其の百五 悪鬼悟天

惑星レードにおいて、レードと悟天がトレーニング施設内の一室で組手の修行をしていた。しかし、レードが悟天を鍛えている訳ではなかった。悟天が相当強くなり、悟天と組手の修行をすれば、自分が更に強くなると判断したからこそ悟天を修行相手に選んでいた。

この組手を、フリーザとセルが少し離れた所から冷ややかな目で観ていた。

「この前は驚かされた。何せ孫悟天がレードを負かしたんだからな」
「そんなの珍しくないよ。孫悟天は、既に何度もレードに勝っている。最近では、三回に一回は勝ってるんじゃないかな?実戦じゃないので、互いに危険な技を使っていないけどね」
「レードも強くなったが、それ以上のスピードで孫悟天が強くなっている。レードを完全に超すのも時間の問題だろう。孫悟空と闘っても、余裕で勝てるのではないか?」

ジン戦以降、急激に力を付けた悟天は、今やフリーザやセルを完全に追い抜いていた。同じくレードも特訓して強くなっていたが、悟天が凄過ぎるのか、レードが不調なのか、二人の実力差は埋まり、今では互角だった。

この日の組手は引き分けで、レードと悟天は、互いに力を使い果たして共に倒れた。すぐにレードの部下によって運び出され、最新型のメディカルマシーンで治療を受けた。

「孫悟天を孫悟空と闘わせても、孫悟天が楽勝なら、その後に僕達が孫悟天に襲い掛かっても、返り討ちにされるだけだろう。もう孫悟天を始末するのは無理かもしれないね」
「ここはいっその事、レードを廃して孫悟天を王に祭り上げ、私達が裏で操った方が良いかもしれないな」
「それは良い考えだね。孫悟天なら、こちらの意のままに動かせそうだからね」

二人が話していると、回復した悟天が二人の元に歩み寄ってきた。最新型のメディカルマシーンを使えば、わずか数分で完治が可能になっていた。悟天の表情は、以前に比べて険しく、凄みが増していた。フリーザやセルでさえ、悟天の前では心なしか緊張していた。フリーザ達が無言で悟天を見詰めていると、いきなり悟天が二人の首を鷲掴みにした。

「おい。何で人の顔をジロジロ観ているんだ?殺すぞ」

悟天が両手に力を入れると、フリーザとセルは、苦しそうな表情になり、呻き声を上げた。逃れようと藻掻いたが、悟天が超サイヤ人5になると、完全にお手上げだった。この時、同じく回復したレードが近付いて来た。

「その手を放せ、孫悟天」

悟天は、レードの言葉に従って手を放し、変身を解いた。フリーザとセルは、息を切らし、辛そうに自分達の首を摩っていた。しかし、悟天には一言も文句が言えなかった。悟天も自分の行為を謝ろうとしなかった。

この時、悟空とトランクスを乗せた宇宙船が惑星レードに着陸した。レード達は、即座に悟空達の気を感じた。悟空は、トランクスを連れて瞬間移動し、レード達の側に現れた。

「よう。久しぶりだな」

笑顔を見せずに挨拶した悟空に対し、無言で悟空を睨んでいたレード達。しかもレード達四人の中で、一番強い憎悪を込めて悟空を睨んでいたのは悟天だった。憎悪だけでなく殺気すらあった。ところが、そんな悟天に対し、悟空は気さくに話し掛けた。

「悟天。しばらく見ねえ間に、随分強くなったな。見違えたぞ」

悟空に褒められても、悟天は、相変わらず鋭い視線で悟空を睨んでいた。

「ところで、アイスやゴカンは元気か?」

悟空は、この場に居ないアイスやゴカンの話をして場を和ませようとしたが、つい悟天の前で言ってはならない人物の名前を口にしてしまった。悟天は、即座に激怒した。

「貴様がアイスの名前を口にするなー!」

怒り心頭の悟天は、いきなり悟空を殴り飛ばした。更に倒れた悟空に馬乗りとなり、悟空の首を両手で絞めた。

「く、苦しい・・・。な、何をするんだ?悟天」
「殺してやる!殺してやるぞ!孫悟空!」

悟天は、本気で悟空を殺すつもりで悟空の首を絞めた。しかし、すぐにトランクスに蹴飛ばされた。尚も悟空に襲い掛かろうとしたが、フリーザとセルに両脇を押えられた。

「放せ!お前達も殺されたいのか!?」

興奮状態の悟天は、束縛を力尽くで振り解こうとした。しかし、レードが悟天を言葉で制した。

「控えろ、孫悟天」

レードの一言で、悟天は急に大人しくなった。フリーザとセルは、様子を見計らって悟天を解放した。しかし、相変わらず悟天は、悟空を殺意を込めて睨んでいた。立ち上がった悟空は、悟天の豹変にショックを受け、何も話せなくなっていた。代わりにトランクスが悟天に問い質した。

「悟天!一体どういうつもりだ!?いきなり悟空さんを殺そうとするなんて!しかも悟空さんを呼び捨てにしたな!」
「黙れ!よくも蹴飛ばしてくれたな!貴様も殺してやるぞ!」

悟天は、トランクスに対しても殺気立っていた。今は悟天と話し合いが出来る状態ではないと判断した悟空は、側で笑っていたフリーザとセルに尋ねた。

「おめえ達の仕業だな?悟天がこうなったのは」
「何の事だ?それより孫悟天が本来のサイヤ人に戻れた事が嬉しくないのか?」
「サイヤ人は、気に入らなければ親でも殺す種族だ。孫悟天の変化が僕達のお陰だとしたら、むしろ感謝すべきじゃないのか?大体、お前は息子を何年も放置してきたくせに、よくそんな事が言えるね。恥ずかしくないのか?」

フリーザとセルは、悟空を嘲笑した。悟空は、段々と怒りが込み上げてきた。しかし、悟空の怒りが爆発する前に、レードが割って入った。

「何しに来た?孫悟空。用が無いなら帰れ」

レードに話し掛けられた悟空は、初めてレードと向き合ったが、レードも以前と比べて大きく変わっていた。気が大きくなってはいたが、表情が暗かった。また、覇気が無かった。レードの変貌にも驚かされた悟空だが、同時に惑星レードに来た目的を思い出して冷静になった。

「用が無いわけじゃねえ。おめえ達の力を借りたくて来たんだ」

悟空は、これまでの経緯をレード達に伝えた。そして、ロボベジットを倒す為の作戦を話し、レード達の協力を要請した。話を聞き終えたレードは、即座に快諾した。

「話は分かった。手を貸してやる」
「ありがてえ。なら、すぐに地球に来てくれ。皆でロボベジットが居る星に行こう」
「いや。まず最初に、お前達がフュージョンして、そのロボベジットとやらと闘うんだろ?だったら、こちらの力がすぐに必要ではない。少し遅れて直接その星に行くから、場所を教えろ」

悟空としては全員一緒にロボベジットが居る星まで行きたかった。共通の敵が居るから一時的に手を組んでるだけで信頼関係が無いから、後から来ると言っても、約束を違えて来ないかもしれない。やはり一緒に行こうと説得しようとも考えた。しかし、それが原因でレードとの関係が悪化し、協力自体を断られるのを悟空は恐れた。そこで、この場は悟空が譲歩し、トランクスに星の場所を言わせた。

「じゃあ、待ってるからな。早く来てくれよ」

悟空は、トランクスと共に飛び去った。悟空が居なくなった後、レードは、別の部屋で修行中だったゴカンを呼び寄せた。

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