自らに向けて銃を発砲したドクター・スカルは、頭から血を噴出して倒れた。当然、即死だった。そして、ドクター・スカルが倒れた後に、ベジータ達が部屋の中に入ってきた。三人ともドクター・スカルの顔を知らなかったが、この場面を一目見るなり、すぐに状況を理解した。
「この死体は、もしやドクター・スカル!?き、貴様等!ドクター・スカルが死ぬのを、何故止めなかったんだ!?死んでしまっては、惑星ジニアの場所を聞き出せないだろうが!」
「ふん。僕が裏切ったからこそ、お前達は、一人も犠牲者を出さずに、ここまで来れたんだ。感謝して欲しい位だがね」
フリーザに詫びれる様子は無かった。失態を失態と思わず、恥ずべき行為を自慢げに語るフリーザに、ベジータの怒りは爆発寸前だった。しかし、レードが二人の間に割って入った。
「ベジータ。リバイバルマシーンの存在を忘れたのか?ドクター・スカルが死んでも、それで生き返らせれば済む問題だろ?詰まらない事で喚くな」
レードは、フリーザを庇った。フリーザが約束通りに中心部まで案内してくれたので、フリーザを信用するようになっていた。ベジータは、何も言えず、苛立ちながら足元に倒れていたピッコロを抱え上げた。トランクスはパンを、悟天はウーブをそれぞれ抱き上げ、フリーザにリバイバルマシーンのある場所まで案内するよう促した。フリーザは応諾し、四人を連れて奥の部屋に移動した。ところが、その部屋の中には、大勢の人間の死体と機械の残骸があった。
「この死体は、全てドクター・スカルの協力者。そして、この壊された機械は、リバイバルマシーン。お前達にリバイバルマシーンを奪われるのを恐れたドクター・スカルは、協力者達に破壊するよう命令していたようだね。そして、僕達の報復を恐れた協力者達は、全員自害したようだ。まあ、運が悪かったと思って諦めるんだね」
リバイバルマシーンが壊されたと知ったベジータ達は、大きなショックを受けていた。罠と承知の上でバトルフィールドの中に入り、苦しい戦いを続けてこられたのも、全てはドクター・スカルから惑星ジニアの場所を聞き出す為だったからである。これまでドクター・リブ、ドクター・スパインから惑星ジニアの場所を聞き出せず、「今度こそは!」と意気込んでいただけに、気落ちするのも無理からぬ事であった。
「惑星ジニアの場所を聞き出せず、リバイバルマシーンも手に入らなかったのは残念だが、このバトルフィールドだけでも持って帰るとしよう。色々と中を調べたいしな」
「バトルフィールドを持ち帰るだと!?そうしたいなら別に構わんが、こんな大きな物を、どうやって惑星レードまで持ち帰る気だ?」
バトルフィールドに興味を抱いたレードは、それを持って帰ろうとしていた。バトルフィールドは、大き過ぎて邪魔だから、早々に地球の上空から取り除く必要がある。しかし、小惑星程の大きさがあるバトルフィールドを破壊しようと攻撃すれば、大爆発を起こして地球に甚大な被害が出る可能性が高い。そんな厄介な代物をレードが持って帰ると言うなら、それについてベジータ達には異存が無かった。
「このバトルフィールドを、どうやって地球まで移動させたと思っているんだ?中心部にある部屋を一通り見たが、操縦室らしき部屋が無かった。つまりバトルフィールド自体を宇宙船として動かせる訳ではなく、小さくして持って来たと推察される。だから小さくするボタンを探せば良いんだ。おそらく外側の壁面の何処かに、小さくするボタンがあるはずだ」
ジニア人達は、基地等の建物を小さくして持ち運んでいた。それと同じ原理で、バトルフィールドも小さくして地球に持ち込んだとレードは思考した。
「さてと、それでは外に出るか。中に人が居ては、バトルフィールドを小型化出来まい。この中に居る生存者は、俺達を除けば、カカロットとセル位だろう。おい、フリーザ。カカロットとセルが何処に居るか分かるか?」
「随分と生意気な口の聞き方だね。まあ良い。あの二人は、まだ戦っているだろうから、彼等が居る部屋まで連れて行ってやるよ」
再びフリーザが先導し、ベジータ達は悟空とセルが戦っている部屋に移動した。悟空とセルは、お互い全身が傷だらけだったが、戦闘が依然として続いていた。ところが、ベジータ達の来訪に気付いた二人は、戦闘を中断した。
「セル。落ち着いて聞いて欲しい。ドクター・スカルは死に、僕はレードと行動を共にする事にした。これ以上の戦いは意味が無い。君も矛を収めて、僕達に付いて来ないか?」
「断る。私は、この戦いを楽しみたいんだ。孫悟空の味方になるつもりは無い」
「勘違いしないで欲しい。孫悟空ではなく、レードの味方だ。孫悟空とは、ジニア人を片付けた後で、再び戦えば良い」
