ジンの正体は、何とドクター・キドニーだった。この衝撃の事実を知り、悟天・フリーザ・セル・ゴカンは仰天した。そして、セルがレードに質問した。
「レード。何時からジンの正体に気付いていた?初っ端の無様な闘い振りからか?」
戦闘開始直後のジンは、まるで素人の様な無様な闘い振りであった。そこからレードの闘い方を観て学習し、直ぐに玄人の如き闘い振りになった。この驚異的な学習能力の高さを考慮して、ジンがドクター・キドニーであるとレードが結論付けたのではないかとセルは思った。
「それもある。しかし、最初に疑念を抱いたのは、ジンの言動からだ。ジンは、ドクター・キドニーに命令されているとは一度も言っていない。もしジンがドクター・キドニーとは別人で、人の手によって創られた人工生命体なら、創造主の命令に忠実に従う部下になるようプログラムされるはずだ。しかし、分身達への指示も含め、ジンは全て自分の意思で行動していた」
レードの言葉を聞いて、セルが思い返してみると、確かにジンは、ドクター・キドニーに命令されたとは一度も言わなかった。しかし、それだけでは、ジンがドクター・キドニーの判断を仰いで行動している訳ではないと判明しただけで、同一人物であると確信するには判断材料として不十分だった。セルは、その点を追求した。
「ジンが命令されて行動している訳ではないと言って、それだけでドクター・キドニーと同一人物だと決めつけるには無理がある。ジンを信頼し、全権を委ねていると考える方が自然だ」
「強さと頭脳を併せ持ち、分身まで生み出せるジンに全権を委ねたら、自分の地位が脅かされると考える方が自然だ。こんな優秀過ぎる部下が居たら、上に立つ者なら常に監視し、行動を制限する。それをされていないのは、ジンがドクター・キドニー自身だからだ」
セル、そして脇で話を聞いていたフリーザは、今更ながらレードの賢さに驚いていた。しかし、レードは、一切得意がらず、ジンと向き合って問い質した。
「ジン。貴様の正体を知った今、分からない事が二つある。一つは、どうして自分の正体を必死で隠そうとしなかった?貴様程の男が本気で隠そうとすれば、最後まで見抜かれなかったはずだ。もう一つは、どうして自らの体を化物に改造した?わざわざ自分の体を使わなくても、協力者、あるいは本当に人工生命体を創れば良かったではないか」
レードがジンの正体に気付けたのは、ジンが喋る言葉の節々からだった。そこには直接でないにしろ、ジンの正体を見抜くヒントが随所にあった。しかも、ジンは、それ等を失言だと思っておらず、自分の正体が明かされても平然としていた。むしろ早く気付いて欲しいと期待している素振りだった。
もっと奇妙なのは、ドクター・キドニーが自らの体をジンという化物に変えた事だった。ここまで外見も中身も変えてしまったら、元の体に戻れる保証は無い。自らの体を化物にする位なら、レードが言う通り、他人を改造するか、新たな生物を創った方が良いはずだった。
レードの疑問に対し、ジンは笑いながら答えた。
「まず一つ目の質問から答えてやる。俺は、自分の正体を隠すつもりがなかった。黙っていただけだ。現に一部の協力者は、俺の正体に気付いていた。しかし、大半の協力者は、気付かなかった。ついでに言っておくが、俺の身代わりとなって死んだドクター・キドニーと名乗った者は、全くの別人ではない。改造前の俺の細胞から創られたクローンだ。外見は昔の俺だから、大抵の協力者は、本物だと勘違いした」
ドクター・キドニーの役をさせられたクローンは、ジンとドクター・キドニーが別人であると錯覚させる為に用意された傀儡であり、本物と同等の頭脳を持っている訳ではなかった。その為、改造前のドクター・キドニーを知る一部の協力者は、ジンこそがドクター・キドニー本人であると見抜いていた。
「二つ目の質問に対する答えだが、自らの体を改造するのは仕方なかった。ジニア人は、優れた頭脳の持ち主だが強くない。ミレニアムプロジェクトを進める内に、これが大きな問題となっていた。故郷を滅ぼされたが生き延びた者達は、ジニア人に深い恨みを抱き、直接ジニア人を襲う場合がある。既に何人ものジニア人が殺されたし、俺自身も何度も危ない目に遭った。流石に何時、何処で、誰に、どんな方法で襲われるかまでは分からない。護衛が居ても万全ではない」
