ピッコロが火の元素戦士マズと闘っていた頃、超サイヤ人4に変身したトランクスは、 水の元素戦士キュリと闘っていた。
マズの体が火で構成されているなら、キュリの体は水で構成されていた。その為にトランクスは、ピッコロの様に熱や火傷に苦しめられず、逆に涼しくて気持ち良く闘えた。
序盤はトランクスが一歩リードしており、劣勢のキュリは、何発もの攻撃を喰らっていた。このまま肉弾戦を続けるのは不利と判断し、トランクスに人差し指を向けた。すると指先から水が勢いよく放出された。トランクスは危険を察知して咄嗟に水を避け、水はトランクスの背後にあった岩山を貫通した。もしトランクスが水だと侮って避けなければ、体に穴が開いていたかもしれない。水の余りの威力に驚いたトランクスは、涼しさではなく、寒気を感じた。
「貴様は何者だ?触れた時の感触といい、今の攻撃といい、まるで水の化身だ」
「仰る通りです。私の体は水と、それを維持する元素コアで出来ています。しかし、見た目に騙されないで下さい。私の体の水は、多くの星から集められたものです。ハッキリ言って、この星の総水量より多いです。だから、もし私が死ねば、水が維持されなくなって溢れ出し、この星の全大陸が水没してしまいますよ」
マズ同様、キュリの体のサイズも成人男性と大して変わらなかった。その体が地球の総水量以上の水で構成されているならば、相当な量の水が凝縮されている事になる。俄かに信じられない話だが、これだけ強い敵を構成する水の量が少量とも思えない。しかも、その水がキュリの死により一気に溢れ出し、地球全土を水没させてしまう。キュリの話が真実なら、地球上でキュリを倒す訳にはいかない。倒し難い敵を目の前にして、トランクスは困惑した。
「貴様の体が水だというのは分かった。気を感じない時点で、普通の体でない事が明白だからな。ところで、同じ元素戦士でありながら、口調が違うのは何故だ?もう一人の奴は、荒々しい口調だったぞ」
「細かい事を気にしますね。性質の違いが性格に影響しているからです。水の元素戦士は穏やかな水の様に冷静沈着となり、火の元素戦士は燃え盛る火の様に激しい性格となります」
元素戦士は強く、命令に忠実であれば良い。それだけを考えて元素コアが作られたので、元素戦士の性格までは調整されず、取り込んだものの性質によって性格が左右された。
「話し合いは、そろそろ終わりにしましょう。私達は、殺し合いをしているんですからね。私の水で死になさい」
キュリはトランクスを指差して水を何発も放ち、トランクスは避け続けた。一発でも当たれば大ダメージを受け、当たり所が悪ければ死ぬかもしれないので、トランクスは必死になって避け続けた。この水は、威力こそあるが、コップ一杯分位の量しか使われていなかった。そんな微々たる量なので、キュリにとって非常に効率が良い技であった。むしろ動き回るトランクスのエネルギーの消費量の方が多かった。
しかし、このまま防戦一方に終始するトランクスではなかった。トランクスは、キュリの側面に回り込んで衝撃波を出し、キュリを遠くに吹っ飛ばした。そして、その後を追い、吹っ飛ばされてるキュリに追いついて殴った。更に追撃しようとしたが、キュリに回避された。身体能力はトランクスの方が上で、技はトランクスに見切られて全く当たらないので、現状では勝ち目が薄いと判断したキュリは、トランクスから逃げる様に移動を開始した。トランクスは追尾した。
海に到着したキュリは、海の中に飛び込んだ。トランクスは、海の中までは追わず、キュリが出てくるのを海上で待った。ところが、キュリを待つ間に海に異変が起こった。何と海の水が目に見えて減っていったのである。トランクスが海に向けてエネルギー波を放つと、大きな水飛沫と共にキュリが飛び上がってきた。
「海の水が急に減ったぞ。貴様の仕業だな。一体、何をした!?」
「海の水を吸収しました。半分程頂きました。あなたが途中で邪魔をしなければ、全て吸収していました」
キュリがダメージを受けると、その分の水が蒸発する。トランクスの攻撃で既に大量の水を消耗していたキュリは、海の中に入って減った分以上の水を吸収した。それによってキュリは回復したが、海の水が半分も失われた。
「では、第二ラウンドといきましょう」
