「この俺に勝つ方法だと!?それは何だ?」
ジンは、自分に勝つ方法があると言い放った悟天を一笑に付したかった。しかし、悟天が妙に堂々としているのが気になった。分身達を使って悟天の身辺も調査していたが、彼に今の自分を倒せる凄い技があるという報告を聞いていない。だからと言って、相手の力を見抜けない程に悟天が馬鹿だとも思えない。悟天の真意が分からないなら、手遅れになる前に、悟天が思い付いたジンの攻略法を言わせようとした。しかし、悟天は回答を避けた。
「ふっ、まあ楽しみにしてるんだな」
悟天は、思わせ振りな言葉を言い残して後退し、セルの側まで移動した。そして、セルと話し合った。
「しばらくの間、一人でジンの相手をしてくれ。出来るだけ長く時間を稼いで欲しい」
「何だと!?この私を捨て駒に使う気か!?生意気な奴め!」
「この闘いに敗れたら、俺達全員がジニア人の奴隷にされてしまうんだ。そうなるのが嫌だったら、少しは協力してくれ」
「ちっ。それでジンに勝てなかったら、お前を殺してやる!」
セルは、悟天に怒りを覚えながらも渋々承知し、気を最大限に高めた。そして、ジンに向かって単身で突っ込んでいった。一方、悟天は、レードとフリーザに近付き、彼等に小声で囁いた。
「レード様。フュージョンというのはご存知ですか?二人が合体して、凄い力を持った一人の人間になる技です」
「フュージョン?確か孫悟空とベジータが魔神龍戦で合体していたが、あれか?」
「はい。体の大きさや力が近い者同士でないと出来ませんが、ここにはレード様と同じ体型、ほぼ互角の力を持ったフリーザが居ます。二人が合体すれば、ジンに勝てます」
悟天が考えたジンに勝つ方法とは、レードとフリーザによるフュージョンだった。悟天は、フリーザが仲間になった時に、フリーザとレードのフュージョンを思い付いていた。理論上では、この二人の合体は可能だが、フリーザが即座に拒絶した。
「フュージョンなんて冗談じゃない!失敗したら無様な姿になるばかりか、ちっとも強くならない!お前だって先日、トランクスとやって失敗したじゃないか!」
「あれは久し振りにやったので俺達の息が合ってなかったから失敗しただけだ。やる前に練習していれば成功していた」
「息が合うまで練習させる気か!?それまでセルが持ち堪えられると思っているのか!?」
フリーザが怒るのも無理が無かった。二人共にフュージョンのポーズを傍から見た程度で、細部に至るまで完璧に覚えている訳ではない。ポーズを覚え、息を合わせられるようになるまでには、多少の時間を要する。その前にセルが倒され、ジンに妨害されれば終わりである。
「他に手段が無いんだ。父上、ここは悟天の作戦で行こう」
この成功する確率が低い悟天の作戦を、レードが受け入れた。フリーザにとって、レードの賛同は全くの予想外だった。それは悟天も同様だった。悟天は、レードが賛同するどころか問題点を次々と指摘して痛烈に批判すると思っていた。その批判を受ける覚悟で進言したが、レードが一切反論せずに賛同したので、思わず拍子抜けした。
「何だと!?本気で言っているのか!?」
「ああ。今はとにかく時間が惜しい。父上、早速練習を始めるぞ」
「こ、このフリーザともあろう者が、あんな変な踊りみたいな事をするとは・・・。変な踊りは、ギニュー特戦隊でたくさんだ!」
フリーザが渋々了承したので、フリーザ親子は、フュージョンをする事になった。まず二人がポーズを覚える為、悟天が二人の前で手本を見せた。二人は、共に渋い顔になったが、すぐに切り替えた。それからポーズの練習を始めた。悟天は、二人のポーズを細かくチェックしていた。この光景を少し離れた所から、ゴカンが白い目で見ていた。
「何だ、あれ?何でこんな大変な時に、ダンスの練習なんてしてるんだ?」
レード達がフュージョンの練習をしている頃、セルはジンに追い詰められていた。セルの全身は傷だらけで、立っているのがやっとの状態だった。一方、ジンの体には傷一つ無かった。新技法で改造され、大幅にパワーアップしたセルが手も足も出ない程に、今のジンが強過ぎたのである。
「随分と粘ったが、そろそろ限界だろう。これ以上、痛い目に遭いたくなかったら、さっさとそこをどけ」