悟空との戦いに熱中しているセルは、途中で戦闘を止めたくなかった。しかし、ドクター・スカルが死んだので、戦う理由が無くなった。それでも戦い続けるならば、フリーザを含めた全員でセルを倒さねばならない。セルの力を買っているフリーザは、出来ればそれを避けたかった。セルを初めて見たレードも同じ事を考えていた。悟空と互角に戦うセルが自軍に加われば、戦力の大幅な増強になるのは間違いないので、可能ならセルを生かしておきたかった。
セルは、好戦的だが、馬鹿ではなかった。現在の自分の置かれている状況が、いかに不利であるかを悟っていた。幾ら実力に自信があっても、この人数を相手に戦えば、間違いなく殺される。しかも、二度と生き返らない。これ以上戦い続けるよりも、ここは賢い選択を選ぶ事にした。
「分かったよ、フリーザ。お前がそこまで言うなら、この場は大人しく引き下がってやろう」
セルは構えを解いた。悟空は変身を解いた。こうして戦いは、決着せずに終了となった。そして、フリーザとセルが先導して複雑な通路を通り抜け、ようやく外に出た。外に出るとレードは、バトルフィールドの外側を飛び回り、ボタンを発見してそれを押下し、バトルフィールドを小型化させた。結局、今回の戦いでも惑星ジニアの場所が判明しなかったが、地球に被害が出なかったのは、せめてもの救いだった。
その後、カプセルコーポレーションの庭に移動した悟空達は、フリーザやセルを交えて今後の話し合いを行った。結局、セルもレードに力を貸すと誓い、フリーザと共に惑星レードに向かう事になった。
「フリーザとセル。おめえ達がレードに味方するという事は、ジニア人を倒すまでは、オラ達とも協力して戦う事になるんだぞ。また途中で裏切ったりすんなよ」
「ふっ、人聞き悪いね。一時的とはいえ、僕達の力を借りられるんだ。感謝して欲しいね。強大な軍事力を持つジニア人に対抗する為には、一人でも多くの強い味方が必要なんだろ?」
フリーザやセルが信用出来ない事を、悟空達は分かっていた。しかし、レードは少しも不信感を抱いていなかった。それどころか、実の父であるフリーザと、その友人であるセルを、温かく迎え入れるつもりだった。もし悟空達が「やはり生かしておくのは危険」と言ってフリーザ達を殺そうとすれば、レードが間違いなく止めに入る。場合によっては、レードとの同盟が解消され、再び彼と対立関係となる。悟天の立場も考えると、どうしても同盟解消を避けたかった。
その後、レードが惑星レードに戻る為に宇宙船に乗り込み、レードに続いてフリーザやセルも同じく乗り込んだ。悟天も彼等の後に続こうとしたが、悟空が呼び止めた。
「悟天。地球で暮らす気はねえのか?チチがおめえの事を凄く心配してっぞ」
「・・・俺は、もう地球に戻らないって決めたんだ。今回は命令だから仕方なく来ただけだ。俺は惑星レードに帰る」
惑星レードに帰る。それはすなわち、悟天の帰る場所は、最早地球ではなく、惑星レードになった事を意味していた。地球と決別した悟天の背中を、悟空は寂しそうに見つめていた。そんな父の心など気にも留めず、悟天は後ろを振り返らずに宇宙船に乗り、四人を乗せた宇宙船は地球上から姿を消した。
四人が地球を去った後、悟空は、言いようの無い不安を感じていた。数年前、とある星で出会った人相見の男から、「これまで戦っていた敵が味方となり、これまで共に戦っていた味方が敵になる」と予言された。奇しくも今回、フリーザとセルがレードに付いた事により、当面は彼等とも共闘する事になる。予言が半分当たった形となったので、残り半分の予言も当たってしまうのではないかという危機感を抱いていた。
一方、悟空の仲間達は、悟空とは違う不安を感じていた。これまでレードと共に暮らしていた悟天が、今後はフリーザやセルとも生活する事になるからである。レードと違い、完全な悪であるフリーザやセルと一緒に過ごせば、悟天は少なからず悪影響を受けるだろう。場合によっては殺されるかもしれないと思い、悟天の身を案じた。
その頃、惑星レードではレード達が帰還し、留守番をしていたアイスは、彼等の気を察知した。
「あ!悟天とパパが帰ってきたわ!ゴカンを連れて、早く迎えに行かないと。あら?他にも大きな気を二つ感じるわ。誰のかしら?・・・まあ良いわ。会えば分かる事だし」
アイスは、今だ訓練所で訓練を積んでおり、近くで同じく訓練していたゴカンを呼んだ。しかし、ゴカンからの返事が無かった。不思議に思ったアイスがゴカンの元に行ってみると、ゴカンは、床に大の字で眠っていた。特訓の最中に睡魔に襲われ、深い睡眠状態に陥っていたのである。
「あらあら・・・。こんな所で眠るなんて、行儀が悪いわね。父親に似たのかしら?」
「カカロット・・・」
「え!?何かしら今のは?変な寝言ね。一体どんな夢を見てるのかしら?」
アイスは、眠っているゴカンを抱き上げると、レード達の元に向かった。恐ろしい運命が彼女を待ち受けているとは知らずに。
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