元素戦士を一掃し、最後に残ったボラリスと闘う事になった悟空達。しかし、先刻の闘いで傷付き、疲労していた。しかも回復役として期待していた餃子が倒されており、戦闘が開始される前から不穏な空気が漂っていた。
「どういう形式で闘う気だ?一人ずつか?それとも全員で一斉にか?俺は、どちらでも構わないぞ」
不意打ちをしてきたり、大勢で徒党を組んだ他の元素戦士と違い、ボラリスは一人だけなのに実に堂々としていた。その自信に満ち溢れた態度に、悟空達は警戒心を強めたが、リマだけは苛立って言い返した。
「貴様一人を倒すのに、こいつ等の力など不要だ!俺が一人で倒してやる!」
「随分と威勢が良いな。何者だ?名前を聞いてやろう」
「聞いて驚け!俺は大魔王リマだ!この世界とは別の世界である魔界を支配する者だ!」
「ほう、魔界とな。面白い。お前達を倒し、この銀河を征服した後は、その魔界とやらも手に入れてやろう」
リマの不用意な発言で、魔界の存在をボラリスに知られてしまった。そして、魔界がボラリスの標的にされてしまった。流石に「しまった!」と思ったリマだが、もう後の祭りだった。これによってリマは、自分が治める魔界を守る為に、絶対にボラリスを倒さねばならなくなった。
この二人のやり取りを傍で見ていた悟空がリマに話し掛けた。
「リマ。本当に一人で大丈夫か?あいつは相当強いと思うが、気を感じられないので、どれだけ強いか分からないんだぞ。俺も一緒に闘おうか?」
「ふん。俺を見縊るなよ。これを見ろ!」
リマの体が一瞬だけ光ったかと思うと、リマの体の傷が癒えていた。体力も回復していた。リマは、四身の拳を使ったままだったので、四人とも回復していた。
「お前、まだ魔力が残っていたのか?」
「当たり前だ。大魔王になる為の条件の一つが、無限と思われる程の大量の魔力を有している事なんだぞ。大船に乗ったつもりで俺の勇姿を見ていろ。こんな偉そうな奴、すぐに片付けてやる」
「偉そうなのは、お前もだろ!」と悟空達は、思わず突っ込みたかったが、ここは敢えて黙っていた。そして、変身を解いて後方に退き、リマの闘いを見守る事にした。
リマとボラリスの闘いが始まった。リマは、四人掛かりでボラリスを攻めたが、一人も触れる事すら出来なかった。ボラリスが余りにも速く動き、リマの攻撃を全て避けたからである。ボラリスの動きを気で感知する事が出来ないので、目で追うしかない。しかし、合計で十二の目を使っても、ボラリスの動きを把握するのは不可能だった。たくさん目があっても、目で相手の動きを追うのに慣れていないのは、リマも悟空達と同様だった。
ボラリスは、素早く動いて、一人のリマの頭の上に飛び乗った。ところが、そのリマは自分の頭の上にボラリスが居る事に気付かず、首を左右に振ってボラリスを探していた。他のリマに指摘され、ようやくボラリスが自分の頭の上に乗っている事に気付いた。そして、頭上のボラリスに向けて気功波を放ったが、ボラリスは回避して地面に降り立った。
「頭の上に乗られていたのに、すぐに気付かなかった・・・。それに、異常なまでの素早い動き。恐らく物凄く軽いんだろう。攻撃を当てるのが難しそうだ」
リマは、何度も攻撃を繰り出したが、ボラリスに全く当たらないので激怒していた。
「くそ!攻撃が当たりさえすれば、貴様なんか・・・」
「だったら当ててみろよ。次は動かないでおいてやるから」
「舐めやがって!後悔しやがれー!」
一人のリマがボラリスの顔面を思いっきり殴った。ところが、次の瞬間、殴ったリマが絶叫を上げた。殴った拳の骨が砕け、血が噴出していた。一方、殴られたボラリスは、ダメージを受けておらず、涼しい顔をしていた。
「き、貴様。一体、何をした?」
