悟天に厳しい試練を課したレードは、基地内の一室で、空飛ぶ玉座に腰掛けながら、何食わぬ顔でワインを飲んでいた。レードの傍らに居たフリーザは、頃合を見てレードに質問した。
「レード。あの孫悟天が三日で超サイヤ人5になれると本気で思っているのか?奴を殺すにしても、せめて孫悟空と闘わせた後の方が良いんじゃないか?」
フリーザは、悟天に同情している訳ではなく、悟天と悟空を闘わせ、その勝者を自分が殺す計画を駄目にしたくなかった。また、難敵に立ち向かおうとしている今、味方の数を減らすのは得策でないと考えていた。しかし、レードは全く意に介さなかった。
「現時点における孫悟空と孫悟天の実力差は、大きく開いている。しかも、孫悟空は日増しに強くなっている。その孫悟空を孫悟天が追い越す為には、死ぬ気で特訓して強くならなければならない。三日で超サイヤ人5になれと言ったのも、ギリギリまで追い込む為だ。そこまでやって超サイヤ人5になれないなら、到底孫悟空に勝てない。それなら今すぐ死んだ方が良い。生きていても見苦しいだけだ」
悟天が悟空に勝つ為には、悟空以上の修行をしなければならない。これまでと同じ修行を続けたままでは、何時まで経っても悟空に追いつけないと考えたレードは、敢えて厳しい試練を課し、悟天に今まで以上の厳しい修行を定着させる算段だった。
続いて、フリーザの隣に立っていたセルが質問した。
「私からも質問したい。もし孫悟天が超サイヤ人5になったら、この四人だけで本当にジンのオリジナルに挑む気か?孫悟天が超サイヤ人5になるならないに拘らず、孫悟空や、その仲間達の力を借りた方が、より確実に勝てると思う。オリジナルは、分身にはない能力を数多く持っているだろう。例え孫悟天が超サイヤ人5になれても、四人だけでは力及ばず全滅するかもしれないぞ」
自分達四人だけでジンのオリジナルに挑むより、多少の不協和音が生じても、悟空達と共に闘った方が良いとセルは考えていた。しかし、レードは目先の勝利よりも、大局的に物事を見ていた。
「サイヤ人は闘いを重ねれば重ねる程、強くなる種族だ。孫悟空達の力を借りて勝っても、結果として奴等を強くさせる事になり、最終的に奴等を倒すのが難しくなる。もし四人で闘って敗れても、それはそれで構わない。こちらに実力と運が無かっただけの話だ。何より闘いで命を落とす事を恐れているなら、その時点で孫悟空に負けている。少なくとも奴は死ぬのを恐れていない」
セルが悟空達との共闘を薦めた本当の理由は、戦力を増やす事で、オリジナルとの戦いで自分が命を落とす確率を下げる為であった。しかし、死を恐れる己の心の弱さをレードに見透かされたセルは、口を閉ざしてしまった。そんなセルを尻目に、レードは話し続けた。
「俺達だけで闘った方が良い理由がある。ジンのオリジナルを倒し、ドクター・キドニーから惑星ジニアの場所を聞き出したら、孫悟空達には知らせず、俺達だけで惑星ジニアに攻め入る。不意を突けば、ジニア人とて一溜りもあるまい。そして、孫悟飯が生きていたら殺す。いずれ孫悟空と闘うなら、その前に奴の仲間を一人でも多く排除しておくべきだ。しかし、孫悟空達と共闘すれば、奴等と共に惑星ジニアに攻め入る事になるので、孫悟飯に手が出し難くなる」
レードは、いずれ訪れる悟空達との決戦の日を見据え、少しでも自分達が有利に戦う為には、悟空側の戦力を事前に削ぐべきだと考えていた。自分達だけで惑星ジニアを攻略すれば、そこに居る悟飯を殺そうとしても、悟空達の妨害が入らない。無論、惑星ジニアは敵の本拠地なので、そこに攻め入るとなれば、多少の危険は覚悟の上である。しかし、レードは全く臆していなかった。
居た堪れなくなったフリーザとセルは、無言で退室した。そして、別の部屋の中に入り、辺りに誰も居ないのを確認してから話し合った。
「以前のレードなら付け入る隙があったが、今は無い。娘を失った事が、結果として奴を冷酷無比な宇宙の帝王にしてしまったようだ。どうする?あれでは簡単に殺せないぞ」
「ジンさえ現れなければ、今頃レードを殺していたはずなのに・・・。まあ良い。当面は味方の振りをしながら様子を見る事にするよ。孫悟天と違って、こちらには時間があるんだからね」
レードを殺して、その座に取って代わりたいフリーザだったが、今はその時期でないと悟り、当分の間は大人しく様子を見る事にした。あのフリーザが手を出せないと思わせる程、今のレードには凄みがあった。