ジニア人は、何千億とある銀河を支配するつもりだから、既に途方もない数の星を滅ぼしていた。その過程で、星に住む住人を皆殺しにしていたが、見落としたりして殺しそびれる事もあった。そうして生き延びた者達は、仲間を殺したロボットやサイボーグではなく、それを指示したジニア人を狙った。その結果、これまで何人ものジニア人が殺されてきた。ジニア人の傍に護衛が居ても、その護衛が襲撃者と対戦中に別の襲撃者が現れたら、ジニア人は一溜りもなかった。
襲撃から身を守る為、ドクター・キドニーは、自身のクローンを用意し、影武者をさせた。しかし、それでも万全ではないと考え、自らの体を改造して強くしようと考えた。そして、自らの体をジンという化物に改造した。改造前は人工生命体を創ってミレニアムプロジェクトを進めていたが、改造後はジンの分身が役を担った。
襲撃から身を守る為とはいえ、自分の体を改造せざるを得なかったドクター・キドニーを、フリーザは嘲笑した。
「ふっ。弱い癖に大それた野望を抱くから、自分の体を改造しなければならない破目になるんだ。やはり支配者は、僕の様に元から強い者でないとね。そこまで体を改造してしまっては、もう元の人間には戻れまい。仲間のジニア人にも恥ずかしくて会えないんじゃないのか?そんな体になってまで全宇宙を支配する事に、一体何の意味があるんだい?」
フリーザの嘲笑に、初めてジンが真顔になって反論した。
「俺は、ミレニアムプロジェクトに我が身を捧げた。後悔などしていない。他のジニア人とは最近会っていないから、俺がこんな体になった事を彼等は知らない。しかし、彼等なら俺の心情を分かってくれるはずだ。それに、自分の体を改造したのは俺だけではない。我等のリーダーであるドクター・ブレインも自らの体を改造した。俺以上の化物になってな。そのドクター・ブレインは、惑星ジニアに居る。お前達は、惑星ジニアに行きたい様だが、もし行っても殺されるだけだ」
レード達にとって、ジンより恐ろしい化物が惑星ジニアに居るという事は、大きな誤算だった。もしレード達だけで惑星ジニアに行けても、そんな恐ろしい化物が居るのであれば、将来の禍根となる悟飯を殺すどころか、自分達の方が殺されるかもしれない。レード達だけで惑星ジニアに行けないなら、何の為に危険を冒してまでジンに闘いを挑んだのか。しかも今は、ジンの前に敗れ去ろうとしている。レードは、自分達の力を過信し、ジニア人を軽視した己の愚かさを悔いた。
「ついでに教えてやろう。孫悟天。お前の兄の孫悟飯は、ドクター・ブレインに触れられただけで、三日三晩生死の境を彷徨った。これを聞いただけでも、いかにドクター・ブレインが恐ろしい御仁なのかが分かるだろう」
「ふ、触れただけでだと!?」
悟天は、久し振りに兄の名前を聞いたが、その兄が酷い目に遭わされた事に怒るよりも、触れただけで兄を倒したドクター・ブレインの凄さに驚いていた。父に殺意を抱いた瞬間から、心の中で地球に住む家族や仲間全員と決別していたので、もう兄も他人となっていた。
レード達の気分が沈んでしまったので、ジンは上機嫌で話を続けた。
「ようやくジニア人に歯向かった自分達の愚かさに気付いたようだな。まあ、そう落ち込むな。お前達を殺すには余りにも惜しい。協力者として生かしておいてやろう。どうせ素直に従わないだろうから、捕らえて洗脳する。それと同時に、お前達の体から細胞を取り出し、その遺伝子を操作し、俺の体に取り込む。そうすれば、俺は更に強くなれるはずだ」
既に勝ったつもりでいるジンに対し、レード達は何も言い返せなかった。全く勝機を見出せなかったからである。しかし、悟天だけは違っていた。悟天は一歩前に進むと、ジンに向かって大見得を切った。
「ジン!良い気になるなよ!まだ貴様が勝つと決まった訳ではない!」
「ふん。何を言うかと思ったら、下らん負け惜しみか。お前達では俺に勝てない事が分かったはずだ」
「いや!勝てる!たった一つ勝つ方法がある!」
悟天が見つけたジンに勝つ方法。それは、ジンさえも思い付かない奇想天外な手段であった。
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