悟天が苦労の末に超サイヤ人5への変身を果たした翌日、体調を万全の状態に戻したレードは、フリーザやセル、そして悟天親子を伴い、ジンのオリジナルが確認された星を訪れた。
レード達が惑星レードから出発する直前、ゴカンが共に行きたいと駄々を捏ねた。ゴカンは、子供ではあるものの、日々懸命に修行し、成長が著しかった。しかし、現在のゴカンの実力では、ジンのオリジナルは愚か、その分身にも歯が立たないのは明白だった。悟天は、アイスの忘れ形見であるゴカンの身を案じ、ゴカンに惑星レードに残るよう言い渡した。
ところが、レードがゴカンの帯同を許可した。レード曰く、自分達が星に着いたらゴカンを別行動させ、ドクター・キドニーを発見して捕獲させるという。敵地にて、人相を知らない、何処に潜伏しているのかも分からない人間を、年端も行かない子供に探させるという無謀極まりない作戦だが、帯同を許可されてゴカンが大喜びするので、悟天は何も言えなかった。
この三日間、レードは、小型探査機を何台も使ってジンのオリジナルが居る星を調査させていた。レードの小型探査機は、高性能の望遠鏡を使っているので、星に着陸するどころか接近すらせず、遠方からの撮影が可能という優れ物だった。ところが、ジンのオリジナルの姿は、度々目撃されたが、ドクター・キドニーらしき人物の姿は、一度も見当たらなかった。
レードが思い描くドクター・キドニーの人物像は、非常に用心深く、めったに外に出ない。ジンのオリジナルが外を見張り、ドクター・キドニーは何らかの建物の中に隠れている可能性が高い。そんな用心深いドクター・キドニーを発見し、捕まえるには、レード達がジンのオリジナルと闘っている時が最適だと思われる。捕えさえすれば、もしジンのオリジナルを相手に四人が絶体絶命の危機に陥っても、交渉次第で死地を脱出する事も出来る。ゴカンの役目は重要だった。
数年前にジニア人から奪い、改造した宇宙船を使ってレード達が目的の星に到着すると、まずセルが尻尾からセルジュニアを五人生み出した。もしドクター・キドニーの周りにジンの分身が居れば、ゴカンでは太刀打ち出来ない。そこでセルジュニア達が代わりに分身と戦う役目を担っていた。セルのパワーアップに合わせて大幅に力を増したセルジュニア達なので、分身にも対抗出来る実力があると思われるが、知性が低いので、ゴカンが状況に応じて指示する事になった。
レードの小型探査機による調査の結果、多くの建物が密集している場所を発見していた。おそらく何処かの建物の中にドクター・キドニーが居ると思われるが、どの建物に居るかまでは特定出来なかった。レードは、その建物が密集している場所の方角をゴカンに教えると、ゴカンは、セルジュニアを連れて、そこに向かって飛んで行った。
ゴカン達と別れた後、レード達四人は、ジンのオリジナルに会う為に移動を開始した。もしオリジナルの気を感知出来なければ、オリジナルが度々目撃された場所に行こうというのが出発前のレードの提案だった。案の定、オリジナルらしき大きな気を感知出来なかったので、自分達の気を抑えながら移動した。目的地に到着すると、辺りの様子を慎重に窺った。
突然、地面から大きな手が突き出てきた。その大きな手は、手の平でレード達を押し潰そうと地面を叩いた。最初は驚いたレード達だったが、すぐに落ち着いて攻撃を避けた。大きな手は、尚もレード達を押し潰そうと何度も地面を叩いたが、彼等が次々と回避するので、見切りを付けて地面の中に引っ込んだ。そして、大きな手が突き出た時に生じた穴からジンが飛び出してきた。大きな手の正体は、地面の中に潜り込み、巨大化したジンの手であった。
レード達は、角の数を確認せずとも、大きな気を感じられなくても、そのジンがオリジナルであると分かった。目の前のジンの威圧感が、これまで出会った分身達とは明らかに違っていたからである。
「改めて自己紹介する必要は無いだろうが、俺が本物のジンだ。お前達の訪問を歓迎する」
「手洗い歓迎だね。僕達が今日ここに来る事が分かっていなければ、あんな歓迎は出来なかったはずだ。こちらの動きは全てお見通しだったのかな?」
「当然だ。お前達がこちらを監視していたように、こちらもお前達を監視していた。分身が気を消した状態で小型化すれば、潜入しても、まず気付かれない」
ジンの分身達が惑星レードに出現したのは、一回だけではなかった。悟天が修行していた三日間、何度も襲撃してきた。しかし、襲ってくる分身達は、せいぜい十人か二十人位だったので、フリーザとセルの二人だけで撃退出来た。ところが、分身は何人でも生み出せるから、襲撃する分身の人数を更に増やせば、惑星レードに居る戦士を総動員しても防げなかったはずである。実の所、ジンは分身達を使ってレード達を倒そうと考えていなかった。