先程までとは打って変わり、キュリの方からトランクスに飛び掛かってきた。危険を察知したトランクスは、上空に移動して回避したが、キュリが追跡してきた。キュリの方がスピードが速く、遂に追いつかれてしまった。キュリは再び水を放ち、それがトランクスの頬を掠った。先程までの水よりスピードが上だった。キュリは、海の水を吸収して回復しただけでなく、パワーアップしていた。これは体を構成する火や水の量が多ければ多い程に強くなる元素戦士の特性であった。
キュリは何発も水を放ち、トランクスは身を固めてダメージを減らすのが精一杯だった。ところが、劣勢であるはずのトランクスの表情には悲壮感が無かった。キュリが海のある場所まで移動したのは、水を吸収する為だけでなく、トランクスを仲間から引き離す狙いもあった。そして、今は仲間が側に居ない状況なのに、トランクスに焦りが見られなかった。流石に訝しんだキュリは、一旦攻撃を止めた。
「よく平然としていられますね。仲間が助けに来てくれると思っているのですか?」
「いいや。皆は分かっているんだ。俺が負けるはずないとな」
「よくそんな強がりを言えますね。本当は見捨てられたんじゃないのですか?」
「強がりだと思うか?貴様が知らないだけだ。特別サービスだ。見せてやろう。俺の新たな力をな」
トランクスが全身に力を入れると、トランクスの体が徐々に変化していた。激しい炎の様相をした黄金色のオーラに全身を包まれ、胸毛が胸を完全に覆い、上半身の毛の色が全て赤から茶色に染まり、瞳の色が赤になり、今までとは比べ物にならないほどの大きな気が発せられた。何とトランクスは、超サイヤ人5に変身したのである。トランクスの余りにも大き過ぎる気に、キュリの表情は一変した。
「どうだ?強がりでないと分かっただろ?奪われた地球の水を返してもらうぞ」
トランクスは、キュリに急接近し、激しく攻撃した。対するキュリは、避ける事すら出来ず、攻撃を受け続けた。
「悪かったな。貴様の力を舐めていたんだ。最初は超サイヤ人4でも余裕で倒せると思っていた。俺が超サイヤ人5になったからには、もう貴様に勝ち目は無い」
「こ、これ程まで強いとは・・・。とんだ計算違いでしたよ」
キュリは、再び海の中に潜り、残った半分の水を吸収しようとした。しかし、トランクスに足を掴まれ、海の中に入れなかった。ならばと至近距離から水を何発も放ったが、トランクスに余裕で全て弾き飛ばされた。
「貴様達は、俺達の力を見くびっていたようだ。俺達を倒すなら、もっと強い元素戦士を送り込むべきだったな」
「大した自信ですね。しかし、あなた方に勝ち目はありませんよ。元素戦士は大勢居るんですからね」
「数が多くても、お前と実力が大して変わらないなら問題無い。全員倒すまでだ」
トランクスは、両手を高く掲げ、手の平の上に元気玉級の巨大なエネルギー球を作った。
「受けてみろ!シューティングスターアタック!」
トランクスは、作ったエネルギー球をキュリに向けて放った。エネルギー球は、まるで流星の様に弧を描いて突き進み、キュリは、エネルギー球に押し出されて宇宙空間まで追いやられた。そして、エネルギー球は爆発し、キュリは爆発に巻き込まれて息絶えた。キュリが死ぬと体は元の水に戻り、その一部が地球に降り注いだ。海の水位が見る見る上昇し、先程キュリに海の水を奪われる前と同じ位の水位にまで戻った。
「ふう。何とか奪われた分の水は取り戻したかな。あいつを地球上で倒すと、今度は地球全域が水没してしまうからな」
キュリの体を構成していた水は、地球に存在する全ての水の量より多かった。その為にトランクスは、キュリを宇宙空間まで連れて行ってから倒し、全ての水が地球に降り注がないよう配慮していた。
トランクスは、変身を解き、悟空達の元へ意気揚々と移動した。この頃には既にピッコロの作戦でマズが倒されていたので、皆でトランクスの帰還を待っていた。トランクスの姿を見るや、ベジータがいの一番に声を掛けた。
「よくやったと言いたい所だが、あの程度の敵を倒すのに時間を掛け過ぎだ!さっさと超サイヤ人5になっていれば、ノーダメージで、もっと早く終わらせられたはずだ」
「すいません。つい遊んでしまいました」
「まあ良い。それはそうと、かなり強くなったな。俺を越える日も近いだろう」
「そんな・・・。俺なんてまだまだです。まあ、悟天には大差を付けたと思いますが」
トランクスは、悟天が自分より先に超サイヤ人5に変身出来るようになった事を、この時点ではまだ知らなかった。そして、これまでの経緯が地球の近くに打ち上げられたスパイ型の人工衛星により、全てドクター・ストマック側に筒抜けとなっている事も知らなかった。それはトランクスばかりでなく、悟空達全員に当てはまる事ではあるが。
コメント