其の七十三 厳し過ぎる試練

惑星レードを脱出したジンの分身は、気を抑えながら宇宙空間を飛行し、時折後ろを振り返って後を付けられていないか確認した。そして、とある星に着陸した。そこはドクター・キドニーが拠点とする星で、彼や彼の協力者達の他、ジンのオリジナルも滞在していた。もし全ての分身の源であるオリジナルが死ねば、分身は全て消滅する。不測の事態に備える為、オリジナルは一番強いにも拘らず、星への侵略は分身に任せ、自身はドクター・キドニーの傍で待機していた。

逃げてきた分身を出迎えたのは、そのオリジナルだった。オリジナルとは言っても、外見は角が一本も無い以外は分身と同じだった。オリジナルと会った分身は、惑星レードで起こった出来事を包み隠さず話した。話を聞き終えたオリジナルは、嬉しそうに感想を述べた。

「分身の中では一番強い一本角でも勝てなかったか・・・。ボーンが次々と敗れ、オーガンが動かざるを得ない事態を考えれば、それも当然かもしれんな・・・。うん?それは何だ?」

オリジナルは、分身の角に何かが付着しているのに気付いた。オリジナルが手に取って見ると、それは長さが三センチ位の黒い物体だった。裏面が粘着力を持ち、その面が分身の角に張り付いていた。分身もその黒い物体を横から見ていたが、自分の角にそんな物が付いていたのを、ついさっきまで知らなかった。オリジナルは、その黒い物体を見つめ、その正体を思案した。やがて一つの結論に達した。

「これは発信機だな。何者かが、この場所を特定する為に、お前の角に付けた物であろう。誰が付けたか分かるか?」

分身の脳裏にレードの姿が頭を過った。レードとの交戦中、分身はレードに角を握られた。この発信機らしき機械は、その時に付けられた物に相違なかった。何故なら分身は、レードと闘う前にセルと闘っており、その際、自らの体を一センチ位にまで縮小した。もし体を縮小する前に機械を付けられていたら、縮小した時点で機械の方が大きくなるので、その存在に気付く。しかし、逃げ帰るまで気付かなかったから、必然的に縮小した体のサイズを元に戻した後に付けられた事になる。

「あ、あの野郎!俺を逃がしたのは、そういう訳だったのか!」
「完全にしてやられたな。おや?お前の尻尾にも発信機が付いているぞ」

分身が己の尻尾の先端を見ると、角に付いてたのと同型の機械が貼り付いていた。これもレードと戦っていた時に、密かにレードに付けられた物であった。

「大した奴だ。発信機を二個も付けたのは、片方を途中で発見されて外された場合に備えてだろう」
「ま、まずい!この場所を奴等が知れば、すぐに攻めてくるはずだ!その前に拠点を変更しなければ・・・」
「まあ、待て。そう慌てるな。面白いではないか。このまま放置しよう」

オリジナルの発言に、分身は仰天した。同じジン同士でも、分身にはオリジナルの真意が分からなかった。

「ほ、本気か!?そんな事をすれば、連中が攻めてくるのは火を見るより明らかだ。奴等は、あんたの命を狙っているぞ」
「まさか俺が敗れるとでも思っているのか?相手がドクター・ブレインならともかく、その他の連中が束になって攻めて来ようと、俺が負けるはずあるまい。こうでもしなければ、俺には戦闘する機会が無い。分身に俺の気持ちは分かるまい」

分身を超える力を持つオリジナルは、強者との闘いを望んでいた。自分の実力に自信がある者なら、そう思うのは当然だった。しかし、これまで分身の手に余る強者が現れた事はなく、力を持て余していたオリジナルは、擬い思いをしていた。待望の強者に心が躍ったオリジナルは、わざとレード達を招き寄せ、自分が戦わざるを得ない状況にするつもりだった。

一方、惑星レードにある基地の一室内で、レードが目の前の机の上に用意された大量の食事を取りながら、机を挟んで正面に立っているフリーザやセル、そして悟天に発信機の事を話していた。食事が進むにつれ、レードは徐々に元の瑞々しい体に戻っていた。

レードの話によると、最新の人工衛星カメラでは、地上の映像だけでなく、集音も可能であるという。ジンの分身の気を感知したレードは、基地に移動し、カメラを通して聞こえてくる分身と悟天達との会話に耳を傾けていた。その時にレードは、ジンの分身の体に発信機を貼り付けるアイデアを思いついた。そして、分身に会い、分身に気付かれないように発信機を付けた。フリーザやセルは、レードの発想力に舌を巻きながら話を聞いていた。

