地球に現れた悟飯と瓜二つの顔を持つハートボーグ五十八号。その五十八号と戦う事になった悟空だが、その前に周辺の動植物が気になった。彼等が居るのは草木が生い茂る場所で、付近には多くの小動物が生息している。ここで戦えば、周囲に被害が及ぶのは容易に予想された。
「ここだと戦い難い。場所を変えっぞ」
「お好きにどうぞ」
悟空は、自然が破壊されるのを良しとせず、人気の無い場所を探して飛行した。五十八号と付き添いの五十七号が後に続き、荒野の上に三人が降り立った。
「五十八号。どうせおめえも惑星ジニアの場所を言う気はねえんだろ?」
「当たり前だよ。惑星ジニアの場所を知る協力者は、何があろうと場所を決して他人に明かさない意志の強さと、ジニア人に対する強い忠誠心が求められる。ただ強ければ良い訳じゃない」
「・・・そうか。なら力尽くで聞き出すまでだ!」
悟空は、五十八号に飛び掛かって攻撃したが、避けられてしまった。続けて攻撃を繰り出したが、掠りもしなかった。五十八号は、鼻で笑った。
「孫悟空。俺を舐めてるの?本気でやったら?超サイヤ人に変身もしないで、俺に勝てるはずないでしょ」
「かなりのスピードだ・・・。超サイヤ人5にまで変身しないと追いつけそうにねえ」
悟空は、超サイヤ人5に変身し、再び五十八号に攻撃を仕掛けたが当たらなかった。この時、ある事に気付いた。五十八号は、悟空に攻撃しないどころか、攻撃する素振りすらなかった。
「どうして攻撃してこない?その気になれば、俺に何発か攻撃を当てられたはずだ」
「俺は、孫悟空に勝つ為に戦っているんじゃない。孫悟空の真の力を引き出す為に戦っているんだ。それなのに、まだ本気で戦っていないね。ひょっとして本気で戦えないのかな?先程は俺の事を本物の孫悟飯でないと断言していたが、本当は迷っているんじゃないかな?もしかしたら本物の孫悟飯じゃないかとか」
悟空は、反論出来なかった。五十八号の指摘は、的を得ていたからである。見た目が悟飯なので只でさえ戦い難さを感じていたのに、更に自分の腹の内を見透かされ、一層やり難さが増した。
悟空は、悟飯に対して申し訳なさを感じていた。敵の本拠地に連行され、何年も辛い思いをさせている。それだけでも心苦しいのに、更にサイボーグに改造されてしまったら、もう取り返しがつかない。五十八号の正体が洗脳された悟飯の可能性だってある。五十八号が悟飯でないと言い切ったのは、確信と言うより願望だった。
一方、悟空が本気で戦えないのは、五十八号にとっても都合が悪かった。五十八号が悟空と戦う理由は、悟空の戦闘データを採取する為だったからである。そして、その戦闘データは、悟空が本気になった時でなければ意味が無かった。何故なら、ドクター・ハートから悟空が本気時のデータを取ってくるよう命令されたからである。
双方共に困っていた時、ベジータ達が飛行して来た。悟空の気が急上昇したのを感知した時点で、ベジータ達には悟空達が話し合いではなく戦っている事が明白となったからである。秘密の話し合いなら悟空の元に行くのを遠慮していたが、戦闘となればそうはいかない。双方の間に何があったのか状況を確認する為、ベジータ達は修行を中断して飛んで来た。
ベジータ達が来たのは五十八号にとって計算外だったが、五十八号は好機と見て、ピッコロに向けて魔閃光を放った。ピッコロは、辛うじて魔閃光を躱したが、もしまともに当たっていれば、間違いなく死んでいた。そして、悟空は、五十八号に対して怒りを覚えた。
「五十八号!どうしてピッコロを攻撃した!?」
「ピッコロさんを殺せば本気になると思ったからだよ。避けられたのは残念だったけどね。なんなら全員殺そうか?」
「もうお前が悟飯だとか、そうじゃないとか関係ない!俺の仲間を殺そうとする奴は許せねえ!」
