其の百六 レードの遺言

レード達の前に現れたゴカンは、ロボベジットの話を既に聞かされており、いよいよ自分の出番が来たと思い、喜び勇んでいた。悟天も同様に思っていた。ところが、ゴカンに掛けたレードの言葉は、彼等の予想を裏切る内容だった。

「孫悟空達が惑星ジニアのある銀河まで着いた。いよいよジニア人との闘いも正念場を迎えるだろう。更に厳しい闘いになる事が予想される。そこで、ゴカン。お前は留守を守れ」
「え!?何で?何でだよ!?何で俺を連れて行かないんだよ!?まだ俺が子供で、頼りにならないから?」

ゴカンは、顔を真っ赤にして怒った。ゴカンの気持ちを考えれば当然の反応だった。対するレードは、ゴカンの無礼な態度に少しも怒らず、淡々と訳を話し始めた。

「喚くな。お前を頼りにしていないのではない。むしろ大いに頼りにしている。今は未熟でも、いずれは俺や孫悟天よりも強くなるだろう。良いか?ジニア人の本拠地近くまで来た事で、奴等も必死に抵抗してくるだろう。今度の闘いで、俺達は全滅するかもしれない。勝つとしても、全員無事には帰って来れまい。俺達にもしもの事があったら、お前が惑星レードの王の座を継ぎ、俺達の仇を取れ。お前まで死んだら、誰が俺達の仇を取るんだ?」

ゴカンは、返答に窮した。同時に怒りが収まった。もしレード達が全滅しても、自分が生きていれば、更に修行して強くなって彼等の敵討ちが出来るかもしれない。しかし、以前より強くなったと言っても、まだまだ未熟な自分も一緒に闘って共に討ち死にしたら、仇を討つ者が居なくなる。ならば今回は自分が惑星レードに残る方が、共に闘うよりも遥かに大事だと感じた。

結局、ゴカンは、レードの言葉に従い、惑星レードに残る事になった。そして、レード達四人と別れた後、レードに感じた違和感を拭えずに思わず呟いた。

「爺ちゃんが今まであんな事を言った事は無かった。今回の闘いで自分が死ぬと予感したんだろうか?それとも、まさかとは思うが、死ぬ事を望んでいるんだろうか?」

レードが危険な闘いに臨んだ事は、これまで幾度もあった。しかし、自分が殺された後について考え、戦闘前に何か言い残した事は、今まで一度も無かった。何があっても自分だけは絶対に生き延びるという根拠の無い自信が、かつてのレードにはあった。ところが、今のレードには、それが無かった。レードの生への執着心が薄れているとゴカンは感じた。

一方、悟空とトランクスが地球に戻ると、既にリマと天津飯と餃子が居た。彼等は、ピッコロの協力要請に応じて地球に来て、ベジータ達と共に悟空達の帰還を待っていた。悟空は、リマ達の顔を見るなり、愛想よく話し掛けた。

「よく来てくれたなー。三人とも、頼りにしてっぞ」

悟空に頼りにされていると言われ、天津飯と餃子は、嬉しそうに微笑んだ。リマは、微笑まなかったが、悪い気分ではなかった。ところが、そのリマ達を連れてきたピッコロは、悟空達がレード達と一緒に戻ってきていない事を訝しんだ。

「悟空。どうしてレード達が居ない?協力を断られたのか?」
「いいや。あいつ等は、後から直接ロボベジットが居る星に行くってさ」
「だったら、その頬の殴られた痕は何だ?首には絞められた痕まであるじゃないか。誰にやられたんだ?まさかレードか?」
「いいや。・・・悟天にやられた」

悟空の頬は大きく腫れていた。そして、首には絞められた絞められた痕があった。悟空に対して敵意を抱く者の仕業である事が明白だった。それがレードかフリーザかセルならともかく、仲が拗れていたとはいえ、実の息子である悟天の仕業だとは信じ難かった。この親子の間に何があったのかを、実際に現場に居合わせたトランクス以外の者達が気になり出し、その空気を察した悟空は、気まずそうに語り始めた。

「悟天は、大きく変わってしまった。今回は一緒に闘ってくれるが、くれぐれも対応には注意してくれ。あいつの前でアイスの名前を絶対に口にするな。オラがアイスの名前を言った途端、逆上してオラに襲い掛かってきたんだからな。多分、アイスとの間に何かあったんだろう」

悟空は、皆に悟天とのいざこざを話すつもりはなかった。強敵と闘う前に余計な心配を掛けさせたくなかったからである。しかし、殴られた痕や首を絞められた痕が残っていたので、隠しようが無かった

強敵との闘いで少しでも勝率を上げるためには、万全の状態で挑まなければならない。その為に悟空は、大した傷ではなかったが、餃子に回復してもらった。それからロボベジットを倒す為の作戦を話し合った。