ジンが分身を何度も惑星レードに向かわせた本当の狙いは、惑星レード内の情報を得る為だった。分身達が惑星レードに到着すると、襲撃する前に数人の分身が群れから離れて気を消し、小型化して潜伏した。潜伏中は、レード達の様子を大人しく観察していた。そして、次回の分身達の襲撃時に、潜伏していた分身達は拠点に戻ってオリジナルに現状を報告し、代わりに別の分身達が同じように観察していた。こうしてジンは、惑星レードの内部情報を把握していた。
「そんな手の込んだ事をしないでも、分身を大勢作り、そいつ等に惑星レードを襲わせれば、私達を簡単に倒せたはずだ。何故それをしなかった?」
「そんな味気無い方法で倒しても面白くない。やはり自分の手で仕留めねばな。しかし、俺は、この星から離れられないから、お前達の方から来てもらわなければならなかった。お前達を来させる為に、わざと発信機を放置し、遠方からの探査機を使った監視も見逃してきた」
ジンは、レードが発信機を使った事も、小型探査機を使って監視していた事も、既に知っていた。それに引き換え、ジンが分身を使ってレード達を観察していた事に、レード達は誰一人として気付いていなかった。更に、レード達が知り得た情報は、上空から撮影した映像だけなのに対し、ジンが入手した情報は、各人の個人情報や会話の内容といった詳細なものだった。戦闘前の情報戦は、完全にジンの方に軍配が上がった。
「さて、話はここまでにして、そろそろ始めるとしようか。はあっ!」
ジンは抑えていた気を開放した。その気は、まだ戦闘前だというのに、一本角の分身の全力時を遥かに超えていた。
「お前達四人の内、三人は俺と闘う資格があると見て良いだろう。しかし、孫悟天。お前は超サイヤ人5とやらになりたてで、その力を存分に使いこなせるか疑問だ。少し試させてもらうぞ」
ジンの背中に大きな穴が生じた。そして、その穴からもう一人のジンが抜け出してきた。抜け出してきたジンの頭には一本の角が生えていた。オリジナルのジンの体の穴は、すぐに小さくなり、やがて見えなくなった。ジンは、レード達の目の前で分身を作った。
「・・・なるほど。分身は、こうして作られるのか」
「感心している場合ではないぞ、孫悟天。お前一人の力で、この分身を倒せ。こいつに勝てないようでは、俺と戦う資格は無い。見事こいつを倒して、お前の力を証明してみろ」
悟天は、挑発されて引き下がる男ではなかった。すぐに超サイヤ人5に変身し、ジンのオリジナルの挑発に乗った。
「待て、孫悟天。分身と闘うな。勝てたとしても、エネルギーを無駄に消費するだけだ。今はオリジナルを倒す事だけ考えろ。この分身は、俺がすぐに仕留めてやる」
「いえ、闘わせて下さい。分身に一人で闘って勝てないようでは、オリジナルと闘っても、皆の足手纏いになるだけです。それに俺の最終目標は孫悟空です。ジンの分身如きに勝てないようでは、孫悟空には一生勝てません」
レード達全員が万全の状態でジンのオリジナルと戦う為には、悟天だけで分身と戦うべきではなった。レードが悟天に「戦うな」と言うのも、至極当然の事だった。しかし、悟天はレードの制止を振り切り、分身と戦おうとした。レードは悟天の説得を諦め、フリーザやセルと共に後方に退いた。
悟天とジンの分身は、双方同時に飛び掛かった。そして、激しい攻防戦を繰り広げた。以前の悟天だったら、一本角の分身に手も足も出なかった。しかし、超サイヤ人5になった今の悟天だと、互角に渡り合えた。悟天は自分が強くなったと実感していた。
悟天の実力を侮り難しと見たジンの分身は、体を一センチ位にまで縮小した。以前、別の分身がセルにしたように、この分身も小型化して体内に入り、それから巨大化して悟天を倒そうとした。分身は、悟天の周りを飛び回った。対する悟天は、口を閉じ、両手で両耳の穴を塞いだ。分身が自分の体内に入るのを防ぐ為である。ならばと分身は、悟天の鼻の穴に入り、彼の体内に潜り込もうとした。しかし、悟天は、耳を押さえていた手を離し、飛び込んできた分身を素早く捕らえた。
「くっ!ど、どうして俺は捕まってしまったんだ!?お前は俺の動きを捉えられなかったはずだぞ!」
「簡単な事だ。耳と口を塞げば、残るは鼻しかない。狙いさえ分かれば、後は待ち構えていれば良い。どんなに速く動いても、行き先が分かっているので、そこにだけ集中していれば、捕まえるのは難しくない」
ジンの分身は、悟天の手の平から逃れようと暴れたが、悟天がきつく握っていたので、脱出が出来なかった。ならばと巨大化しようとしたが、その前に悟天が分身を持つ手を強く握り締め、分身の体を粉々に握り潰した。鮮やかな悟天の勝利だったが、ジンのオリジナルは、驚きもしなかった。そして、不敵な笑みを浮かべていた。
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