キラーウイルスを用いて悟空達全員を倒したドクター・ブレインは、戦場となった場所から南西三十キロ地点にある自身の研究所に戻った。ところが、研究所の中を見て仰天した。自分に付き従う協力者達が倒れていたからである。ドクター・ブレインの命に従い、キラーウイルスを使って多くの星を滅ぼしてきた協力者達は、当然そのワクチンを接種していた。つまりキラーウイルスが充満している現在の惑星ジニアでも生きられたはずだった。
ドクター・ブレインが倒れている協力者達の体を調べてみると、殴られた痕があった。更に研究所内を調べてみると、部屋の中が荒らされていた。そして、キラーウイルスの抗ウイルス剤が盗まれていた。ワクチンがウイルスの予防に用いる薬なのに対し、抗ウイルス剤は体内に侵入したウイルスの作用を消滅させる薬剤である。
「一体、誰がこんな事を・・・。まさか!」
ドクター・ブレインの脳裏に一人の男が思い浮かんだ。それは悟空達とも深い関わりのある男だった。
時は少し遡る。ドクター・ブレインが去った後の戦場では、キラーウイルスに感染した悟空達が倒れていた。そこに一人の男が現れた。白く長い髪と髭が生え、酷く擦り切れた服を着用していた。体は瘦せ細り、異臭を放っていた。そして、右手に薬箱を持っていた。男は薬箱の中から注射器を取り出し、倒れている悟空の左腕に刺した。すると、何と悟空が跳ね起きた。
「痛ってー!注射は止めてくれよ!オラ、苦手なんだからー!・・・って、あれ?」
キラーウイルスに感染して死に掛けていた悟空が、まるで何事も無かったかの様に元気に目を覚ました。男は二次感染を防ぐ為に毎回注射針を変え、次々と悟空の仲間達の腕に注射した。注射された仲間達は、誰もが意識を回復した。男は悟天にも注射し、フリーザとセルの前で立ち止まった。
「何故こいつ等が生きて、ここに居るんだ?ジニア人の仲間ではなさそうだが・・・。仕方ない。助けてやるか。こいつ等だけ見殺しにするのも気分が悪いしな」
男は、嫌々ながらフリーザとセルにも注射した。この頃には悟空達が起き上がっていて、男に注目していた。誰も知らないはずの男。しかし、悟空達には男の正体が分かった。外見からではない。気でもない。本能で分かった。そして、大声で叫んだ。
「悟飯!」
「悟飯さん!」
「パパ!」
男の正体は、生き別れた悟飯だった。それもハートボーグ五十八号の様な偽者ではなく、正真正銘本物の悟飯だった。およそ九年半振りの再会だった。余りにも様変わりしたので外見には悟飯だと特定出来る特徴が無く、弱っていたので余り気を感じられなかった。しかし、それでも五十八号の時の様な半信半疑ではなく、すぐに本物の悟飯だと確信した。パンは、真っ先に悟飯に駆け寄り、思い切り抱き付いた。そして、人目を憚らずに号泣した。
「パンか・・・。大きくなったな。でも泣き虫な所は変わっていないようだ」
悟飯は、優しくパンの背中を撫でた。悟飯が最後にパンを見たのは、パンが十三歳の時だった。その後の娘が成長していく過程を側で見れなかったのは残念だが、こうして生きてまた会えたのだから、喜びも一入だった。
悟飯の周りに仲間達が集まってきた。ピッコロは、背後から悟飯の両肩を鷲掴みし、顔を下に向け、すすすり泣いた。
「悟飯!よくぞ、よくぞ生きていた!」
「ピッコロさん。お久し振りです」
次に悟飯は、トランクスとウーブの方を振り向いた。二人の目元は潤んでいた。
「二人とも。かなり強くなったな。見違えたぞ」
「悟飯さん。白血病にされたと聞きましたが、ご無事そうで何よりです」
「白血病?・・・ああ。一番最初の病気か。あれはもうすっかり治っている」
続いて悟飯は、ベジータの方を振り向いた。
「ベジータさん。しばらく見ない間に、随分と老けましたね」
「やかましい!貴様にだけは言われたくない!貴様の方が老けて見えるぞ!・・・ま、まあ、それだけ苦労してきたんだろう。地球に帰ったら、髪を短く切って黒く染めるんだな。髭は貴様に似合わんから剃れ」
悟空が悟飯の元に歩み寄ってきた。それに合わせてピッコロとパンが悟飯から離れた。悟空と悟飯は、強く抱き合った。
「助けに来たつもりが、逆に助けられちまったな」
「良いんですよ。それより、俺は風呂に入ってないんですよ。臭くないですか?」
「ふっ。嬉しい臭さだ」
