ジンとの戦いを終えた悟天は、ゴカンを連れて帰途に就こうとした。ところが、遠くから悟天達を見ている人物が居た。悟天が凝視すると、それは倒したはずのジンだった。それも一人ではなく、百人以上のジンだった。惑星レードに潜入していたジンは、実は一人ではなかった。悟天やゴカンが驚いたのは、語るまでもなかった。
ジンの集団は、悟天達に向かって飛んできて、二人の目の前で降り立った。遠くから見た時、どのジンも先程戦ったのと外見が全く同じであると悟天は思っていたが、近くで見ると違いがあった。それは頭にある角の数だった。悟天が倒したジンの角の数は三本だったのに対し、目の前にいるジン達一人一人の角の数は、二本や三本や四本と疎らだった。
悟天は、集団の先頭に立っている二本角のジンに話し掛けた。
「これは、どういう事だ?貴様等は、何者だ?」
「ふっ。見ての通り、ジンさ」
「馬鹿な!?ジンなら俺が倒したぞ!」
「そうだな。確かにお前は、ジンを倒した。分身ではあったがな」
「分身だと!?それは、どういう意味だ!?」
混乱している悟天を鼻で笑いながら、ジンは説明を始めた。
「ジンには複数の特技がある。分身も、その一つだ。ミレニアムプロジェクトを完成させる為には、全銀河に存在する全ての星を征服しなければならない。宇宙に銀河は何千億もあり、一つの銀河には大体百万の知的生命体が生息する星がある。これだけの数の星に住む種族を一つ一つ検査し、無能な種族を皆殺しにするから、多くの人手が必要だ。ところが、この分身を使えば、幾らでもジンを生み出せるから人手に困らない。お前が倒したジンは、その分身の一人だ」
衝撃の事実を知り、悟天は大きなショックを受けていた。あれだけ苦労して倒したジンが、実は単なる分身の一人で、他にも分身が数多く居るからである。想像を絶する恐ろしい敵と戦っていた事に、悟天は今更ながら気付かされた。
「こ、こうなったら、貴様等を全員倒すしかない」
「ふっ。俺達を全員倒す?馬鹿も休み休み言え」
ジンは一瞬で悟天の背後に移動し、背中を殴った。この一撃で悟天は大きなダメージを負い、バランスを崩して倒れた。
「さ、さっき戦ったジンより、スピードもパワーも上回っている・・・」
「同等の能力や、同数の特技を持つ分身は生み出せない。分身すれば、元より劣化したジンが誕生する。分かり易く言えば、分身元を親ジン、親ジンの分身を子ジンとすると、子ジンは親ジンに全ての面で劣る。お前が倒したのは俺の分身だから、俺より弱い。尚、角の数は分身した回数を表している。俺は角が二本だから、オリジナルの分身の分身だ」
悟天は再度大きなショックを受けていた。分身でこれだけ強いなら、全ての分身の元となるオリジナルの実力は、果たしてどれ程あるのか。オリジナルのジンの力を想像するだけで、悟天は恐ろしくなった。
しかし、絶体絶命の状況ではあっても、悟天は勝負を諦めていなかった。悟天は勢いよく立ち上がると、ジンと距離を少し置いてから、十倍かめはめ波を放った。しかし、ジンは左手だけで十倍かめはめ波を払い除けた。
「・・・左手が痺れている。そんなボロボロの状態で、よくあれだけの攻撃が出来たものだ」
もし悟天が万全の状態で十倍かめはめ波を放っていれば、ジンに多大なダメージを与えられただろう。しかし、今の悟天は疲労とダメージのせいで、本来の力を出せなかった。これにめげずに悟天は、もう一つの大技を出す事にした。
「な、ならば龍・・・」
「そんな危険な技を二度も使わせるか!」
悟天は龍拳を出そうとしたが、その前にジンに蹴飛ばされた。このジンは、先程の悟天の戦いを観ていたので、龍拳の事を知っていた。
「殺すには惜しい奴だが、ジニア人に対抗し続けるつもりなら、今この場で消さねばなるまい」
「来るなら来い!この命、只ではやらないぞ!」
悟天は決死の覚悟でジンに抵抗を試みようとした。これまで静観していたゴカンも超サイヤ人に変身し、父親に加勢しようとした。一方、ゴカンの気の大きさに、ジンは感心していた。
「ほう。子供にしては随分大きな気だ。これからの教育次第によっては、ジニア人に忠実な戦士に成長するかもしれない。お前だけは殺さずに、ドクター・キドニーの元に連れて・・・」
