其の九十九 トップ会議

悟空達が元素戦士達と戦ってから月日が流れた。ドクター・ブレインが主要メンバーのみで緊急会議を開くと告げてきたので、ドクター・ハートは、数年振りに惑星ジニアに帰還した。そして、会議が開始されるまで時間に余裕があったので、長らく留守にしていた自身の研究所に向かった。研究所の前まで行くと、ハートボーグ五十七号が立っているのが見えた。五十七号は、ドクター・ハートの姿を見るや否や、小走りで近付いて来た。

「ドクター・ハート、お帰りなさいませ。活躍は聞き及んでいます」
「ハートボーグ五十八号が目覚しい活躍をしてくれたからね。そんな事より、貴方は何でここに居るの?外に出て私を出迎えるなんて気の利いた事をする訳ないし。何かあったの?」
「じ、実は、俺ではどうにもならない事が起きまして・・・」

ハートボーグ五十七号から話を聞いたドクター・ハートは、血相を変えて研究所の中に入った。そして、ある部屋の中に入ると、そこにはコンピューターを使用していた男が居た。その男は、コンピューターのモニターを食い入るように見つめ、ドクター・ハートが部屋に入ってきたのに全く気付いていなかった。ドクター・ハートは、男に向かって怒鳴った。

「ドクター・ラング!私の許可を得ず、私のコンピューターを勝手に使っては困りますわ!」

ドクター・ラングと呼ばれた男は、ここで初めてドクター・ハートの存在に気付き、モニターからドクター・ハートの方に視線を移した。ドクター・ブレインの盟友で、ジニア人の中ではナンバー2の立場である為、ハートボーグ五十七号は、ドクター・ラングがドクター・ハートのコンピューターを使うのを止める事が出来なかった。

ドクター・ラングは、ラガーマンの様な大柄な体で、白衣を着てるがボタンを全て外していた。また、顔立ちが良いが、それは整形によるものではなく、生まれつきだった。そして、オーガンの一人なので、大抵のジニア人よりも知能指数が高かった。正に非の打ち所が無い人物で、女性からの人気は高かったが、ドクター・ハートは全く惹かれていなかった。

「済まん済まん。孫悟飯の記憶データを見たくて君の研究所に来たのだが、君がまだ戻ってなかったので、無断でコンピューターを使わせてもらったよ。もうしないから許してくれ」
「その台詞は十三回目ですよ!相変わらず自分勝手なんですから!それで、孫悟飯の記憶データを見て、何か面白い発見でもありましたか?」
「ああ。飛びっきりの発見をな」

ドクター・ラングは、満足そうに笑みを浮かべた。その時、ハートボーグ五十七号が部屋の中に入ってきた。

「ドクター・ハート。ドクター・ラング。そろそろ会議の時間です」
「もうそんな時間か・・・。ブレインに会うのも本当に久し振りだな」
「幾ら親友だからとはいえ、ドクター・ブレインを呼び捨てにするのは許されませんわ!」
「固い事を言うな。ブレインだって、以前は俺の事を『ラング』と呼んでいたんだぞ」
「今はオーガンやボーンに関係なく、名前の前に『ドクター』を付ける決まりですわ!」

ドクター・ラングは、「分かった分かった」と面倒臭そうに言ってから、研究所の外に出た。ドクター・ハートも後に続いた。こうして二人は、会議が行われる場所に向かった。そして、ある建物の中の会議室に入ると、既にドクター・ブレインが中央の席に座っていた。ドクター・ブレインは、厳しい表情で腕組していた。

「ドクター・ブレイン。お久し振りですわ。かれこれ・・・」
「それは良いから、早く座りたまえ」

ドクター・ブレインは、ドクター・ハートの話を途中で遮り、早く席に着くよう促した。ドクター・ハートは、ばつが悪そうに空いてる席に着き、ドクター・ラングも別の空いてる席に着いた。

「さて、二人に集まってもらったのは他でもない。例のサイヤ人達についてだ。彼等は、ボーンは愚か、オーガンのドクター・キドニーやドクター・ストマックまで倒した。この二人は、ミレニアムプロジェクトの為の貴重な戦力だっただけではない。私達にとって掛け替えの無い大切な仲間だった。こんな悲しい事は無い。これ以上のジニア人の犠牲は防がねばならない」

内心はどうあれ、ドクター・ブレインは、二人のオーガンの死に哀悼の意を表した。しかし、それが本心でないと見抜いているドクター・ラングは、鼻で笑った。

「サイヤ人達を生け捕りではなく、初めから殺すように命令していれば、ここまで被害が大きくなる事は無かった。サイヤ人達を捕らえて手駒に加えようとしたのが、そもそもの間違いだった。まあ、あの二人は、お前に懐疑的だったから送り込まれたので、敗れた方が都合が良かっただろうがな」

