其の七十 不思議な勝利

惑星レードに出現して縦横無尽に暴れ回ったジンを退治する為、悟天は、早くも超サイヤ人4に変身した。ジンを強敵と見なし、最初から全力で戦わなければ、すぐに殺されてしまうだろうと考えたからである。一方、ジンは、悟天をこれまで倒してきたレードの兵士達とはレベルが違うと思い、気を急激に高めた。

気を最大限にまで高めた悟天は、ジンに向かって飛び掛かった。対するジンは、直ちに応戦し、悟天との間で激しい攻防戦を繰り広げた。悟天の見立て通りで非常に強く、激しい修行によって強くなった悟天に少しも劣らない実力を見せた。

二人が戦っているのは市街地である為、市民は巻き添えを避ける為に遠くへ避難していた。しかし、市民とは対照的に、戦いを間近で観ようと飛行して近付く者が居た。ゴカンである。これまでゴカンは、父親が実戦で戦うのを観た事がなかったので、興奮しながら近付いて来た。悟天は、ゴカンの接近に気付いていたが、構わずに戦い続けていた。ゴカンは、戦場から近い所にある建物の屋上に降り立ち、そこで観戦する事にした。

戦いが進むにつれて悟天は、徐々に違和感を覚えるようになっていた。ジンは、確かに強いが、予想より強くなかった。ドクター・スカル率いるスカルボーグ達が敗れた後に攻めて来た敵なので、新技法で改造されたフリーザやセルより強いと思われた。しかし、現実には超サイヤ人5になれない悟天と互角に渡り合える程度の実力しかなかった。まだ真の実力を見せていない可能性もあるが、仮にそうだとしても、悟天が絶対に勝てない相手だと思えなかった。

攻防戦が続き、お互い数発ずつ攻撃を受けた。悟天は、疑惑を解消する為に戦闘を中断し、正面で身構えているジンに話し掛けた。

「まだ様子見のつもりだったら、そろそろ本気を出したらどうだ?あれだけ自慢していたのだから、オーガンが創造した戦士が、この程度の実力しかないはずがない。もし本当に今のが精一杯だとしたら、どうやら買い被り過ぎていたようだ。もっと強い敵が後に控えているのか?」
「生意気な奴め。良いだろう。俺の力を少しだけ見せてやる」

ジンが右手を前に出すと、手の平から蜘蛛の糸の様な物が放たれた。予期せぬ技に驚き、反応が遅れた悟天は、糸に体を巻きつけられ、身動き出来なくなった。

「俺を甘く見たな。俺を創ったドクター・キドニーは、これまで数多の生物を研究してきた。その中で特に優れた生物の細胞を選び、元の力を超えるように遺伝子を操作し、遺伝子操作された細胞を合成して完成したのが俺だ。つまり俺は、優秀と見なされた多種多様な生物の特性を受け継いでいる。よりパワーアップしてな」
「な、なるほど・・・。セルに少し似ているな」

セルは細胞を合成させて創られたのに対し、ジンは遺伝子操作した細胞を合成させて創られた。また、セルの元となる細胞は、地球上に存在する生物の細胞から採取されたものが大半であるのに対し、ジンの元となる細胞は、膨大な数の星に生息する生物の細胞から採取されたものなので、選択肢が多い分、より優秀な細胞を使われている事は想像に難くない。つまりジンの元となる細胞は、量の面でも質の面でも、セルの元となる細胞を圧倒していた。

なお、遺伝子操作とは、遺伝子に人為的な変化を与え、遺伝情報を変化させる操作の事である。

膨大な数の中から厳選された生物の特性を、より強化して引き継いだのがジンならば、力自体は大した事なくても、幾つかの恐ろしい特技を有しているはずである。予想していた程には強くなかったからといって、決して甘く見て良い相手ではないと悟天は理解した。

ジンは、悟天に近付いて来た。危険を感じた悟天は、急いで自分の体に絡みつく糸を吹き飛ばそうとしたが、その前に殴り飛ばされた。勢いよく吹っ飛ばされ、後方にあった建物と衝突した。建物が崩壊し、悟天は、崩壊した建物の下敷きとなったが、幸い大きなダメージを負っていなかった。しかし、未だ糸の呪縛から開放されていなかった。

