其の百二 最強のロボット

地球での任務を終えたハートボーグの二人が惑星ジニアに帰還した。二人は、ドクター・ラングの研究所の中に入り、奥の部屋に居たドクター・ラングとドクター・ハートに会った。そして、ハートボーグ五十七号は、持ち帰ったメモリースキャンと測定器をドクター・ハートに手渡した。

「ご苦労様。これで最強のロボットを造れるわ」
「ドクター・ハート。孫悟空の記憶データと戦闘能力データを使い、ロボットの孫悟空を造るつもりですか?失礼ながら、そんなのを造っても、せいぜい孫悟空一人と互角に闘えるだけ。孫悟空が仲間と共に対抗してきたら、ロボットの孫悟空が勝てるとは思えません。造るだけ無駄では?」
「五十七号の言う通りです。そんなロボットを造る位なら、俺が奴等を倒した方がましです」

悟空の記憶と戦闘能力のデータを使ってロボットを製造すると聞いたハートボーグの二人は、ドクター・ラング達が悟空のロボットを造るつもりだと考えた。しかし、悟空と何から何までそっくりのロボットを造っても、そのロボットが悟空達全員を一度に敵に回して勝てるはずがない。それだったら、ハートボーグ五十八号が闘った方が、悟空達を倒せる確率が高いと判断した。

「五十八号。孫悟空達を甘く見てはいけないわ。これまで孫悟空達は、自分達より強い敵と何度も闘ってきた。最初は劣勢だったけど、最後は大逆転して勝利してきたわ。あなたでも油断して闘うと、思わぬ竹箆返しを喰らうわ。それに、私達が造るロボットは孫悟空じゃない。ベジットよ」
「え!?ベジット?ベジットって誰ですか?」

ハートボーグの二人は、ベジットを知らなかったので、揃って首を傾げた。ドクター・ハートがベジットの説明をしようとしたが、急にドクター・ラングが会話に割り込んできた。

「ここから先は俺が話そう。俺は、孫悟飯の記憶データを見て、ベジットの存在を知った。ベジットとは孫悟空とベジータがポタラとかいう道具を使って合体した戦士で、フュージョンとかいう技を使って合体したゴジータを上回る強さを持つ。しかし、孫悟飯の記憶データでは、ベジットがどれだけ強いのかまでは分からなかった。だから君達に地球に行ってもらい、孫悟空の記憶データを取ってきてもらった。実際に合体した孫悟空ならベジットの強さを知っているはずだからな」

悟空とベジータが合体してベジットになれば、合体前と比べてどれだけ強くなるのかは、少なくとも合体した当人でなければ分からない。ベジットの外見や特徴も、実際にべジットを観ていない悟飯が知るはずなかった。悟飯が悟空から聞いて知っていたのは、悟空とベジータがポタラを使って合体してベジットになった事と、ベジットがゴジータより強いという情報だけだった。

「俺が造るのは、今の孫悟空が合体した時のベジットだ。だから現在の孫悟空の強さを知らなければならない。なので君達に孫悟空の戦闘能力のデータも取ってきてもらった。尚、相方のベジータは、孫悟空と互角であると想定する。一方、実際のベジータは、老化が進んでいるという報告を受けている。もし孫悟空とベジータ合体してベジットになっても、俺が造るベジットには敵うまい」

ハートボーグ達が地球で観たベジータは、確かに老いていた。老いたベジータと若い悟空がポタラを使って合体しても、以前の様な大幅なパワーアップは無理そうだった。悟空がベジータ以外の別の誰かを選んでポタラで合体しても、誰もが悟空に比べると実力が落ちるので、昔のベジータと合体した時のベジットと同じ様に大幅に強くなれるとは考え難い。それならベジットのロボットが完成すれば、悟空達に打つ手は無さそうなので、悟空達の敗北は確実だと思われた。

ところが、五十八号は、まだ半信半疑だった。

「話は分かりました。しかし、そんな凄いロボットを造る事が可能なのでしょうか?」
「ロボットは造り方次第で無限に強くなる。造り手が未熟だと、完成するロボットも大した事ないが、知能指数が一万を超える俺が造ると、常識では考えられない程に強いロボットになる。現に俺は、これまで数多くの強いロボットを造ってきた。今回造るのが最も強いロボットになるのは間違いないが、決して不可能ではない。ドクター・ハートも一緒だしな」

ドクター・ラングは、自信に満ち溢れていた。五十八号は、これ以上差し出がましい発言をせず、一言詫びて引き下がった。ようやくベジットの話が一段落した所で、再びドクター・ハートが口を開いた。

「話は変わるけど、五十八号。孫悟空は、あなたの正体に気付いた?」
「孫悟空は、『悟飯じゃない』と言ってましたが、内心は迷っている様でした。完全には見抜けなかったと思います」
「ふっ。実の親のくせに本物とクローンを見分けられないなんて、所詮は猿ね」