「何をした?ただ突っ立てただけだが」
「嘘を吐け!何もしないで、そんなに体が硬化するはずないだろ!」
「俺の体は、宇宙で最も軽く、最も硬い金属で出来ている。如何なる攻撃も通用しない」
「最も軽く、最も硬い金属だと!?そ、そんな・・・」
リマは、拳の痛みに堪えつつも、衝撃の事実に驚いていた。悟空達も同様だった。
「さてと。そろそろ俺が攻撃する番かな。頼むから、あっさり死なないでくれよ」
ボラリスは、目の前のリマの腹部を殴った。その威力は尋常ではなく、ボラリスの拳は、リマの体を貫通した。ボラリスが腕を抜くと、リマは倒れそうになったが、魔力で傷を回復させて踏み止まった。
「あ、危うく死ぬ所だった・・・。何て破壊力のある一撃だ」
「済まん済まん。加減を間違えた。次からは気を付けてやるよ」
「あ、あれで本気ではなかったのか?何という強さだ・・・。他の元素戦士とは次元が違い過ぎる」
リマは、ボラリスの余りの強さに愕然とした。そして、不覚にも恐怖心すら抱いた。しかし、大魔王の意地に掛けて負けられなかった。
リマは、全ての技を解除して元の一人に戻ると、メタモルフォーゼした。しかし、外見の変化は、角や羽や尻尾が生えた程度だった。体の大きさは変わらなかった。以前の巨大な化物の姿に比べると、今回は割と人間に近い姿だった。
「驚いたか!これぞメタモルフォーゼの理想形だ!メタモルフォーゼは、能力を増大させるが、魔物の姿と化す。しかし、強い肉体があれば、体そのものは魔物になっても、外見を大きく変形しないで済む。肉体を徹底的に鍛える事により、変形を抑えられるのだ」
「それがどうした?何をしようが俺は倒せん」
「大魔王の強さを見縊るなー!」
最強形態になったリマは、ボラリスの顔面をフルパワーで殴ったが、結果は先程と同じだった。ボラリスにダメージは無いのとは対照的に、リマは、拳を痛め、のた打ち回っていた。
「何が大魔王だ!何がメタモルフォーゼだ!とんだ期待外れだ!」
ボラリスは、リマを口先だけの相手と見下し、失望していた。一方でリマは、再び傷を回復して立ち上がると、地面に向かって魔法を使った。するとボラリスが立っている地面が裂け、割れ目からマグマが噴出した。ボラリスはマグマに飲み込まれた。リマはバリヤーを張り、悟空達は倒れているパンや餃子を抱えて後方に避難した。ところが、マグマの噴出が止まると、無傷のボラリスが浮上した。
ボラリスが地上に降り立つと、リマは別の魔法を使って巨大な金槌を作った。リマの体の数倍の大きさがある巨大な金槌で、リマは金槌の柄を握り締めてボラリスを叩いた。しかし、金槌は粉々に砕けたが、ボラリスの体には傷一つ付かなかった。
続けてリマは、ボラリスの頭上にだけ硫酸の雨を降らせた。しばらく雨は続き、その間ボラリスは一歩も動かなかった。そして、雨が止むと、先程と全く変わらぬボラリスが姿を現した。ボラリスの体は全く腐食していなかった。
直接攻撃が通用しないと判断したリマは、次々と魔法を使ったが、どれもボラリスには効かなかった。恐怖に震えるリマを、ボラリスは嘲笑した。
「ば、馬鹿な・・・。大魔王である俺の魔法が通用しないなんて・・・」
「俺の体は最高の金属だ。何をしようが俺には通用しない」
ボラリスは、リマに近付き、リマのバリヤーを一回のパンチで破壊した。そして、先程よりも強い力でリマを殴り飛ばした。殴り飛ばされたリマを悟空が受け止めたが、リマは、メタモルフォーゼが解け、気絶していた。悟空は、リマを地面の上に寝かせた。
「大魔王と言っても、所詮この程度か・・・。詰まらん。強過ぎるというのも考え物だな。闘いが一方的過ぎて面白くない」
悟空達は、ボラリスの余りの凄さに、しばし言葉を失っていた。
コメント