其の百 ハートボーグ五十八号

「ほ、本当に悟飯か?」
「嫌だなあ。俺の顔を忘れちゃったんですか?」

悟空達の前に突然として現れた悟飯は、頭を掻きながら屈託無く笑った。しかし、対する悟空達は、誰一人として笑っていなかった。本来なら悟飯との九年振りの再会を喜ぶべき場面だったが、驚きの方が先行していた。

「・・・悟飯。どうやって地球に戻れたんだ?」
「ああ。その事ですか。その話をする前に、父さんにだけ話があるんです。父さん。俺に付いて来てくれませんか?」

悟飯は、悟空のみ共に来るよう促してから飛行した。訳が分からないといった表情の悟空ではあったが、言われるがままに悟飯の後を追って飛行した。後に残ったベジータ達は、悟空達を見送りながら悟飯について話し合った。

「久し振りに会った割には、喜んでいるように見えませんでした。過酷な環境に身を置いていたせいで、人格が変わってしまったのでしょうか?」
「それに、パンの事を全く気に掛けていなかった。婚約の報告をしたかったのに・・・」

パンは、宇宙船にボディーガードとして乗っていて、この場には居なかった。悟飯は、何年も会っていない愛娘の不在を真っ先に気にしても不思議ではないのに、何故かパンについて質問しなかった。

「どうした、ピッコロ?随分と冷静だな。悟飯に会えて嬉しくないのか?」
「俺にはあれが悟飯だとは、どうしても思えなかった。見た目は悟飯そのものだがな」
「何だと!?あの悟飯が偽者だとでも言いたいのか?」
「分からない。仮に偽者だとしても、その確証が無い。ただ雰囲気が変わっただけという可能性も無くは無い」

その頃、悟飯は、草木が生い茂る土地の上に降り立った。悟空も続けて降り立った。以前とは様子が違う悟飯に対して警戒心を抱いていた悟空は、再会を素直に喜べなかった。

「悟飯。話って何だ?皆に聞かれちゃまずい話なのか?」
「それはですね・・・」

悟飯は、いきなり悟空を羽交い絞めにした。警戒していた悟空が何も出来なかった程、悟飯の動きは俊敏だった。悟空は、動揺しつつも悟飯に問い質した。

「ご、悟飯!何をするんだ!?放せ!」
「済みませんね、父さん。危害を加えませんから、しばらく大人しくしてもらえますか?」

悟空は、羽交い絞めから力尽くで逃れようとしたが、悟飯の力が強過ぎて無理だった。

「おい、もう良いぞ。五十七号」
「何?五十七号だと!?」

悟飯が茂みに向けて声を掛けると、何と茂みからハートボーグ五十七号が姿を現した。悟空が仰天したのは語るまでもなかった。

「ふん。流石だな。こうも簡単に連れ出せるとは」
「五十七号。おめえ、生きてたのか・・・」
「この俺がそう簡単に死んでたまるか!」

悟空は、五十七号を倒したと思っていたので、生きて自分の目の前に立っている事に驚いた。しかし、それ以上に悟空を愕然とさせたのは、悟飯が五十七号を仲間の様に呼んだ事であった。

五十七号は、悟空に対して深い恨みを抱いていた。出来れば悟空が身動き出来ない間に一発でも殴りたかった。しかし、感情を押し殺して懐から白い輪を取り出し、それを悟空の頭に嵌めた。

「オラの頭に何をしたんだ?」
「これはメモリースキャンといって、人の記憶を読み取る機械だ。これで父さんの記憶を貰う。でも、心配しなくて大丈夫だよ。記憶を奪われる訳じゃないからね」
「よく分からねえが、何の為にオラの記憶を取ろうとするんだ?」
「さあね。そうするようにドクター・ハートに命令された」

悟飯は、惑星ジニアから脱出したのではなく、ドクター・ハートの命令で五十七号と共に地球に来た。つまりジニア人に従って行動していた。この衝撃の事実を知って悟空がショックを受けている間に、メモリースキャンが鳴り出した。五十七号は、悟空の頭からメモリースキャンを外した。