今の悟空には、悟飯の体臭すら愛おしく感じた。
「あ!そうだ。おめえの顔を見て思い出した。おめえに渡したい物があったんだ」
悟空は、自分の胸元を探り、小さな袋を取り出した。その袋の中には仙豆が入っていた。怪我を負ってるなら餃子に回復してもらえば良い。しかし、空腹はどうにもならない。そして、悟飯がまともに食事をしてない事は容易に想像出来た。なので惑星ジニアのある3C324に近接した際、悟飯に会えたら渡そうと思って仙豆を持って来ていた。その後のロボベジット戦では、仙豆を食べないとまずい場面もあったが、その時は仙豆の存在を忘れていた。
悟飯は、悟空から仙豆を受け取って食べた。
「美味い。こんな美味い物を食べたのは久し振りだ。父さん。もっと仙豆を貰って良いですか?」
「へ?一粒じゃ足りねえのか?一粒食べただけで、十日は食べなくても良い位なんだぞ」
「俺は何年もまともに食べてなかったんですよ。一粒じゃ、とても足りません」
悟飯は、悟空が持ってきた三粒の仙豆を全て食べた。それによって悟飯の体は、以前の肉付きに戻った。
「ところで、悟飯。どうしてオラ達を助けられたんだ?余りにも手際が良過ぎるんだが・・・」
キラーウイルスに感染した悟空達は、悟飯の迅速かつ適切な処置が無ければ、間違いなく助からなかった。
「ドクター・ブレインと何年も一緒に居たから、奴の手口が分かっていたんですよ。そして、父さん達が惑星ジニアに向かっている事も知っていました。だから父さん達が惑星ジニアに来るまで大人しく耐え、来たらドクター・ブレインの不在を確認してから、研究所にあるキラーウイルスの抗ウイルス剤を奪ったんです。ドクター・ブレインの協力者達が研究所内に居ましたが、大して強くないから弱っている俺でも簡単に倒せました」
ドクター・ブレインの協力者達は、ドクター・ブレイン同様に医学に深い造詣を持っていたが、決して名医ではなかった。人命を助ける為に病気を治す気概など微塵も無く、新しい治療法を試すゲーム感覚で病気を治していた。患者の体の負担を一切考えずに手術を執行し、手術後に亡くなっても、モルモットが一匹死んだ程度にしか思っておらず平然としていた。そんな悪徳医者の様な連中だったので、悟飯は容赦なく成敗した。
「その後は父さん達の気が感じられる場所まで移動し、隠れて様子を見ていました。それからドクター・ブレインが居なくなるのを見計らって姿を現し、皆に抗ウイルス剤を投与したんです」
悟飯は、かつてドクター・ブレインに敗れた際、悟空達が闘っても殺されると悟った。それ以降、無駄に抵抗するのを止め、情報収集に専念した。その甲斐あって、まずはドクター・ブレインがキラーウイルスを使って皆殺しにする計画を立てている事を知った。その次に、どうすればキラーウイルスに感染しても助かるかを知った。自分が最悪な環境に置かれているのに悟空達を気遣い、助けようとしたからこそ実現した今回の救出劇だった。
この時、ドクター・ブレインが舞い戻ってきた。先程までとは違い、不機嫌な表情だった。
「やってくれたね。孫悟飯君。研究所内を荒らし、協力者達を倒し、抗ウイルス剤を盗み出すとはね。この代償は高くつくよ」
悟空達は、ドクター・ブレインの方を見て、一斉に身構えた。しかし、悟飯だけはドクター・ブレインを見ようとしなかった。
「ドクター・ブレインとは俺一人で闘いますから、皆さん下がって下さい」
「一人で闘う!?奴に恨みがあるのは分かるが、一人で闘うなんて危険過ぎるぞ!」
「ピッコロさん。心配は無用です。俺は皆よりも奴について詳しいです」
そう言って悟飯は、ドクター・ブレインを横目で見た。この時の悟飯は、悟空達に向けた優しい眼差しではなく、相当な怒りに満ちた目付きだった。ピッコロは、思わず身震いした。
「分かった。お前に任す。俺達では、あいつに勝てそうもないしな。何か勝算があるんだろ?」
「はい。それではピッコロさん。俺をグレートサイヤマンの格好にして下さい」
ピッコロは、訳が分からず、言われた通りに悟飯をグレートサイヤマンの格好にした。悟飯は、ドクター・ブレインと一人で向き合い、悟空達が揃って後退した。いよいよ悟飯の復帰戦かつ復讐戦が始まる。


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