ドクター・ラングの指摘に、ドクター・ブレインは、反論せず無言を貫いた。

「サイヤ人達を殺しても良いなら、次は俺に任せてくれ。俺のロボットでサイヤ人達を皆殺しにする」
「お言葉ですが、各ジニア人が擁する軍団の中でも最強との呼び声が高いドクター・ラングのロボット軍団でも勝てるとは思えませんわ。ここは私に任せて下さい」

ドクター・ブレインに疑いの目を向けているドクター・ラングに任せる訳にはいかないと、ドクター・ハートが割って入った。

「先程見た孫悟飯の記憶データから、最強のロボットを作るヒントを得た。そのロボットが完成すれば、サイヤ人達を倒せる」
「その最強のロボットとやらの完成に、どれだけ時間が掛かると思っているのですか?早くしないと、サイヤ人達が惑星ジニアまで攻めてきますわ。しかし、ハートボーグ五十八号なら、今すぐサイヤ人達を倒せますわ」

ドクター・ラングとドクター・ハートは、互いに一歩も譲らなかった。ところが、黙って二人のやり取りを聞いていたドクター・ブレインが鶴の一声で決めてしまった。

「ドクター・ラング。君に任せよう」
「待って下さい!納得出来ませんわ!どうして私じゃないのですか!?」
「ドクター・ハート。確かドラゴンボールを開発中だったな。まだ完成したという報告を受けていないが、何時完成するんだ?」
「そ、それは・・・」

ドクター・ハートが返答に窮していると、ドクター・ブレインは、彼女の泣き所を指摘した。

「ドラゴンボールは完成しない。この際はっきり言おう。君が完成しないドラゴンボール作りに躍起になっているのは、功を焦っているからだ。君は既存の知識を吸収し、それを応用する技術には長けているが、全く新しい物を作り出すのは不得手だ。その事を気にしている君は、何か凄い発明品を作って周りを見返したいと思っている。だからドラゴンボールを作ろうとしたんだ。私が君を選ばなかったのは、それが理由だよ。功を焦る君に任せれば、思わぬ失敗をするからだ」

ぐうの音が出ないドクター・ハートを気の毒に思ったのか、ドクター・ラングが声を掛けた。

「ドクター・ハート。最強のロボットを作る為には、君の協力が必要だ。二人でロボットを完成させよう。そのロボットがサイヤ人達を倒せば、それは君の手柄にもなる。早速、君に一つ頼みたい。二つのデータが必要だが、その収集が非常に厄介だ。それを君に依頼したい」
「ドクター・ラングがどんなロボットを作ろうとして、その為に何のデータが必要なのか、凡そ分かりますわ。ハートボーグ達を呼んできます」

ドクター・ハートが退室すると、ドクター・ラングは、ドクター・ブレインに話し掛けた。

「まさかとは思うが、親友の俺の死まで望んでいるのか?」
「何の事かね?私が君の死を望む訳があるまい」
「とぼける気か?俺がお前の考えを見抜けんとでも思っているのか?」
「私を疑う前に、すべき事があるはずだ。データが揃わないと、ロボット作りを始められない訳ではあるまい」

ドクター・ブレインの嫌味に苛立ったドクター・ラングは、舌打ちしてから退室した。一人部屋に残ったドクター・ブレインは、心地良さそうに呟いた。

「さて。今度の相手は更に手強いぞ。どうする?サイヤ人よ」

その頃、今やジニア人にとって最大の敵となった悟空達は、地球で相変わらず修行の日々を過ごしていた。この日はパンが宇宙船に乗り込んでいたので、悟空達は五人で修行していた。ピッコロとウーブが組手をし、ベジータとトランクスが組手をしていた。悟空は、二つの組手を交互に眺めていた。

ピッコロとウーブは、互角に渡り合っていたが、トランクスは、ベジータを相手に優勢だった。老化が進行しているベジータは、強くなるどころか、現状維持すら難しい有様だった。一方、まだ若いトランクスは、日増しに力を付け、今ではベジータを超えるまでに成長した。そのトランクスの強烈な一撃が決まると、ベジータは片膝を付いた。

「大丈夫ですか?父さん」
「よ、余計な心配は無用だ。それよりトランクス。もう完全に俺を超えたな」

ベジータに悔しさは無かった。むしろ我が子の成長が嬉しかった。悟空は、その様子を、微笑ましくも少し寂しげに見つめていた。その最中、悟空達に近付いてくる者が居た。悟空達は、その者の気配を感じて一斉に振り向いた。そして、その者の顔を見た瞬間、これ以上無い位に仰天した。

「久し振りですね、皆さん。元気にしてましたか?」

その場に現れたのは、惑星ジニアに連れ去られたはずの悟飯だった。大いに驚いた悟空達は、しばらく声が出なかった。

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