟天は、危険過ぎる。流石にチチにまでは危害を加えねえだろうけど、刺激されると、何をしでかすか分からねえ。もうチチに会わせねえ方が良い」
「確かに悟天君は、様子が尋常じゃなかったですわ。お義父さんを無性に憎み、『殺してやる』なんて口走ってました。悟天君に何があったんですか?」
悟空は、自分が原因でアイスが死に、そのせいで悟天が憎んでいると話した。そして、これは悟天が一方的に主張しているだけで、悟空には全く身に覚えがない事も話した。この話に控え室内が騒然となった。
「お義父さんがアイスさんの死に関わっているですって!?それは一体どういう意味ですか?何でその事について、悟天君から更に詳しく話を聞かなかったんですか?」
「あの時は悟天に冷静になるよう促したが、却って怒らせちまった」
「当たり前じゃないですか!憎んでる相手から冷静になれと言われれば、怒るに決まってるじゃないですか!どうして悟天君と腹を割って話し合おうとしなかったんですか!?」
珍しくビーデルが悟空を非難した。それに対して悟空は、全く反論出来ず、ばつが悪そうにしていた。ここで悟飯が間に入ってビーデルを宥め、悟空に助け舟を出した。
「ビーデル。君が怒鳴りたくなる気持ちも分かるが、あの時の悟天の態度に父さんが戸惑い、正しい対応が出来なかったんだ。それだけ憎しみが半端なかった。あいつは、久し振りに会った俺が少し話し掛けただけで、俺にまで噛み付いてきた位だからな。あいつを落ち着かせて話を聞き出すのは難しいだろう。真相を究明する為には、別の人から話を聞いた方が良いかもしれないな」
あの時は悟天にとっても久方振りの悟飯との再会の場面なのに、全く喜ぶ素振りを見せなかった。悟空への憎しみが強過ぎて、そういう感情が湧かなかったからである。そんな尋常ではない悟天を落ち着かせて話を聞き出すのは、至難の業である。ならば悟天本人からではなく、悟天の近くに居て真相を知ってそうな人物から話を聞き出す方が良いと悟飯は提案した。
「そんなに悟天君は酷いんだ・・・。部外者が何も知らないで少し言い過ぎました。御免なさい。お義父さん」
「いや、良いんだ。オラの対応が間違ってたのは事実だし。やっぱり悟飯は頼りになるな」
悟飯に宥められ、ビーデルの興奮が収まった。この時、トランクスが申し訳なさそうに会話に加わってきた。
「済みません。俺がセルを殺す前に、悟天について話を聞くべきでした。あるいは、セルを殺すべきではありませんでした」
「済んだ事は仕方ねえ。まだフリーザやレードが居る。あいつ等から話を聞き出そう」
悟飯の発言を聞いていたトランクスは、「別の人」の対象者の一人であるセルを殺してしまった事を詫びた。
「お爺ちゃん。フリーザやレードの他に、もう一人要るわ。ゴカンよ。次の試合は、私がゴカンと闘うから、その時に聞き出すわ」
「ゴカンは、幼いから、何も知らないだろう」
「聞いてみなくちゃ分からないじゃない。もしかしたら知ってるかもしれないわよ」
「・・・分かった。でも、相手は子供だ。聞き方には注意しろよ」
パンは、直情型で、他人の心情を意に介さない面があった。これまでは周りが年上の大人達ばかりだったから問題無かったが、今回は年下の子供が相手である。パンが無遠慮に聞いて、ゴカンの子供心に傷を付けるんじゃないかと悟空は心配していた。
悟空達が話し合っていると、第三試合の開始を告げるアナウンスが流れた。パンとゴカンは各々控え室を出て闘技場に向かい、闘技場の中央に立って向かい合った。
「さっきは自己紹介が出来なかったけど、私は、あなたのパパの兄の子供よ。つまり私達は、従姉弟の関係ね。私の事を『パン姉ちゃん』と呼んでも良いわよ」
「五月蠅い。糞婆」
「く、糞婆ですって!?若奥様に向かって、糞婆はないでしょ!年上の人には、もっと敬意を払いなさい!私が子供の時は、常に周りの大人達を尊重してきたわ!」
ゴカンの態度に怒ったパンは、自分の子供時代を引き合いに出して説教を始めた。しかし、ゴカンは、パンが嘘を言っていると即座に思った。そして、実際に嘘だった。パンは、子供の時は非常にませていて、年上のトランクスを呼び捨てにしていた位である。ゴカン程に酷くはないが、パンも年上の人に対して不遜だった。