「く、くそっ!こんなもの!はあっ!」

悟天は、力を込め、糸も建物の残骸も吹き飛ばした。

「よくもやってくれたな!今度は、こっちの番だ!」

憤慨した悟天は、ジンに向けて飛び掛かった。しかし、待ち構えていたジンが口から大音響を発したので、堪らず耳を手で防いだ。その隙にジンは、悟天の腹部を蹴飛ばした。悟天は、再び吹っ飛ばされ、後方の建物に衝突した。この建物も崩壊したが、悟天は、すぐに瓦礫の中から飛び出してきた。

「色んな特技があるから、次に何をしてくるのか全然読めない。くっ。厄介な敵だ」

戦い難さを感じた悟天は、軽率な行動を慎み、ジンと距離を置いた。一方、ジンは、悟天が消極的になっていると判断し、猛然と悟天に襲い掛かった。悟天は、何をしでかすか分からないジンを警戒し過ぎて動きが鈍くなり、何度も攻撃を受ける破目に陥った。冷静になろうとしても、ジンの苛烈な攻撃が冷静になる暇を与えなかった。ジンは、様々な特殊能力を持つばかりでなく、戦いの駆け引きも心得ていた。

ジンの強烈なパンチを喰らった悟天は、崩壊した建物の瓦礫の山に吹っ飛ばされた。散々やられっ放しだったが、ここで一計を案じた。周りにある瓦礫を両手で握り締めながら立ち上がると、手にした瓦礫をジンに向けて投げつけた。しかし、容易く瓦礫を避けられた。

「ふっ。何をするかと思えば、最後の悪足掻きか」

悟天は、足元にある瓦礫を次々と拾い、それ等をジンに向かって投げ続けた。最初の内は余裕の表情で避けていたジンだったが、投げつけられる瓦礫の数が段々と増えていき、しかも速度が増していくので、次第に必死になって避けるようになっていた。悟天を見ず、瓦礫を避ける事だけに集中していた。

ようやく瓦礫の連投が止んだので、ジンは、安心して正面を見据えた。ところが、そこに悟天の姿が無かった。ジンが気配を感じて脇を見ると、そこには悟天が何かの技を放つ体勢で立っていた。

「い、何時の間に!?」
「油断したな。喰らえ!龍拳!」

悟天が建物の瓦礫をジンに向かって投げ続けた理由は、ダメージを与える為ではなかった。悟天から視界を外させ、その間に悟天がジンの懐深くに潜り込む為だった。

悟天の右腕から、何と父親の技である龍拳が放たれた。かつて悟空の戦いを何度も観てきた悟天は、修行中に悟空の技を何度も真似している内に、実際に技が出せるようになっていた。今では憎む対象となった悟空の技を使う事に対して抵抗を感じなくもなかったが、戦いに勝つ為だと割り切り、思い切って技を使った。

悟天の右腕から放たれた黄金色の龍は、ジンの脇腹を突き破って体を貫通し、更にジンの体に巻きついた。ジンは、最早どうする事も出来ず、消えゆく龍と共に消滅した。ジンが消滅した後も、悟天は、警戒を解かなかった。今まで出会った敵の中には、再生能力を持つ者も居たから、ジンの体も再生するかもしれないと思ったからである。しかし、ジンの体が再生する気配は一切無かった。ようやく悟天は、自身の勝利を確信した。

「か、勝てたのか?俺一人の力だけで・・・」

悟天は、勝利を喜ぶよりも驚いていた。日々厳しい修行を積んでいたので、自分の実力には多少の自信があった。しかし、自分一人だけの力で勝てた事に驚きを禁じえなかった。何しろ知能指数四千を誇る超天才が創った化物が相手である。戦闘前、良くて相打ち、それも出来そうになければ、ゴカンを連れての敵前逃亡も止むなしと考えていた。

呆然と立ち尽くす悟天の元に、ゴカンが大興奮して駆けつけて来た。黙って観戦していたゴカンは、悟天が劣勢だった時も何とかしてくれると信じ、絶対に助太刀しようとしなかった。それだけに、悟天が逆転勝利した事に大喜びだった。

「流石は父ちゃん、強かったなー。これなら孫悟空にも勝てるね」
「・・・いや。そんなに簡単に勝てる相手ではない。しかし、何時か奴の体も龍拳で貫いてやる」
「父ちゃんだったら出来るよ。母ちゃんの敵を討つ事をね」

ジンとの戦いに勝利し、更には恐ろしい誓いまで立てた悟天だが、まだ知らなかった。ジンとの戦いが、これで終わりではない事を。そして、ジンの本当の恐ろしさも。

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