「こ、この私が、ここまで一方的にやられるとは・・・。だが、私を甘く見るなよ。太陽拳!」
セルは、懐かしの太陽拳を使った。セルの至近距離に居たジンが眩しさで目が眩んだ隙に、セルは残った力を振り絞って超かめはめ波を放った。しかし、ジンは、上空高く飛び上がり、超かめはめ波を避けた。
「何をするかと思えば、単なる目眩ましか。あんな技で俺の動きを封じられるとでも思ったのか?気さえ感じれば、目が見えなくても余裕で躱せる」
ジンは、目を閉じたまま、余裕の笑みを浮かべていた。一方、力を使い切ったセルは、その場で片膝を付いた。この時、セルの危機を見兼ねたゴカンが超サイヤ人になり、無謀にもジンに飛び掛かっていった。しかし、ジンに容易く弾き飛ばされてしまった。ジンは、目を開き、倒れているゴカンを見た。
「誰かと思えば、ゴカンとかいうガキか。殺すつもりはなかったが、加減を誤ってしまった。・・・まあ良い。あんなガキが死んでも、特に惜しくは・・・何だ?」
ジンに叩かれて絶命したと思われたゴカンだったが、信じられない事に、彼の気が消えるどころか上昇してきた。それと同時に、気の感じまでが変わってきた。子供のものとは思えないほど巨大で邪悪さを帯びた気に、ジンは少しだけ驚いた。そして、ゴカンが立ち上がったが、その表情が先程までとは違っていた。わずか五歳の子供なのに邪な笑みを浮かべていた。
「ようやく体を自由に使えるようになったか・・・。どうやらゴカンが意識を失った時しか、この体を使えないようだな」
「二重人格か?珍しいな。おい。お前にも名前があるのか?」
「俺の名前か?ブロリーだ。相手がカカロットでないのは残念だが、存分に暴れさせてもらうぞ。はあっ!」
ゴカンの体は、かつて悟空達を何度も苦しめた伝説の超サイヤ人ブロリーの意思が支配していた。そして、ゴカン改めブロリーは、気を一気に高めた。筋肉が盛り上がり、目の瞳が見えなくなった。その姿は、子供と大人の違いがあるとはいえ、かつてのブロリーにそっくりだった。それからブロリーは、ジンに向かって無数のエネルギー球を投げつけた。
「人格が変わるだけで、こうも力が変わるとはな・・・。こんなケースは、今まで見た事が無かった。面白い!面白いぞ!」
ゴカンからブロリーとなって大幅にパワーアップしたが、それでもジンとは大きな隔たりがあった。ブロリーの攻撃は、ジンに全く通用しなかった。ところが、元が優秀な生物学者であるジンは、前代未聞の特異体質であるブロリーを観て、昔の血が騒いだ。反撃もせず、目の前のブロリーの観察に集中していた。
依然として攻撃を続行中のブロリーの背後が光ったかと思うと、そこにはレードやフリーザに似た一人の戦士が立っていた。顔の色は灰色で、胴体の色は白。そして、メタモル星人特有の服を着た戦士は、この場に居る誰よりも大きな気を持っていた。興奮していたブロリーも、そのブロリーに意識が集中していたジンも、その戦士から発せられる巨大な気を感じる方角に振り向いた。
「僕は、フリーザでもレードでもない。レリーザだ。ジン。君を殺すよ」
このレリーザと名乗った戦士は、言うまでも無く、レードとフリーザが合体した戦士である。ジンがセルやブロリーに気を取られている間、悟天の指導の下、レードとフリーザは、フュージョンのポーズを完璧に覚え、息も合わせられるようになっていた。そして、フュージョンを一回で成功させた。
ジンは、ブロリーの相手をするのを止め、レリーザの目の前まで移動した。一方、ブロリーは、まだまだ暴れ足りなかったが、今の自分の力量ではジンに通用しない事が分かっていたので、大人しく引き下がった。そして、変身を解くと、その場に倒れ伏し、深い眠りに入った。
「孫悟天が言ってたのはこれか・・・。なるほど。この俺に勝てると言うのも、あながち嘘ではなさそうだ。やはり宇宙は広い。二人が合体して、一人の人間になる技など想像すらしていなかった」
ジンは、レリーザを目の前にしても、冷静さを保っていた。
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