「もう全ての記憶データを読み終えたのか・・・。最新型のメモリースキャンなだけはあるな」

悟飯は、悟空を抑える必要がなくなったので、羽交い絞めを解いた。悟空は、すぐに飛び跳ねて、悟飯から距離を置いた。

「悟飯!おめえがジニア人に従うはずがねえ!操られているんだ!」
「俺が操られている?違うね。自分の意思でジニア人に従っているんだ。これまで酷い仕打ちに耐えてきたけど、遂に耐えられなくなって服従を誓ったんだ。そして、ジニア人の協力者となり、改造手術を受けてハートボーグ五十八号になった」

悟飯は、碌に睡眠時間を与えられず、肉体労働を何年も強いられていた。その想像を絶する苦しさは、実際に味わった者でなければ分かるはずがない。幾ら悟飯でも限度がある。限度を超えれば、強い意志を持っている悟飯でも信念を曲げるかもしれない。しかし、悟空は、そう思わなかった。

「おめえに会ってから、ずっと違和感を感じていたが、その理由が分かった。見た目は悟飯そのものだが、本物じゃねえ!操られているならまだしも、自らの意思でジニア人に従うはずがねえからだ。悟飯は、どんな辛い目に遭わされても、絶対に自分の信念を曲げねえ。もし耐えられそうもなければ、自ら命を絶つ奴だ。間違っても命惜しさに悪に従う奴じゃねえ!」
「息子と思いたくなければ思わなければ良い。もうどうでも良い事だ」

五十八号は、着ていた胴着を脱ぎ捨て、木の枝に掛けてあった軍服に着替えた。普段は軍服を着ているが、今回は悟空達を騙す為に一時的に胴着を着ていた。

「悟飯、いや五十八号。どうして気を感じられるんだ?五十七号からは気を感じられないのに」
「それは技法の違いによるものだ。五十七号は旧技法による改造だけど、俺は新技法による改造だ。新技法とは眠っている潜在能力を数倍にも高め、一気に開花させる。俺の潜在能力は既に開花されていたけど、ドクター・ハートが眠った状態に戻し、それから新技法に改造した」

新技法は、フリーザやセルにも施された技法だった。眠っている潜在能力が大した事ないと、新技法で改造されても余り強くなれない。しかし、高い潜在能力を持つ悟飯が新技法に改造されれば、格段に強くなるのは当然の事だった。

「父さんの記憶データを手に入れた。後は父さんが本気になった時の戦闘データを手に入れなければならない。その為には父さんに本気になって戦ってもらわないとな」
「だったら俺に任せろ。こいつには借りがあるからな」
「馬鹿か、お前は?父さんは、以前お前に勝った時より遥かに強くなっている。もしお前が戦っても、父さんが本気になる前に、お前は倒されるだろう。俺に任せておけ」

五十八号の小馬鹿にした言い方に、五十七号は憤った。

「新技法に改造されたからって図に乗るなよ!もし俺も新技法に改造されていれば・・・」
「俺の方が優れている理由は、改造された際の技法の違いによるものだからとでも言いたいのか?俺に比べて、お前の潜在能力は大した事が無いとドクター・ハートが言っていたから、お前が新技法で改造されても俺には到底及ばない。そんな事も分からないのか?俺は、お前より遥かに優れているが、それは強さだけではなく、頭にも当て嵌まるな」

五十七号は、言い返したくても言い返せなかったので、黙って怒りに打ち震えた。そんな五十七号を歯牙にも掛けず、五十八号は、悟空と対峙した。

「そういう訳で父さん。俺と戦ってもらおうか」
「オラを父さんと呼ぶな!オラを父さんと呼んで良いのは、オラの本当の子供だけだ!」
「強情だなあ。まあ息子とは本気で戦い難いだろうから、そう思ってくれた方が好都合かもな。だったら俺も孫悟空と呼ぶ事にするよ。その方が良いだろ?」

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