五十八号の正体は、悟飯のクローンだった。本物の悟飯が居るのに、以前に採取した悟飯の細胞を使い、手間の掛かるクローンを生み出した理由は、悟飯の意志が強過ぎて洗脳され難いからだった。洗脳され難い人間を無理に洗脳しても、洗脳が解け易い。一方、クローンなら外見や強さは本物と変わらないが、頭の中身は空っぽである。言葉を一から教えなければならない煩わしさはあるが、五十七号の様にジニア人に忠実な戦士に育てられる。

ドクター・ハートは、安全策を取って悟飯のクローンを創造し、サイボーグに改造してハートボーグ五十八号を誕生させた。五十八号は、ドクター・ハートの命令をよく聞き、彼女の期待以上の働きをしてきたので、何不自由なく暮らす事が出来た。それとは対照的に、悟飯は更に過酷な生活を強いられていた。同じ悟飯でも、その境遇は正反対だった。

「その孫悟飯ですが、今はどうしているのですか?」
「さあ?ドクター・ブレインの人体実験で既に死んでいるか、生きてても廃人ね」
「馬鹿な奴だ。素直にジニア人に従っていれば、そんな目に遭わずに済んだのに」
「馬鹿は死ななきゃ治らないの。さーて、必要なデータも揃ったから、データの分析を始めるわよ。あなた達は邪魔だから出て行きなさい」

ハートボーグの二人は、一礼して研究所の外に出た。仲が悪いので互いに一言も発さず、それぞれ別の方角に向けて飛び立った。五十八号は、悟飯の記憶を一切持っておらず、ドクター・ハートから教わった事しか知らなかった。なので悟飯が五十七号に敗れた時の事など詳しく知るはずなかった。それでも五十七号を嫌っていた。五十七号にやられた事を頭で覚えていなくても体が覚えていた。

それから半年後、悟空達は、相変わらず惑星ジニアに向けての宇宙の旅を続けていた。この日は悟空が乗船し、ブルマ他一名が宇宙船を操縦していた。いつもは何事も無く一日が過ぎるのだが、この日は違っていた。

「着いた!着いたわよ!孫君!」
「え!?もしかして惑星ジニアに着いたのか?」
「違うわよ!3C324よ!惑星ジニアがある銀河3C324によ!この銀河内の何処かに惑星ジニアがあるはずよ!」

十年近い年月を経て、遂に悟空達は地球から百億光年も離れた電波銀河3C324にある星に着いた。当初の予定では三年位で着くはずだったが、適当な星を探しながら進むので、思った以上に時間が掛かった。それでも今日こうして3C324まで来て、悟空達は感無量であった。

「この銀河の何処かに悟飯が居るんだ。待ってろよ、悟飯!すぐに助けてやっからな!」
「どうやって助けるつもりなの?この銀河の中にある無数の星の中から、たった一つの星を見つけなければならないのよ。下手をしたら、今まで以上に時間が掛かるかもしれないわよ」
「それだったらオラに考えがある。悟飯の気を探せば良いんだ。悟飯の気を感じられる星が惑星ジニアだ」

悟空は額に二本の指を置き、神経を集中して悟飯の気を探した。しかし、広い銀河の中で、弱っているであろう悟飯の気を探し出すのは簡単ではない。大海の中から一粒の砂を探す様なものである。案の定、見つからなかった。

今から地球に戻って仲間全員を3C324に連れて来て、四方八方に散って手分けして探した方が早いとブルマは提案した。悟空もその方が効率的だと思った。ところが、いざ地球に戻ろうとした直前、悟空は大きな気を感じた。

「待て!ブルマ!気だ!ここから遠く離れた場所に、悟飯の気じゃねえが大きな気を感じた!とりあえず、その気が感じられる星に行ってみよう!何か分かるかもしんねえしな!」

この3C324は、これまで通過した他の銀河と比べて、気が極端に感じられなかった。ここはジニア人に一番最初に征服された銀河であり、そこに住む大多数の人間が、既にジニア人によって殺されたからである。それだけに気が感じられる星があれば、その星が惑星ジニアである可能性が高かった。例え惑星ジニアでなくても、ジニア人と何らかの関係がある星の可能性があった。

「これから行く星が惑星ジニアだとしたら、皆を連れて来てからの方が良いんじゃないの?惑星ジニアは敵の本拠地なんでしょ?一人で行ったら、幾ら孫君でも危ないわよ」
「今回は殴り込みじゃなく悟飯の救出が目的だ。その為にはオラ一人の方が動き易くて良い。悟飯を助けたら、すぐに地球に戻る。それから皆を連れて殴り込みだ」

悟飯を助ける事で頭が一杯の悟空は、焦る気持ちを抑えられなかった。仲間を連れて来た方が安全は安全だが、往復する時間が惜しかった。この場はブルマが折れ、悟空が指差した方角にある星に向け、ブルマは宇宙船をワープさせた。

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