ジニア人のリーダーであるドクター・ブレインは、究めた医学を悪用し、接触した健常者の体に悪影響を与えて、何かしらの病気にするという恐ろしい敵だった。これを踏まえて悟空は、接近戦でドクター・ブレインと闘うのは危険だと判断した。そこでドクター・ブレインに向け、少し離れた所から十倍かめはめ波を放った。しかし、ドクター・ブレインは、バリヤーを張って十倍かめはめ波を凌いだ。
「やっぱり近付いて闘わないと駄目か。こうなったら皆で一斉に飛び掛かるぞ!闘う相手が複数だったら、ドクター・ブレインだって病気にさせられないはずだ!」
悟空の呼びかけに応じ、レード達四人を除く仲間達が気を高めた。対するドクター・ブレインは、バリヤーを解除して悟空達を待ち構えた。ところが、いざ突撃しようとした悟空達を、これまで沈黙していたレードが制止した。
「止めろ!一斉に飛び掛かっても、纏めて病気にされるだけだ!」
悟空達は、驚いて突撃を止め、レードの方を振り向いた。
「どうして病気にされると言い切れるんだ?やってみなくちゃ分からないだろ?」
「いいや、分かる。孫悟空。お前は、色々と考えているつもりだろうが、実はドクター・ブレインの思惑通りに動こうとしている事を分かっていない。このままではリマの二の舞になるぞ」
レードは、第三者の立場で、ドクター・ブレインの闘い方を冷静に分析していた。その為、悟空達が気付かなかったドクター・ブレインの手口を見抜けた。そして、悟空達を見殺しにしなかった。悟空達との間に友情が芽生えたのではない。もし悟空がドクター・ブレインに殺されたら、彼の命を狙っている悟天が生きる目的を失い、自暴自棄になるからだった。
「悪賢い奴め。合体を恐れていない素振りを見せながら、合体の要であるリマを真っ先に狙った。本心では合体に脅威を抱いていた証だ。そして、自分の特技を、リマを癌にしてから明かした。黙っていても、いずれ見抜かれていただろう。しかし、最初から暴露すると、リマは癌になった部位を切り取って助かろうとしただろう。リマを癌にした後は、癌が全身に転移するまでリマには動かないで欲しかった。だから、あのタイミングで話したのだ」
ドクター・ブレインは、自分の特技を秘したままに出来るとは思っていなかった。誰か一人を病気で死なせれば、残った者達が死体を調べて病死したと気付くだろう。気付かれる前に速攻で全員を病死させるという選択肢もあったが、それだとすぐに終わってしまうので面白くなかった。そこで、どうせ知られるなら自分から明かし、話している時間を有効に使おうと考えた。
「ところが、お前達が一斉に飛び掛かろうとした時、ドクター・ブレインは、何の言葉も発さなかった。つい先程まで話していたくせにな。その沈黙にも理由がある。お前達を病気にさせる自信があるので、余計な事を言って突撃を思い止まらせたくなかったからだ。お前達は恐れている。全員ではないにしろ、何人かは確実にな。その者は畏縮して本来の力を出せまい。その者の恐怖を煽り立て、飛び掛かれずに立ち尽くす事がないよう黙っていたのだ」
悟空が周りを見ると、仲間達の表情は強張っていた。しかし、体が微かに震えていた。敵が強いだけなら怯まずに立ち向かえるが、病気にしてくるなんて前代未聞であり、対抗手段が分からず困惑していた。気丈な悟空とは違って仲間達は、そこまで心が強くなかった。もし突撃前にドクター・ブレインに何か言われれば、気持ちが更に揺らぎ、足が竦んで動けなかったかもしれない。いずれにせよ悟空は、仲間達を率いての突撃が無謀であると悟った。
一方、レードに余計な口出しをされて獲物を一網打尽にする機会を失ったドクター・ブレインだったが、全く気にしていなかった。本人にしてみれば、悪戯を見抜かれた程度にしか感じていなかった。
「レード君。余り調子に乗らない方が良い。ジニア人なら子供でも簡単に見抜ける」
「そんな子供騙しにもならない手段を用いる所を見ると、幾ら頭が良くても戦術を立てるのが得意ではない様だ。戦術面では一流の戦術家である俺に敵うまい」
「では、自らを一流の戦術家と豪語する君に訊こう。私が次に誰を狙うと思う?」
「・・・俺だろうな。俺が居ない方が闘い易いからだ」
ドクター・ブレインは、「正解だ」と言って、レードに向かって突進した。レードが後退した為、後を追った。レードは、後退しながら無数のエネルギー波を放ったが、ドクター・ブレインに全て弾き飛ばされた。しかし、効かないと分かっていてもエネルギー波を出し続けた。そして、そろそろ目が慣れた頃だと判断し、ドクター・ブレインの脳天を狙って、今までのエネルギー波より遥かに高速なエネルギー弾を出した。しかし、その高速エネルギー弾も弾かれてしまった。
