其の八十二 ジンの最期

レードとフリーザがフュージョンして誕生したレリーザは、一瞬でジンの背後に回った。背後を取られるまでレリーザの動きを把握出来なかったジンの表情からは笑みが消え、額から汗が滲み出ていた。

「これまで随分と痛い目に遭わせてくれたね。たっぷりお返しするよ」

レリーザの右の人差し指から光線が発射された。背後からの至近距離、しかも高速だったので回避する間も無く、光線がジンの左胸を貫通した。左胸のダメージのせいでジンがバランスを崩すと、その背中をレリーザが蹴飛ばした。その後もレリーザの独壇場で、ジンには為す術無くレリーザからの攻撃を受け続けた。

レリーザの優勢に気を良くした悟天は、ふと周りを見渡し、ゴカンが倒れている事に気付いた。ゴカンの元に駆け寄り、傷付いた我が子を抱き上げた。ゴカンは、額から血を流しているが、命に別状は無く、大人しく眠っていた。その悟天の背後に、ゴカンよりも遥かに傷付いているセルが近付いてきた。セルは、恩着せがましく悟天に話し掛けた。

「お前の秘策とは、フリーザとレードを合体させる事だったとはな・・・。しかし、私が体を張って時間を稼いだからこそ合体が成功した事を忘れるなよ」
「ああ。それよりゴカンを危ない目に遭わせてしまった。やはり連れてこなければ良かった」
「何?おい、孫悟天。先程のゴカンの変化に気付かなかったのか?」
「変化だと?何かあったのか?」

セルやゴカンがジンと闘っていた頃、悟天は、レードとフリーザにフュージョンのポーズを教えるのに必死で、周りが見えていなかった。その為、ゴカンがジンの攻撃を受けて気を失い、それからゴカンがブロリーになった事に気付いていなかった。一方、セルは、一部始終を見ていたので、父親や本人すら知らないゴカンの秘密を知った。しかし、それを悟天に話さず、己の胸の内に秘める事にした。

「変化というのは・・・あ、あれだ。超サイヤ人になった事だ。その歳で超サイヤ人になるとは大したものだ」
「ああ、その事か。ゴカンは、物心が付いた頃から徹底的に鍛えさせていたからな。才能もあるし、超サイヤ人程度には簡単になれる。ゆくゆくは誰にも負けない最強の戦士になるだろう」

ゴカンは、物心付いた頃から猛特訓に励んでいた。しかし、それに対して一度も音を上げた事が無かった。友達がおらず、遊ぶ事すら知らないゴカンにとっては、修行こそが遊びだった。更にブロリー譲りの才能で、戦闘力は周囲の大人達が驚くほど飛躍的に向上していた。

「それにしても、あのフリーザとレードが合体した戦士は、恐ろしいスピードとパワーの持ち主だ。また、冷酷さと冷静さを併せ持っている。あれだけ圧倒的に強いにも拘らず、ジンの特殊能力を警戒して、正面から闘っていない。背後から急襲し、情け容赦無い攻撃を浴びせている。敵でなくて良かった」
「全くだ。あの強さがあれば、他のジニア人との闘いも楽勝だろう」

悟天とセルは、早くもレリーザの勝利を確信していた。二人にそう思わせる程、レリーザの身体能力が突出していた。あれだけ強かったジンが抵抗すら出来ず、レリーザの攻撃を受け続けていた。

レリーザは、ジンに止めを刺す為、右の人差し指に直径三メートルのエネルギー球を作った。そして、そのエネルギー球を放ったが、対するジンは、傷付いた体に鞭打って必死に動き、直撃を避けた。エネルギー球がジンの右半身を吹き飛ばしたが、失った部位は直ちに再生された。

「しぶとい奴だ。まともに喰らっていれば、楽になれたのに」

レリーザは攻撃を再開した。ジンは身動きすらままならず、再び攻撃を受け続けた。そして、レリーザがエネルギー球を放つと、ジンは身を反らし、またしてもエネルギー球の直撃を避けた。

「・・・なるほどね。君は、幾ら殴られても死なない。何故なら不死身だから。しかし、肉体が完全に消滅すれば、流石に死ぬ。だから僕の直接攻撃を避けようともせず、肉体を消滅させる止めの一撃を回避する事だけに集中しているんだ。でも、そんな無様な作戦が何時までも通用するかな?死なないからといって攻撃を受け続ければ、ダメージが蓄積されて動きが鈍くなる。今は止めの一撃を避けられても、いずれ避けられなくなるよ」

レリーザは、ジンの苦し紛れの作戦を見抜いていた。レリーザの攻撃を全て回避する事は不可能である。だからジンは、パンチやキックといった直接攻撃を回避する事を諦め、己の肉体を消滅させる止めの一撃だけを避ける事に専念していた。どんなに打撃を受けても死なないからこそ出来る捨て身の作戦だった。

ところが、これはレリーザにとっても歯痒い作戦であった。レリーザがジンを消滅させるエネルギー球を一つ作るのに、多少なりとも時間が掛かる。その間にジンが回避体勢になる。細胞一つ残さず消滅させなければならないのに、動かれては的を絞るのが難しい。二つ同時に作ったり、もっと大きなエネルギー球を作るなど論外である。更に時間が掛かり、ジンが遠ざかる機会を与えてしまうからである。ジンに遠くに移動されればされる程、攻撃を当てるのが難しくなる。