ジンが話し終える前に、何処からともなく光弾が飛んできて、ジンの胸部を貫いた。胸部を貫かれたジンは倒れ、背後に控えていた他のジン達は、一斉に光弾が飛んできた方角を見た。ジン達の視線の先には、人差し指を突き出しているフリーザと、腕組みをしているセルが立っていた。この二人は、惑星レードから怪物出現の連絡を個々に受けると、すぐさま惑星レードに引き返していた。
フリーザは、不快感を露にしつつ、ジン達に近付いていた。セルも後に続いた。この二人にとって悟天やゴカンの命は重要ではない。しかし、いずれ惑星レードが自分の物になると信じて疑わないフリーザは、その惑星レードを荒らされた事が許せなかった。
フリーザとセルが移動を終える前には、胸部を貫かれたジンは立ち上がっていた。そして、ジンは吐血しながらも、フリーザ達を睨んでいた。他方、悟天とゴカンは、フリーザ達の邪魔にならないように、その場から少し離れていた。
「やってくれたね。僕達を別の星に誘き出し、その間に惑星レードを荒らすとはね。貴様等全員生きて帰れると思うなよ」
「勘違いするな。俺達は、お前達二人を他の星に誘き出した訳ではない。お前達が勝手に他の星に行っただけだ」
「ふっ。私とフリーザの早とちりだと言いたいのか?生意気な奴め!失せろ!」
セルの電光石火の手刀で、ジンの頭部は胴体から切り離された。それによってジンが絶命したのは語るまでもないが、背後に控えていたジン達の内の何人かも同時に消滅した。
「おや?セルが二本角の怪物を倒したら、三本角や四本角の怪物の一部までが消えた。どういう訳か知らんが、殺す人数が減り、手間が省けた。さて、残りを片付けるとするか」
フリーザとセルは、ジンの群れに飛び掛かり、ジン達を片っ端から倒していった。セルが三本角のジンを倒すと、四本角のジンの一部が同時に消えた。フリーザが二本角のジンを倒すと、三本角と四本角のジンの一部が同時に消えた。この異常な現象を観ていた悟天は、その理由を考え、やがて結論に辿り着いた。そして、大声で叫んだ。
「分かったぞ!分身元のジンを親、その親が分身して生まれたジンを子、その子が分身して生まれたジンを孫とすると、彼等は各々独立した存在に見えて、実は見えない糸で繋がっているんだ!孫が死んでも親や子に影響はないが、子が死ぬと孫が、親が死ぬと子や孫が消えてしまうんだ!だから全ての分身の元であるジンを倒せば、ジンの分身が全て消えるはずだ!しかし、この中には角の数が二本以下は居ないから、オリジナルのジンは何処か別の場所に居るんだ!」
悟天の叫び声は、フリーザやセル、そして生き残っているジン達も聞いていた。ジン達の表情が一同に曇ったので、フリーザ達は悟天の指摘が的を得ている事を悟った。
「・・・なるほど。そういう事か。それならば、こんな雑魚の分身を何人倒しても意味は無い。オリジナルを見つけ、そいつを倒さねばならない。おい!オリジナルは何処に居るんだ?」
セルの質問に、ジン達が素直に答えるはずがなかった。オリジナルのジンの居場所は、絶対に敵に知られてはならない秘密事項だからである。ジン達は一同に口を噤んだ。
「言うつもりはないか・・・。まあ、そうだろうな。答えるつもりがないなら、お前達には全員死んでもらうとするか。分身が何人居ようと俺達を倒せないとオリジナルが知れば、いずれオリジナルの方から来るだろうからな」
フリーザとセルは、圧倒的な力でジン達を一掃した。そして、フリーザ達が勝ち誇っていると、セルの背後に何者かが現れ、セルの背中を蹴飛ばした。セルは、バランスを崩すも、倒れずに踏み止まり、後ろを振り返った。そこには一本角のジンが立っていた。
「一本角か・・・。オリジナルから直に生み出された分身だな。奇襲とはいえ、私に一撃を加えるとは只者ではない。今までの分身より強そうな奴が現れたな。お前からオリジナルの居場所を聞くとしよう」
これまでより強いジンの分身なので、セルは初めて身構えた。
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