「なあ、天津飯。ゴジータとロボベジットが闘っている時、真実の目でロボベジットだけ超サイヤ人の変身を解く事は出来るか?それが出来れば、かなり有利な展開になるんだが」
「生憎だが真実の目は、目に映った者を無条件で元の姿に戻す。ゴジータとロボベジットが離れて闘ってくれれば良いが、接近戦となれば、ロボベジットだけでなくゴジータの変身も解いてしまう。それに、俺の目に止まらないスピードで闘えば、真実の目は役に立たない」

ゴジータとロボベジットが距離を置いて闘えば、真実の目でロボベジットだけ変身を解く事が出来るだろう。しかし、接近戦となれば、ゴジータの変身も解いてしまうので、戦況は変身した時と変わらなくなる。また、ロボベジットが天津飯の目にも止まらないスピードで動けば、真実の目で捉えられない。悟空の期待は脆くも崩れた。

「ロボベジットの変身だけ解く為には、ロボベジットの動きを封じれば良い。そこの白いチビの結界とやらで、ロボベジットの動きを止められないか?」

続いてベジータが餃子の結界を用いた作戦を提案した。意外にもベジータは、餃子の能力を高く評価していた。

「不可能ではない。だが、勧められない。餃子より遥かに強いロボベジットの動きを封じる為には、恐らく何千何万もの結界を作る必要がある。しかもロボベジットを結界が張った場所まで上手く誘導しなければならない。それに餃子には回復役という大事な役割がある。結界を作るのに力を使い過ぎると、肝心の回復が出来なくなる」
「それは戦術的に不味い。ちっ、やはりそう簡単にはいかないか」

餃子の結界は、幾重にも重ねて作れるので、数によっては、どんな強者の動きも封じる事が出来る。しかし、その為に作らねばならない数が膨大だった。一つの結界を作るのに消費されるエネルギー量は大した事ないが、何千何万の結界を作るとなれば話は別である。しかも、ロボベジットを結界が張られてある場所にまで上手く誘導出来るとは限らない。結界は目に見えないので、一歩間違うと味方が結界に嵌ってしまう恐れすらある。

その後も話し合いは続き、それが済んだ後、悟空達は宇宙船に乗船した。そして、リマがベジータの体に憑依して若返りの術を使い、悟空とベジータがフュージョンのポーズをした。本当は少しでも長い時間、合体した状態で戦う為、ロボベジットの目の前で合体したかった。しかし、ロボベジットがポーズ中に何もせず、無事に合体が成功するとは思えなかった。

悟空がロボベジットと闘った際、悟空は太陽拳を使用したが、ロボベジットは顔を背けて直視を避けた。これは太陽拳を知らない者がする行為ではなかった。ロボベジットは、単に強いだけではなく、悟空の記憶データを参照して悟空の戦い方や技を知っていた。ならば悟空とベジータがポーズをした時点で、二人が合体するつもりだと見抜き、合体を妨害してくる可能性がある。

また、ロボベジットの目の前でポーズを取り、もし合体に失敗したら、元の二人に戻るまでの三十分が命取りとなる。その間にロボベジットによって悟空達が全滅させられるのは目に見えていた。それよりは短い合体時間を削る事になるが、合体を成功させてから移動した方が無難だと結論付けた。

フュージョンが無事に成功してゴジータになった所で、ロボベジットが居る星にワープした。星に着いて下船すると、すぐにロボベジットが飛んで来た。そして、ゴジータの目の前で降り立った。

「そっちから来てくれるとは都合が良い。こちらから行く手間が省けた」
「ふっ。すぐに舞い戻ってくるだろうと思っていたが、まさかフュージョンしてから来るとはな」

ロボベジットは、悟空達が退散した後、ドクター・ラングの研究所内で悟空達の再来を待っていた。そして、ゴジータの気を察知すると、即座に外に飛び出し、ゴジータの元に飛来した。

ゴジータとロボベジットの闘いに先立ち、大事な宇宙船が戦闘に巻き込まれて壊されないようにする為、トランクスは宇宙船を抱えて後方に退いた。他の者達も同様に後退した。

「まさかベジットとゴジータが闘うなんて想像すらしていなかった」
「だったら、それを実現させたドクター・ラングに感謝するんだな」
「お前を倒した後、約束通り惑星ジニアの場所を言ってくれれば感謝するかもな」
「合体時間が限られてる貴様に、時間無制限の俺を倒せると思っているのか?」
「お前の方こそ時間があるからって油断してると、足元を掬われるぞ」

ゴジータとロボベジットは、共に身構えた。普段は余裕の表情を見せるゴジータも、この時ばかりは笑っていなかった。ロボベジットも悟空と対戦した時とは打って変わって真剣な表情だった。そして、ゴジータの後方では、ピッコロ達が緊張した面持ちで二人の様子を観ていた。

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