「流石にそう簡単には倒せないか・・・。なら、これでどうだ!」
レードは、立ち止まって気円斬を出した。ところが、気円斬は、ドクター・ブレインに直接向かわず、レードから一定の間隔を空けて、レードの周りを周回し始めた。これは失敗ではなく作戦だった。通常の気円斬は一直線に飛ぶが、相手に避けられたら終わりである。過去にフリーザがした様な操縦型だと、誤って自らを傷つけてしまう危険性がある。その点、今回のレードの気円斬は、自分を傷つける心配がなく、何度も相手を切り裂ける機会があった。
レードは、気円斬を周回させながら、ドクター・ブレインに向かって突進した。対するドクター・ブレインは、飛び上がって避けたが、レードが後を追って同じく飛び上がった。そこでドクター・ブレインは、着衣していた白衣のポケットから何かを取り出すと、それを前面に出して気円斬を待ち構えた。そして、気円斬がドクター・ブレインが持つ何かと衝突したが、何と気円斬の方が切れてしまった。驚いたレードがドクター・ブレインの手元を見ると、メスが握られていた。
「な、何だ!?そのメスは?」
「これは宇宙最高の金属であるポラリスを研ぎ澄まして作ったメスだ。言うなれば、宇宙一の切れ味を持つ刃物だ」
ジニア人は、何か発明したら、それを惑星ジニアに報告する義務があった。同時に発明品を提出しなければならなかった。ポラリスを発明したドクター・ストマックは、惑星ジニアに居たドクター・ブレインにポラリスの完成を報告し、悟空達との決戦前に現物を提出した。そして、ポラリスを手にしたドクター・ブレインは、それを二つに分け、一つを発明品の保管庫に置き、もう一つを研ぎ澄まして自分専用のメスにしていた。
気円斬を失ったレードは、ドクター・ブレインと至近距離に居たので、慌てて遠ざかった。その間にドクター・ブレインは、メスをポケットの中に戻した。
「一流の戦術家が聞いて呆れる。その程度の戦法で私を倒せると思ったのかね?私を倒す所か、慌てさせる事すら出来ないとは情けない。もう君には飽きた。終わらせよう」
ドクター・ブレインが両手を上空に掲げると、直径十メートル程もある大きさで、紫色のエネルギーの塊が出現した。ドクター・ブレインは、それをレードに向かって放った。レードは、両手でそれを受け止めたが、その直後に体に発疹が出た。更に顔の表情が青ざめ、気が激減した。リマ同様、レードも病気にされていた。
「ふっふっふ・・・。これは病気玉と言って、エネルギーだけでなく、数多の病原菌が詰まっている。そして、病気玉に触れた時点で病原菌が皮膚感染する。私に直接触れられなければ病気にならないと思っただろうが、この様に触れずとも病気にさせる事が可能だ。病気玉に触れた時点で、君の運命は決まっていたのだよ。さらばだ、レード君」
ドクター・ブレインの体内には、病気の元となる無数の病原菌があった。その病原菌は、ドクター・ブレインが自らの体をサイボーグに改造する際に埋め込んだものだった。ドクター・ブレインは、それを使用して、接触した人を病気にする事もあれば、今回の様に病気玉を作る事もあった。病原菌を体内に取り込んでいるので、自分自身が病気になる可能性もあるが、例えそうなっても自らを治療して病気を治せるので、全く問題無かった。
「レード様!お助けします!」
「来るな!来れば巻き添えを食うぞ!」
レードを救う為、悟天が助けに行こうとしたが、レードは拒んだ。既に自分が助からないと悟っていたからだった。
「も、最も大事な者を犠牲にしてまで、これまで真の帝王となるべくやってきたが、こんな所で朽ち果てるとは・・・。無念!」
レードは、アイスを思い出していた。自分が真の帝王となって始めて、アイスの死が意味あるものになると思っていた。それが道半ばで朽ち果てるなら、アイスは無駄死にした事になる。死にゆくレードにとって、それが唯一の心残りだった。
レードは、病気玉を防ぎ切れなくなり、とうとう病気玉に飲み込まれた。病気玉は、レードを連れて宇宙まで飛んで行き、爆発した。病気玉の消失と共に、レードの気も消えた。ドクター・ブレインを除き、誰もが呆然と空を見上げていた。リマに続き、レードまでが倒されてしまった。悟空達にとっては、大き過ぎる痛手だった。
「さて、孫悟空君。君は以前、心臓病を患った事があるそうだね。あの時の苦しみを、また味わってみるかね?今回は薬を携帯してはいまい」
ドクター・ブレインの次のターゲットに選ばれた悟空。悟空に危機が迫ろうとしていた。


コメント