ジンは、自身の消滅を免れる為だけに、こんな悪足掻きをしている訳ではなかった。一連のレリーザの行動から判断して、フュージョンに制限時間があり、しかもそれが短い事まで見抜いていた。合体時間が無制限なら、レードとフリーザが合体に応じるはずがない。合体時間が長ければ、レリーザには己の優位を楽しむ余裕があるはずである。レリーザが急いでジンを消滅させようとしているのは、合体時間が短いからに他ならない。だからこそジンは、必死に時間稼ぎをしていた。

しかし、レリーザが指摘した通り、ジンの体にはダメージが蓄積されていた。例え合体が解けるまで耐え忍んでも、弱り切ってしまったら、レード達の餌食となる。そこでジンは、少しでも体力を温存しつつ合体が解けるまでの時間稼ぎとして、巨大化する事にした。ジンは、レリーザから離れると、体長を最大の百メートルにまで巨大化した。

「こ、これだけ体が大きければ、完全には消滅させられまい。また、体が大きければ、同じ攻撃を受けても、受けるダメージは体全体で見れば小さくなる。体が大きくなる事によって的が大きくなるが、どうせ攻撃を避けられないなら、巨大化していた方がましだ。お前の合体が解けるまでな」
「ふん。合体時間が短い事を見抜かれたようだね」

ジンは、危機に陥りながらも、打開策を考えていた。時間を稼ぐ方法としては、他に小型化がある。小型化して隠れれば見つかり難い。しかし、これだけの実力差があれば、小さくなったジンの動きすらレリーザには見えるかもしれない。そうなると、わざわざ手間の掛かる巨大なエネルギー球を作らなくても、容易に消滅させられてしまう。それよりも巨大化すれば、的が大きくなって完全消滅させられるリスクが減る。しかし、その作戦は、レリーザに通用しなかった。

「下らない作戦だ。もう君の底は見えた。そろそろ終わらせてあげるよ」

レリーザは、巨大化したジンに飛び掛かり、激しい攻撃を浴びせた。レリーザにとってジンの体の大きさは、さしたる問題では無かった。ジンは、素早く飛び回るレリーザの動きに対応出来ず、攻撃を受け続けた。やがて力尽き、大きな地響きを上げて倒れた。死んではいないが、気を失っていた。レリーザは、ジンの意識が無い事を確認すると、上空高く飛び上がり、直径二百メートルの巨大なエネルギー球を作った。それを見て、悟天とセルは大いに驚いた。

「ま、まずい!この星ごとジンを消す気だ!セル!早く俺達を瞬間移動で別の星に連れて行ってくれ!」
「その方が良さそうだな。ここに居れば、私達まで巻き添えを食う」

セルは、悟天とゴカンを連れて、近くの星まで瞬間移動した。その星は、ジンの分身により、既に滅ぼされた後だった。しかし、そこには動物が生存していたので、気を頼りに瞬間移動するには問題無かった。ジニア人達が殺すのは人間のような知的生命体であり、それ以外の動物は対象外だったのが幸いした。

セルが瞬間移動した直後に、レリーザのエネルギー球がジンを星ごと消滅させた。ジンの消滅により、別の星を侵略中だったジンの分身達も消えた。こうして銀河系を襲った悪は、より大きな悪の手によって滅ぼされた。

ジンの死は、同時にドクター・キドニーの死も意味した。ドクター・キドニーは、オーガンの一人である。今まで何人ものジニア人が倒されてきたが、全てオーガンより格下のボーンであった。宇宙一の頭脳集団を自負するジニア人の中でも、特に優れた者しかなる事が許されないオーガンが、敗れて死ぬなんて今まで一度も無かった。この前代未聞のニュースは、やがて惑星ジニアに大きな衝撃を齎した。

ジンを倒したレリーザは、悟天やセルの気が感じられる方角に向かって、宇宙空間を飛行した。その飛行中に合体が解けた。分離したレードとフリーザは、一言も喋らずに飛行した。やがて悟天達の元に到着したが、ジンの消滅を喜ぶ悟天やセルとは対照的に、表情が暗かった。その後、セルの瞬間移動で全員が惑星レードに戻った。

その夜、回復したセルは、同じく回復したフリーザとバーで落ち合い、ワインを飲みながら話し合った。

「どうした、フリーザ?ジンを倒せたのに暗い顔をして。嬉しくないのか?」
「その事は嬉しいさ。でも、レードと合体して嫌な気分になったよ。レードは、娘の死から完全に立ち直ったと思っていたけど、実はそうじゃなかった。まるで深い闇の中に沈んでいるかの様な心境だった。ジンが現れたから奮起しただけだ。また前の様に引き籠るかもしれないね。あんな奴と合体したら、誰だって気分が悪くなるよ。もう二度と合体はしないよ」

この後、レードが再び引き籠る事は無かったが、めっきり口数が減り、誰に対しても笑顔を見せる事が無かった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました