其の六十八 謎の化物

アイスの死後、惑星レードの様相は一変した。最愛の娘を失ったレードは、自邸に籠って表に一切出てこなくなった。そして、フリーザが我が物顔で惑星レード全体を牛耳るようになっていた。レードの姿は見えなくても、彼の気は感じられるので、気を感知出来る兵士達は、レードの存命が分かっていた。しかし、それ以外の非戦闘員達は、気を感知出来ないので、彼等の間では早くもレード死亡説が囁かれていた。

まずフリーザは、他の星に攻め入るよう兵士達に命令した。悟空達との同盟後、レード軍は他の星への侵略を一切してこなかった。もし他の星を攻め滅ぼし、それを悟空達が知れば、彼等との間に必ず亀裂が生じる。ジニア人に対抗する為に手を組んだのに争っては、ジニア人を利するだけだとレードが考えたからである。これに不満を抱く兵士も居たが、レードが怖いので何も言えなかった。しかし、フリーザは意に介さず、長らく中断していた版図拡大を再開した。

レード軍の兵士達は、猛訓練により、かつてのフリーザ軍の兵士達を大幅に上回る戦闘力があった。そこでフリーザは、一つの星に兵士一人で攻めるよう指示した。かつてのフリーザ軍の兵士達では、一人で星を攻め滅ぼすには無理があった。しかし、レード軍の兵士達だと、一人でも星を滅ぼせるとフリーザが判断した。フリーザの侵略命令に、兵士達は歓喜した。ようやく訓練の成果を活かす機会を与えられたからである。そして、兵士達は各自が割り当てられた星に向かった。

その一方でフリーザは、レードが所有するジニア人の宇宙船を使って、宇宙科学連盟の本部がある惑星サイエンスに向かった。ワープ機能を使い、一瞬で惑星サイエンスに到着したフリーザは、すぐに連盟のトップの科学者達に会い、服従を強要した。フリーザの突然の欲求に、連盟のトップ達は困惑した。

「今になって従えやと!?これまでレードはんに散々協力してきたのに・・・」
「僕が惑星レードの新しい支配者となった。トップが代われば、方針が変わるのは当然だよ」
「うち等を甘く見たらあきまへんで。宇宙中の科学者を敵に回す事になるんでっせ」
「その脅し、レードには通用したかもしれないけど、僕には通用しない。従わないなら、全員死んでもらうよ。お前達は、僕の名前を知ってるだろ?だったら、僕の恐ろしさも知ってるはずだ」

宇宙科学連盟に加盟する者の大半は、かつてのフリーザの悪行を知っており、彼の強さや冷酷さを恐れていた。そのフリーザが目の前に居るのだから、その場に居た全員がフリーザの脅しに震え上がり、直ちにフリーザへの服従を誓った。その後フリーザは、レードが同盟を結んでいた組織を次々と脅迫し、全てを傘下に治めていった。無論、地球に居る悟空達だけは唯一の例外であったが。

レードは、宇宙科学連盟といった組織を支配下に置こうとしなかった。レードの希望は、各組織から優秀な人材を供与してもらう事であり、その為に組織ごと従わせる必要は無いと考えていた。力で脅して無理に従わせても、組織のトップ達は自尊心を傷つけられ、レードの為に尽力しようとは思わないだろう。それよりも同盟という形で手を結べば、建前上はレードと対等関係になる。その方が希望を通し易いとレードは考えていた。しかし、フリーザが関係性を一変させた。

意気揚々と惑星レードに帰還したフリーザは、レードの基地内でセルと再会した。セルは、特に何もせず、フリーザのやる事を静観していた。

「戻ったか、フリーザ。その顔を見ると、上手くいったようだな」
「まあね。どいつも最初は虚勢を張ってたけど、僕が少し脅せば、すぐに大人しくなったよ。それで、こっちの様子はどうだい?」
「まず孫悟天は、打倒孫悟空を目指し、凄まじい修行を続けている。修行の様子を見れば分かるが、奴は本気で実の親を殺すつもりだぞ」

フリーザの奸計で復讐鬼と化した悟天は、寸暇を惜しんで修行に精を出していた。以前ならトレーナーが出したメニューに沿って修行していた。しかし、今ではメニューを無視し、個人の裁量で限界を超える猛修行に勤しんでいた。修行中に倒れ、治療室に運ばれる事も珍しくなかった。治療室には最新式メディカルマシーンがあるので、死なない限り、すぐに回復出来る。なので安心して無茶な修行を続けられた。

「それは結構。親子の殺し合いは実に見物だよ。早くその日が来て欲しいものだ。それと、ゴカンとかいうガキはどうした?母親が死んだ事は、もう知ってるんだろ?」
「ゴカンには、こう伝えておいた。『いきなり孫悟空が来て、お前の母親を殺した』とな。するとゴカンの奴、泣きながら『孫悟空を殺す!』と叫んでいた。今は孫悟天同様、孫悟空を倒す為に修行に励んでいる。ガキは単純だから扱い易い」

元々ゴカンは、悟空を嫌っていた。その悟空が母親を殺したと聞かされれば、素直にそれを信じ、これまで以上に悟空を憎むようになっていた。

「孫悟空の奴、息子と孫に命を狙われているとは夢にも思わないだろう。あっはっは・・・。ざまあみろ。あと、あの馬鹿はどうした?」
「馬鹿?ああ、レードの事か。あの日以来、奴は一度も外に出ていない。屋敷に勤めている者の話によれば、食事すら取っていないそうだ」

レードは、アイスの死から立ち直っていなかった。何をする気も起きず、自室に閉じ籠って誰とも会おうとしなかった。

「ふん。娘が死んだ位で落胆するとは情けない奴め。まあ良い。今頃は大分弱っているはずだ。今なら僕一人でも、余裕でレードを殺せるだろう。また、今のレードに味方する者は少ないだろう。これからレードを殺しに行くとするか・・・」

以前にレードと戦ったフリーザは、レードの力を侮り難しと思っていた。それでもセルと二人で戦えば、レード一人が相手なら勝てるだろう。しかし、レードには悟天やアイスやゴカン、更には大勢の兵士達が居る。これ等の者が加勢すれば、二人しか居ないフリーザ達の旗色が悪くなる。仮にフリーザ達が勝っても、レード軍を手中に収めようと企むフリーザにとって、大勢の兵士達を殺す事は大きな損失だった。

「レードを殺すなら、今が絶好の好機だ。時が経てば、立ち直るかもしれないからな。レードを殺した後、兵士達には『レードは王としての気概を失ったから処刑した』と伝えれば良い」
「レードの死後、この星を『惑星フリーザ』に改名しよう。そして、まずは南銀河を征服し、次に東と西銀河、最後に地球を除く北銀河だ。孫悟空達は、ジニア人との戦いに集中しているから、こちらの動きを気にしていない。孫悟空達が気付いた時には、この銀河系の大半が僕のものさ」

アイスを慕っている者達は、レード同様に悲しんでいたが、それ以外の者達は、レードの引き籠りに失望していた。そして、レードに失望の念を抱く者達は、フリーザの方に靡いていた。今なら事を起こしても、全兵士の内の何割かはフリーザに味方するだろう。仮にレードに味方する者の数の方が多くても、兵士達の大半は別の星の侵略に行ってるので、レードの救援が出来ない。レードに味方すると思われる悟天やゴカンは、修行に夢中でレードの危機に気付かないだろう。

時機到来と見たフリーザは、レードを殺す事にした。フリーザとセルは、早速レードが居る屋敷に向かおうとした。ところが、ここで緊急連絡が入り、別の星へ侵略に向かった兵士達が、大怪我を負った状態で逃げ帰ってきたという。フリーザとセルが急いで外に出てみると、そこには逃げ帰ってきた兵士達が、宇宙船ポッドから引きずり出され、次々と担架で運ばれていた。フリーザとセルは、その光景を唖然として眺めていた。

「兵士達が向かった星には、そこまで強い戦闘力を持つ者が居ないはずだ。仮に強い者が居たとしても、兵士の一人か二人ならともかく、これだけ多くの兵士達が逃げ帰ってくるとは・・・。そうか!孫悟空の仕業だ。奴なら瞬間移動を使い、各惑星に一瞬で行ける。それに、例え悪人でも無闇に人の命を奪わない。ちっ。もうこちらの動きを察知されたか・・・」
「そうかな?孫悟空が僕達の動きに気付いていれば、直接文句を言いに来ないか?」

レードの兵士達は相当強く、大抵の者になら負けるはずがなかった。それでも悟空達の力には遠く及ばない。犯人は悟空だと思っているセルは、担架で運ばれている最中の兵士の一人に問い質した。

「おい。一体、誰にやられた?どうせ孫悟空だろ?」
「ち、違います。ば、化物です。何処からともなく化物が現れて・・・。す、凄く強い奴でした」

フリーザとセルは、手分けして兵士一人一人に同じ質問をしたが、誰もが「化物にやられた」と答えた。その化物の外見を尋ねても、兵士達の回答は概ね一致していた。予期せぬ事態に動揺したフリーザとセルは、レードを殺す事など忘れて、正体不明の化物について話し合った。

「兵士達は一人一人が別の星に向かった。という事は、複数の星で外見が同じ化物が同時に出現したか、化物が瞬間移動で各惑星を移動したかのどちらかだろう。それに、どうして化物は兵士達の命を奪わなかった?化物とは一体何者で、何が狙いだ?もしやジニア人の手の者か?」
「おそらくね。孫悟空達と戦っていれば良いのに、まさか僕達の邪魔をするとは・・・。化物が何人居るのか知らないが、僕の邪魔をするとは許せない。纏めて片付けてやる!」

最早レードを殺す所ではなかった。フリーザとセルは、正体不明の化物への対策を講じる為、基地の中に戻った。

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