「もし孫悟天が三日以内に超サイヤ人5になれなければ、レードは私達三人だけで闘う気じゃないだろうか?先程の口振りでは、孫悟空達を参戦させるのを想定していない感じだった」
「確かに・・・。でも、別に良いんじゃない?オリジナルが分身より強いとはいえ、そんなに大した違いは無いんじゃないかな?おそらく僕一人だけでもいけると思うよ」
「大した自信だな。しかし、そう思う方が良いかもしれない。警戒し過ぎるよりもな」
ジンのオリジナルがどれだけ強いのかは、まだ分からない。しかし、とてつもなく強い化物を想定して、勝てないかもしれないと悲観的になるよりは、あっさり勝てると開き直った方が気持ち的に楽である。セルは、フリーザの余裕を見習う事にした。
その頃、悟天は睡眠時間を削って修行を続けていた。悟天が眠るのは、メディカルマシーンで傷や体力を癒している間だけだった。最新のメディカルマシーンは、どんな酷い怪我や疲労も十分で完治する為、悟天には余り眠る時間が無かった。眠気は疲労とは違う為、メディカルマシーンを使っても解消されない。しかし、悟天は自分の体に鞭打って眠気を抑え、修行に励んでいた。その甲斐あって、悟天の気は高まっていったが、超サイヤ人5になる兆候は一向に見られなかった。
一日過ぎ二日過ぎても、悟天は超サイヤ人5に変身出来なかった。その間、ジンの分身達が何度か惑星レードに襲撃してきた。しかも襲ってきた分身の角の数は全員一本なので、分身の中では最強である。分身達の中には、以前レードがわざと逃がした者も含まれていた。その分身達は、フリーザとセルが退治したが、彼等の実力を持ってしても容易ではなかった。また、襲撃の度に襲来する分身の数が多くなったので、フリーザ達は気が休まらなかった。
三日目の朝を迎えたが、まだ悟天は超サイヤ人5に変身出来なかった。時間が過ぎるにつれ、悟天の焦りは増していった。疲労と睡眠不足が原因で、悟天は修行中に床に倒れた。そして、不覚にも眠ってしまった。
夢の中の悟天は、暗闇の中で倒れていた。側には悟空が立っていた。悟天は倒れた状態のまま悟空を睨みつけたが、その悟空は、現実では決してしない人を見下した冷笑を浮かべていた。
「おめえがオラを倒す?笑わせるな。おめえじゃ一生オラに勝てねえ」
「な、何だと!?言わせておけば・・・」
悟天は立ち上がって悟空に殴り掛かろうとしたが、その前に悟空は消え、代わりにトランクスが現れた。トランクスもまた、悟天を侮蔑する表情を浮かべていた。
「よう、悟天。悟空さんを倒すなんて馬鹿げた考えは、しない方が良い。お前じゃ悟空さんは愚か、俺にも勝てない」
悟天はトランクスに殴り掛かったが、直前でトランクスが消え、代わりにアイスが現れた。悟天の表情から険しさが消えた。
「悟天。あなたには失望したわ」
「待ってくれ!違うんだ!アイス!アイスー!」
悟天は、アイスに駆け寄ろうとしたが、ここで目を覚ました。同時に、今まで夢を見ていた事を悟った。アイスの事を思えば、ここで休んでいる場合じゃない。気力を絞って立ち上がると、修行を再開した。
午後十一時を過ぎる頃になると、ゴカンだけでなく、フリーザやセルまでもが悟天の傍に居て、修行の成り行きを見守っていた。しかし、悟天は、彼等の存在に気付かない位に集中していた。そして、修行を中断すると、気を高めて超サイヤ人5への変身に挑んだ。今まで何度も挑戦したが、いつも途中で力尽き、超サイヤ人の変身が解けていた悟天だったが、今回は無理をしてでも気を出し続けた。
誰もが今回の挑戦も駄目だと思った瞬間、遂に奇跡は起こった。悟天の胸毛が胸を完全に覆い、上半身の毛の色が全て赤から茶色に染まり、瞳の色が赤になった。悟天は、遂に超サイヤ人5への変貌を遂げた。ゴカンは大喜びし、無理だと思っていたフリーザやセルは唖然としていた。
トレーニングルーム内で勤めていたレードの部下の一人は、急いで外に出て、レードが居る基地に向かった。そして、レードが居る部屋に大急ぎで駆け込み、レードに向かって大声で叫んだ。
「レ、レード様!と、とうとう孫悟天が・・・」
「お前が言わなくても気で分かる。明日は決戦だから、孫悟天には休むよう伝えろ」
レードの表情に変化は無かった。まるで悟天が超サイヤ人5になるのを初めから分かっているかのような素振りであった。
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