「現在、逃げた分身が向かった星を小型探査機で調査させている。遠隔操作が出来る探査機で、五センチにも満たない大きさだから、奴等の監視カメラでも発見出来まい。そこにジンのオリジナルが居るはずだ」

食事を終え、すっかり元の体に戻ったレードは、三人を引き連れて会議室に移動し、そこで部下からの報告を待った。やがて一人の兵士が大慌てで会議室の中に入って来た。

「レード様!探査機から送られてきた映像には、角の無いジンの姿が映っていました。オリジナルに間違いありません!」
「分かった。そのまま調査を続けさせろ」

兵士が「はっ!」と言って部屋から出て行くと、レードは三人の顔を一人ずつ見ながら話し始めた。

「ジンのオリジナルの居場所を突き止めた。おそらくドクター・キドニーとやらも同じ星に居るだろう。後は、その星に行ってオリジナルを倒し、ドクター・キドニーを生け捕りにするだけだ。しかし、オリジナルは想像を絶する強さを持っているだろう。ここに居る者達だけで闘って勝てる保証は無い。なので地球に連絡を取り、孫悟空達と共に戦うべきだと思う」

オリジナル一人を相手に自分達だけで闘うのを避け、わざわざ悟空達の力を借りようと言うのだから、レードの弱気な発言に思えなくもない。しかし、分身でも相当強かったのに、その上位の存在であるオリジナルの強さが未知数なので、用心して自分達以外の者に助けを求めても止むを得なかった。どんな方法でも勝てれば良いという考えのフリーザとセルに異論は無く、レードの意見に賛同した。しかし、悟天が同意しなかった。

「俺は反対です!あんな奴等の力を借りないでも、俺達の力で充分勝てます!」

今の悟天は、悟空達と言うより悟空と共に戦うのを嫌がった。悟天の意向を無視し、レード陣営が悟空達を招いても、悟天が悟空達と共闘するとは思えなかった。オリジナルそっちのけで悟天が悟空に襲い掛かる可能性の方が高かった。そうなれば一致団結して闘う所ではなく、間違いなく負ける。悟天の悟空を憎む気持ちが共闘への大きな妨げとなっていた。

悟天の態度にフリーザとセルは業を煮やしたが、レードは至って冷静だった。

「二本角の分身にすら勝てなかったお前が、オリジナルとの戦いで役に立つとは思えない。居ても戦力になりそうもないから、お前は闘いに参加するな」

レードは、冷ややかな目で悟天を見ながら、彼に戦力外通告を出した。当然、悟天は黙っていられなかった。

「ま、待って下さい!俺は必ず役に立って見せます!信じて下さい!」
「役に立つだと!?そんな台詞は超サイヤ人5になってから言え!」
「超サイヤ人5に!?・・・か、畏まりました。すぐに修行を再開し、一週間以内に超サイヤ人5になって見せます!」

たった一週間で確実に超サイヤ人5になれる自信が悟天にあるはずなかった。しかし、こうでも言わなければ、レードは絶対に納得しない。そこで悟天は、現在の自分の力量を考慮し、一週間の期間があれば、何とか超サイヤ人5になれるんじゃないかと考えた。ところが、それでもレードは納得しなかった。

「連日、多くの星が分身に滅ぼされている。それを阻止する為に一刻も早くオリジナルを倒さねばならないのに、一週間も悠長に待っていられるか!三日だ。三日以内に超サイヤ人5になれなければ、お前を殺す。そして、お前の死を隠した上で孫悟空達に協力を求める」
「そ、そんな・・・。たった三日で」
「三日で超サイヤ人5になれそうもなければ、そう言え。今なら許す」

「そんなの無理だ」と言えば、悟天の処刑は免れる。ただし、悟天はオリジナルとの戦いに参加出来ず、代わりに悟空達が戦う事になる。それは悟天にとって耐え難い屈辱であった。冷静さを欠いた悟天は、思わず口走ってしまった。

「わ、分かりました!三日で超サイヤ人5になります!」

悟天は、とんでもない事を言ってしまったと思った。しかし、前言を覆せなかった。

「良かろう。ならば今日から三日の猶予を与える。その間に超サイヤ人5になれ。なれなければ・・・分かっているな?」

レードの目は、実に冷ややかだった。もし悟天が三日で超サイヤ人5になれなければ、レードは容赦無く悟天を殺すだろう。故郷を捨てた悟天に逃げる場所など存在せず、死ぬ気で修行して超サイヤ人5になる他に生きる道が無かった。悟天は、急いでトレーニングルームに移動すると、寸暇を惜しんで修行に励んだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました