其の九十二 真実の目の盲点

二人の元素戦士が襲撃してきた日の翌日、リマ達を加えた悟空達は、ドクター・ストマックが居ると聞いた星を訪れた。移動手段は、何時もの様にジニア人の宇宙船を使用した。ただし、今回の宇宙船の操縦士は、何とパンだった。

今まではブルマの様な非戦闘員のみが宇宙船の操縦を担っていたが、これからは一部の戦闘員も操縦出来るようになった方が良いとブルマが発案した。何故なら、敵地に乗り込む際、敵を殲滅するまで非戦闘員は宇宙船の中で待機する事になるから、そこを襲われでもしたら、敵を殲滅しても宇宙船を操縦する者がおらず、帰れなくなるからである。そして、ブルマの意見に悟空達が同意し、機械の操作に詳しいトランクスとパンが操縦方法を習得した。

到着した星に降り立った悟空達は、付近に誰か居ないか気を探った。ところが、この星は既に元素戦士によって滅ぼされた後だったので、周囲に気を感じなかった。しかし、遠くに複数の小さな気を感じた。悟空達は、それがドクター・ストマックと、その協力者達の気であると推測した。

悟空達は、予め気を抑え、しかも宇宙船のワープ機能を使って一瞬で着いたから、自分達の侵入をドクター・ストマック側に気付かれていないと思っていた。次に悟空達が取るべき行動は、気を感じる方角に向かう事だが、これまで誰も行った事がない場所に行くので、餃子のテレポーテーションは使えなかった。悟空の瞬間移動は使えるが、相手の正面に移動するから自分達の存在が気付かれる。それに構わず瞬間移動するか、気を抑えたまま移動するかで話し合った。

心情的に瞬間移動を選びたかったが、そうすると、元素戦士との闘いになる可能性が高い。そして、その間にドクター・ストマックに逃げられるかもしれない。それよりは、このまま気付かれない内にドクター・ストマックに近寄って彼を捕獲すれば、惑星ジニアの場所を聞き出せる。元素戦士を倒す事も大事だが、それはドクター・ストマックを捕らえた後でも出来る。なので、まずは気を抑えて移動し、ドクター・ストマックの捕獲を優先する事にした。

悟空達は、空を飛ばず、気が感じられる方角に向かって駆け出した。しかし、この時の悟空達は気付いていなかったが、既にドクター・ストマック側に彼等の存在が知られていた。ドクター・ストマックは、この星の周囲に監視用の人工衛星を何台も飛ばし、星の内外を観察していた。悟空達が到着した時も、移動している様子も、ドクター・ストマックの基地にあるモニターに映し出されていた。

悟空達は、大きな白い建物に到着した。その建物の中にドクター・ストマックが居るかどうかは不明だが、多くの人が建物の中に居る事が気を察知して分かった。素早く建物の中に移動すると、中ではドクター・ストマックの協力者と思われる人達が何かを作っていた。よく見ると、その何かとは元素コアだった。この建物は元素コアの製造工場であると思われ、悟空達は、周りに気付かれないよう小声で話し合った。

「あの中にドクター・ストマックって奴が居るのか?全員、白衣を着てっぞ」
「ジニア人の外見は、地球人と変わらない。そして、このまま黙って見ていても仕方ない。全員を素早く取り押さえ、この中にドクター・ストマックが居るかどうかを聞き出そう。一人も殺さないよう注意するんだぞ。特にリマ。お前が一番危ない」
「俺が一番危ないだと!?それは一体どういう意味だ!」

ピッコロの言葉にリマは激怒し、工場全体に鳴り響く程の大きな声で反発した。当然の事ながら、作業中の協力者と思われる人達全員が悟空達の居る方を向き、その存在を知られてしまった。

「リマの馬鹿野郎!もうやるしかない!」

悟空達は、観念して飛び出し、その場に居た全員を軽く殴って気絶させた。更に全員を一箇所に集め、ピッコロの魔法で作った縄で縛った。そして、一人だけ起こし、問い質した。

「心配すんな。おめえ達を殺すつもりはねえ。ただ聞きてえだけだ。この中にドクター・ストマックは居るか?」
「い、居ません。私達は、ドクター・ストマックに命令されて、ここで元素コアを作ってました」

この男の話によると、彼等は知能が高かったせいでドクター・ストマックに連れ去られ、彼の命令に従って元素コアを作らされていた。元素コアは、かなり複雑な作りの為、大量生産出来る代物ではない。知能が高い者達が手作業で長い時間を費やし、やっと一個が完成する代物であった。