パンが説教を続けていると、試合の開始を促すアナウンスが流れた。ゴカンは、即座に身構えたが、一方のパンは、まだ会話を続けようとした。
「あ!ちょっと待って。聞きたい事があるの」
「はあ?ここは闘う場だ。話をする場じゃない。俺は、女でも容赦しないぞ」
ゴカンは、パンに向かって飛び掛かった。パンは、止むを得ず応戦したが、想像以上にゴカンが強かった。これまで悟空達と共に鍛え、共に闘ってきたパンが、十歳にも満たないゴカンを相手に防戦一方となった。
「子供のくせに、何でこんなに強いの?」
「ひっひっひ・・・。弱いよ。パン姉ちゃん。そら!」
ゴカンに顔を蹴られたパンは、客席近くまで吹っ飛んだ。そして、吐血した。それでも立ち上がったが、眩暈がし、膝が震えていた。パンが受けたダメージは大きかった。
「こ、子供相手に大人気ないかもしれないけど、超サイヤ人になるしかないわ」
ゴカンの余りの強さに動揺したパンは、早くも超サイヤ人に変身した。
「へー。女でも超サイヤ人になれるんだ」
「これで形勢逆転ね。覚悟しなさい!」
「それはどうかな?超サイヤ人になれるのは、お前だけじゃないんだぜ」
ゴカンも超サイヤ人に変身した。その気は、パンの気を大きく上回っていた。負けじとパンが超サイヤ人2に変身すると、ゴカンも超サイヤ人2に変身した。やはりゴカンの方が気は大きかった。そして、ゴカンが更に気を高めると、何と超サイヤ人3に変身した。これにはパンのみならず、控え室で観戦していた悟空達も仰天した。
「私ですら超サイヤ人3はまだなのに、何でこんな子供が・・・」
「ふふん。俺は天才だからな。こんな闘い、すぐに終わらせてやる」
ゴカンは、容赦なく襲い掛かり、パンの腹部を殴った。この一撃でパンは、変身が解け、倒れてしまった。
「お前は、弱いくせにジニア人との闘いに参加してたんだろ?むかつくぜ。俺は、最終決戦の時も留守番させられてたのによ」
「お、恐らく、レードが私達にあなたの強さを見せたくなかったのね。とんでもない強さだわ」
最早勝ち目が無いと悟ったパンは、床を数回叩いた。自分の年齢の半分以下の子供を相手に敗北を認めるのは不本意極まりないが、意地を張って闘い続けて犬死する訳にはいかなかった。自分が弱いのではなく、ゴカンが特別なんだと割り切る事で、自分を納得させる事にした。
ゴカンの勝ちが宣告された。パンは、立ち上がらずに顔だけ上に向け、勝ち誇っているゴカンに先程聞きそびれた質問をした。
「何故あなたのパパは、お爺ちゃんが、あなたのママを殺したと思ってるの?」
「え!?えっと・・・セルは、孫悟空が来て母ちゃんを殺し、すぐに立ち去ったと言ってた。孫悟空は、ジニア人の宇宙船を持ってるから、それを使えば一瞬で惑星レードに来れる」
「お爺ちゃんは、ジニア人の宇宙船を持ってるけど、あなたのママを殺す理由が無いわ。セルは、あなたに嘘をついたのよ」
ゴカンは、困惑した。当時のゴカンは、セルの事をよく知りもせず、言われた事を額面通りに信じてしまった。ところが、あれからセルの人格を知るにつれ、セルが信用出来ないと悟った。今だったらセルから同じ事を言われても、まず疑うだろう。しかし、だからと言って、初対面のパンが信用に足る人物とは思わなかった。
「あなたのママがお爺ちゃんに殺されたというのは嘘なの。あなたも、あなたのパパも騙されてるのよ」
「なら何で母ちゃんは死んだんだ?惑星レードには母ちゃんを殺す奴なんて居ないぞ」
「そ、それは・・・」
「ほら!答えられないだろ!やっぱり孫悟空が殺したんじゃないか!」
ゴカンは、生来の悟空嫌いだった。なので悟空をアイス殺しの犯人だと思いたかった。そうしないと納得しなかった。そして、真相を知らないパンは、悟空が犯人だと決め付けているゴカンの考えを改めさせる術を持たなかった。結局、何も知らないゴカンからは有力な情報を聞き出せなかった。


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