レード達がジンと死闘を演じている頃、彼等と別行動していたゴカンと五人のセルジュニアは、遂にドクター・キドニーの研究所の場所を突き止めた。ゴカン達は、研究所内に突入し、ある部屋の中に入った。その部屋には十人位のジンの分身の他、一人の白衣を着た男が居た。その男は、背が高く、長髪の美青年だった。そして、その男の周りに居るジンの分身達は、気を消していた。そのせいでゴカン達は、部屋の中に入るまで、ジンの分身達の存在に気付かなかった。
「協力者と言われている奴等と違って、お前だけはジンの分身達に守られている。お前がドクター・キドニーだな?」
「そうだ。子供のくせに、よくここまで来れたな。しかし、それもここまでだ。行け!分身達よ!奴等を皆殺しにしろ!」
「セルジュニア達!お前達の力を見せてやれ!」
セルジュニア達とジンの分身達は、同時に飛び掛かり、部屋の中で激しく交戦した。セルに準ずる強さを持つセルジュニア達は、瞬く間に九人の分身を倒した。ところが、最後に残った一本角の分身が小型化し、一人のセルジュニアの体内に入ってから元の大きさに戻った。その結果、そのセルジュニアは、破裂して死んだ。分身は、同様の手で次々とセルジュニアを殺したが、五人目のセルジュニアの体内に入った時、セルジュニアが観念して自爆したので、二人同時に息絶えた。
セルジュニアとジンの分身が全滅し、その場にはゴカンとドクター・キドニーだけが残った。ゴカンは、余裕の表情を見せ、ドクター・キドニーの目の前まで歩み寄った。
「お前を守ってくれる者は、居なくなった。死にたくなければ、父ちゃん達の前で惑星ジニアの場所を言うんだな。こんな子供に殺されたくねえだろ?」
すっかり勝ち誇ったゴカンは、レード達の面前にドクター・キドニーを連行し、そこで惑星ジニアの場所を吐かせようとした。これはレードによる指示で、子供のゴカンがドクター・キドニーから惑星ジニアの場所を聞き出しても、覚えられないか間違えて覚える危険がある。それよりも大人であるレードが聞いた方が、間違えずに覚えられるので安全である。しかし、ドクター・キドニーは、予想外の行動に出た。
「敵に惑星ジニアの場所を言う位なら、今すぐ死んでやる!」
ドクター・キドニーは、懐から銃を取り出すと、銃口を自分の蟀谷に当てた。
「へっ。そんな脅しに俺が驚くとでも思ったのか?子供だと思って舐めるなよ」
ゴカンは、ドクター・キドニーの行為を単なる脅しだと思い、真面目に受け止めなかった。ところが、ドクター・キドニーは、実際に銃弾を発射し、自害して果ててしまった。すっかり油断していたゴカンが驚いたのは語るまでもなかった。
「げげっ!死んじゃった!ドクター・キドニーを生かして連れて来いと言われてたのに・・・。父ちゃん達に怒られちゃうよー。うーん、どうしよう・・・。仕方ない。誤魔化せそうにないし、この事を正直に言わないと・・・」
任務を果たせずに意気消沈したゴカンは、叱られる覚悟で悟天の居る方角に向かって飛んでいった。
一方、悟天は、セルと共に絶体絶命の危機に陥っていた。倒れたレードやフリーザも立ち上がり、四人掛かりでジンに立ち向かっていったが、パワーアップしたジンの強さは圧倒的で、手も足も出なかった。四人の体は、傷だらけだった。そんな状況の時、ゴカンが飛んで来た。戦闘は中断し、その場に居る全員がゴカンに注目した。ゴカンは、悟天の目の前に降り立つと、開口一番に謝った。
「父ちゃん!御免!ドクター・キドニーを連れて来ようとしたんだけど、死んじゃった」
「死んだだと!?死んだのは、本当にドクター・キドニーだったのか?」
「うん。死ぬ前に俺が『ドクター・キドニーか?』と尋ねたら、『そうだ』って答えたもん。それに、そいつだけジンの分身達に守られてたし。その他の連中は分身に守られていなかったよ」
「そ、そうか・・・。しかし、そんなにあっさり死ぬとは・・・」
悟天は、ゴカンの報告を聞いて違和感を覚えた。それは悟天ばかりでなく、二人の話を聞いていたレードやフリーザ、セルも同様だった。そして、レードが逸早く違和感の原因を突き止めた。そして、ゴカンと向き合って諭し始めた。
「ゴカン。結論から言って、ドクター・キドニーは死んでいない」