ピッコロは、悟空にとって大事な仲間である。そのピッコロが殺されそうになり、悟空の迷いが吹き飛んだ。悟空は、五十八号に対して激しく憤り、それによって気が急上昇した。
「この気は・・・。やっと本気になったようだ」
悟空の気が大きく膨れ上がった。この戦いを観戦していた五十七号は、装着していたサングラス型の測定器で悟空の現在の戦闘能力を測定し、それを記録した。
「これで任務は完了した。早く惑星ジニアに戻って・・・うん?」
怒り心頭の悟空は、五十八号に殴り掛かった。五十八号は、避けられずに殴り飛ばされた。悟空は、五十八号を追いかけ、更に殴ろうとしたが、今度は避けられてしまった。
「ふっふっふっ・・・。孫悟空の力がこれ程までとは思わなかったよ。面白い」
五十八号は、初めて反撃に転じた。これまで悟空の真の力を測る為、少しでもダメージを与えて弱らせないよう一切攻撃しなかった。しかし、その測定が終わったので、ようやく攻撃を開始した。悟空は、立て続けに三回攻撃を受けた。
「強い!あのボラリスとかいう奴よりも・・・」
悟空は、必死に応戦したが、余りにも強い五十八号を相手に優勢になるどころか徐々に劣勢になってきた。しかし、ベジータ達が悟空の背後に立ち、悟空と共に戦う素振りを見せた。
「全員で戦う気?良いよ。来なよ」
五十八号は、少しも物怖じせず、悟空達五人を纏めて相手にしようとした。しかし、五十七号が大声で呼び止めた。
「五十八号!何時まで戦うつもりだ!?もう目的は達成した!早く惑星ジニアに戻るぞ!」
五十七号は、五十八号が悟空達全員と戦うのは、流石に無理があると思い、五十八号に惑星ジニアへの帰還を促した。ところが、興奮状態になっていた五十八号は、素直に応じず、五十七号に対して怒鳴り返した。
「雑魚は黙ってろ!今、良い所なんだ!俺の邪魔をするな!」
「なら勝手にしろ!俺は一人で戻る!ここに来た目的は、二つのデータ採取だ!その目的を果たした今、速やかに戻らねば命令違反と見なされるぞ!」
「ちっ。俺達は、同じ宇宙船に乗って来た。お前が一人で戻ってしまったら、こいつらから宇宙船を奪わねば俺は戻れないじゃないか。分かったよ!」
五十八号は、不服ではあったが、戦闘を止める事にした。そして、改めて悟空達と向き合った。
「戦闘は、ここまでだ。俺達は、惑星ジニアに戻る。殺されずに済んで良かったね」
「逃げる気か?惑星ジニアの場所を話すまで逃がさねえぞ!」
「だったら五十七号も加えて、戦いを続ける気?そうすると君達は全滅するだろう。仮に勝っても、何人かの犠牲が出るのは覚悟するんだね。こっちは大人しく引き下がってやろうと言うんだ。このまま大人しく見逃した方が、君達にとって都合が良いんじゃないかな?」
悟空達は、押し黙った。五十八号は、相当強い上に、まだ全力で戦っていなかった。このまま全員で戦っても、悟空達が全員生き残った状態で勝てるとは限らない。むしろ全滅する可能性の方が高い。危険を冒してまで敵を倒さなければならない状況でないなら、五十八号が言う通り見逃す方が賢明だった。
戦闘の継続に益無いと見た悟空は、変身を解き、構えも解いた。背後に居るベジータ達も後に続いた。
「・・・五十八号。一つだけ聞きたい。お前は一体何者なんだ?正体は?」
「ふっ。俺はハートボーグ五十八号。それだけだ」
五十八号は、余裕の笑みを浮かべ、五十七号と共に飛び去った。悟空達にとっては無念であったが、二人のハートボーグが飛び去るのを黙って見逃した。
「あいつ等・・・。一体、何の為に来たんだ?」
悟空達は、五十八号達が地球に来た本当の理由が分からなかった。少なくとも今の時点までは。


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