悟空達は、続けてドクター・ストマックの居場所を尋ね、自分の基地の中に居るという返答を得た。更に基地の場所も聞き出せたので、捕らえた人達全員の縄を解いてから工場を後にした。そして、教えられた基地の方角に向かって気を抑えつつ移動した。

五分後、悟空達は、基地があると言われた場所に到着した。しかし、その基地は、地上にではなく、何と宙に浮いていた。反重力装置を使い、地上から五百メートル以上も高い位置に浮上していた。先程の工場よりも大きな建物で、複数の小さな気が中から感じられた。

「あの中にドクター・ストマックが居るのか・・・。よし!行くぞ!」

悟空達が基地に乗り込もうとした直前、何かが基地から飛んで来た。それは強い光を放っていた為、悟空達は、直視出来ずに目を背けた。謎の発光体は、悟空達の目の前で止まった。悟空が薄目で見ると、発光体の正体は人だった。いや、人の形をした何かだった。悟空は、目を背けながら尋ねた。

「何者だ?おめえ?」
「俺は元素戦士ボラリスだ」
「元素戦士だって!?こんなに眩しい元素戦士が居るなんて・・・」

悟空達は、突然現れたボラリスに困惑した。元素戦士は気が無いので、その動きは目で追うしかない。しかし、このボラリスは、まるで常に太陽拳を使っているかの様に光り輝いているので、悟空達は直視出来なかった。ところが、ピッコロが魔法で全員にサングラスを掛けさせた。三つ目人には、三つの目を覆う特別なサングラスだった。そのお陰で悟空達は、サングラス越しではあるが、ボラリスを目を背けずに見えた。今度はトランクスが尋ねた。

「ボラリスとか言ったな。貴様の元は何だ?光か?」
「いいや。ポラリスという金属だ」
「金属か・・・。金属だったら、この場で貴様を元に戻しても、誰も迷惑を受けない。さあ、天津飯さん!真実の目を!」

ボラリスを見て不吉な予感がしたトランクスは、早々に天津飯に真実の目を使用してもらい、ボラリスを闘わずに片付けようとした。しかし、天津飯は、真実の目を使おうとせず、首を横に振った。

「トランクス。こいつに真実の目は使えない。真実の目は、裸眼で凝視しなければ効果を発揮しないからだ。サングラスを外して無理に真実の目を使おうとすれば、おそらく元に戻す前に俺が失明するだろう。こいつが光っているのが真実の目対策だとしたら、敵は真実の目の対処法を知っている事になる」

ボラリスが余りにも眩しいので、天津飯はサングラスを掛けざるを得なかった。しかし、サングラス越しでは真実の目を使えない。トランクスはショックを受けたが、天津飯の受けたショックの方が大きかった。悟空達の大きな役に立つと思われた真実の目が、使えなくなったからである。呆然とする悟空達を、ボラリスは鼻で笑った。

「先日の地球での闘いを観戦していたドクター・ストマックは、即座に元素戦士を元に戻す技の対処法を見つけ、一つの元素コアのプログラムに発光機能を追加した。その元素コアが俺の体を構成している。だから俺は自由に光る事が出来る」
「真実の目が使えねえなら、実力でこいつを倒せば良いんだろ?オラとしては、そっちの方が良い。今までの元素戦士より手強そうな奴だから、腕が鳴るぜ」

悟空は、天津飯が真実の目が使えなくても悲観しておらず、勇んで身構えた。しかし、ボラリスは、悟空に取り合おうとしなかった。そして、超スピードで天津飯に近付き、その脇腹を殴った。そして、一瞬で気を失った天津飯の体を抱えた。この間、悟空達は誰一人として反応すら出来なかった。それだけボラリスのスピードが突出していた。ようやく状況を把握した悟空は、ボラリスに向かって叫んだ。

「待て!天津飯を、どうする気だ!?」
「殺しはしない。殺すつもりなら、今の一撃で殺していた。こいつはドクター・ストマックの元に連れて行く。ドクター・ストマックが直々に、こいつの目を研究したいそうだ。何せ元素戦士を元に戻す芸当をしたのは、こいつが初めてだからな。じゃあな。命があったら、また会おう」

ボラリスは天津飯を抱えて基地に引き上げてしまった。悟空達は後を追ったが、ボラリスとは入れ違いで、基地の中から無数の何かが飛び出してきた。それは元素戦士の群れだった。元素戦士の数は千を優に上回っていた。これまでは天津飯が居たから、元素戦士達は鳴りを潜めていたが、天津飯が居なくなった今、元素戦士達は我先にと突進してきた。天津飯の救出は後回しで、悟空達は早急に元素戦士達を迎え撃たなければならない事態に陥った。

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