「え!?だ、だってあいつ、自分がドクター・キドニーだって認めたんだよ」
「お前の話には不審な点が幾つもある。これから分かるように説明してやる」
レードは、ゴカンに不審な点を説明し始めた。まず「ドクター・キドニーか?」と訊かれて、馬鹿正直に本人であると答えるのは変である。人生経験豊富な大人ならともかく、ゴカンは他人の嘘を見抜けない未熟な子供である。しかもゴカンは、ドクター・キドニーの顔を知らない。別人がドクター・キドニーに成り済ましたと考える方が自然である。もっともドクター・キドニーは、ジンの分身達に守られていたので、油断して本人だと答えた可能性もある。
しかし、その分身達が全滅すると、ドクター・キドニーは、何の抵抗もせず、すぐに自らの命を絶った。幾ら強いとはいえ相手は子供、ましてや知能指数四千の超天才なら、上手く騙して生き延びる方法など幾らでも思い付くだろう。生への執着が微塵も無く、まるで死ぬ事が予め決まっていたかの様な手際の良さである。これは自らを大事な存在でないと認識し、誰か別の者の為の捨て駒になる事を覚悟している者の所業である。
以上の点を指摘され、ゴカンは、自分が浅慮だったと思い知った。しかし、落ち込むどころか、むしろ喜んだ。レードの話を聞くまでは、ドクター・キドニーが死んだのは自分のせいだと思い、自分を責めていた。ところが、死んだのがドクター・キドニー本人でなかったと知り、一安心した。
「じゃあ本物のドクター・キドニーは、何処かに隠れているって事?だったら、さっきの場所に戻って探してくるよ」
「無駄だ。探しても見つからない。ジンを見れば分かる。もしドクター・キドニーが何処かに隠れているなら、奴が死んだというゴカンの報告を聞いたジンは、動揺したはずだ。しかし、実際は少しも表情を変えていない。ドクター・キドニーが居ないのを知っているからだ」
レードは、ジンを見ながら話していた。ジンは、慌てた様子が見られず、薄ら笑いを浮かべたまま、黙ってレードの話を聞いていた。
ここでフリーザが、話に割り込んできた。
「だったら、ドクター・キドニーは、何処に居るんだ?もし奴が惑星ジニアに居たら、こちらは手の出しようがない」
「ドクター・キドニーが惑星ジニア、あるいは別の星でも構わないが、別の場所に潜伏しているなら、ジンは、そう言ってゴカンの徒労を嘲笑うだろう。居場所を隠す必要は無い」
仮にドクター・キドニーがこの星に居ないとし、それをレード達に隠しても、ジンには何の意味も無い。逆に居るのに居ないと主張しても、詰まらない嘘は、すぐに露見する。極めて優れた頭脳を持つジンが無意味だったり浅はかな行為をするはずがない、とレードは考えた。
続けてセルがレードに質問した。
「じゃあ、ドクター・キドニーは、何処に居るんだ?」
「結論を急ぐな。順を追って説明してやる。そもそもジンの行動は、最初から変だった。本来ならジンは、ドクター・キドニーを守るべき立場だ。こんな所で俺達と闘っている場合ではない。守ろうともせず、死んだと聞いても動揺しないなら、死んだのは影武者だ。本物ではない」
最後に悟天が質問した。
「ドクター・キドニーが本物でないなら、まさか本物は、ジンが殺したのですか?」
「そんな事をすれば、他のジニア人に命を狙われる。俺達と闘っている場合ではない」
「じ、じゃあ、本物のドクター・キドニーは、何処に隠れているのですか?」
「奴は隠れていない。姿を変えて、俺達の目の前に堂々と立っている。そうだろ?ジン。いや、ドクター・キドニーよ」
レードの予想外の言葉に驚いた悟天達四人は、慌てて視線をレードからジンの方に移した。ジンは、相変わらず冷笑を浮かべていた。レードは、ジンを睨みながら、言葉を続けた。
「俺の目は誤魔化せんぞ、ジン。お前が本物のドクター・キドニーだ」
「くっくっくっ・・・。ようやくその事に気付いたか。鈍い奴め。そうだ。お前の言う通り、俺がドクター・キドニーだ!」
ジンは、レードの指摘を否定するどころか、堂々と肯定した。悟天達は、ジンの衝撃の告白に驚くばかりだった。
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