苦労の末に強敵ボラリスを倒したゴジータは、空中に浮遊するドクター・ストマックの基地の中に入った。その時、フュージョンが解け、悟空とベジータに分かれた。続けてリマがベジータの体の中から出てきたので、若返りの術が解け、ベジータは元の白髪の老人に戻った。続けてピッコロ達が基地の中に入り、悟空達と合流した。
悟空達全員が一丸となって基地の奥に進むと、ドクター・ストマックの協力者達は、基地内に保管してあるジニア人の宇宙船に乗り込み、急いで逃げようとしていた。しかし、悟空達に宇宙船の外に引き摺り出された。悟空達は、ドクター・ストマックの顔を知らなかったので、協力者達の逃亡を見逃せば、それに紛れてドクター・ストマックまで逃してしまうかもしれなかった。それを阻止する為に強引ではあったが、協力者達の逃亡を力尽くで止めた。
悟空達は、この中にドクター・ストマックが居ないか協力者達に問い質した。しかし、誰も名乗り出なかった。協力者達の証言によると、ドクター・ストマックは、この期に及んでも逃げようとせず、自室に閉じ籠っているらしい。天津飯も一緒だそうである。俄かに協力者達の話を信じられなかった悟空達ではあったが、協力者達が必死に命乞いをするのが可哀想に観えたので、ドクター・ストマックの部屋の場所を聞き出した上で逃がしてあげた。
それから悟空達は、教えられた部屋の前に移動し、勢いよくドアを開けて部屋の中に入った。部屋の中央では、白衣を着た太った男が食事をしていた。そのすぐ近くで、料理人と見られる四人の協力者達が調理していた。更に部屋の脇にあるベッドの上では、天津飯が眠っていた。すぐに餃子が天津飯に近寄って回復させた。天津飯の無事を確認した後、食事をしている太った男に話し掛けた。
「おめえがドクター・ストマックか?」
「そうだ。お前達も一緒にどうだ?闘ったばかりで腹が減ってるだろうからな。遠慮なく食え」
ドクター・ストマックは、悟空達に取り囲まれているのに、堂々と食事を続けていた。食卓の上には豪華な料理が山程あった。すると水しか飲まないピッコロを除いた悟空達は、言われるがままに無心で食べ始めた。敵が提供した料理なので、中に何が入ってるか分からない。悟空達に警戒心が無い訳ではなかったが、食べるのを我慢出来ない程に良い匂いが漂っていた。実際に食べてみて、余りの美味しさに感動していた。これまでの人生で食べた、どんな料理よりも美味だった。
「美味いだろ?この料理は、征服した星々の中から集められた選りすぐりの食材で調理されたものだ。足りないだろうから、追加で用意しよう。食材はまだまだあるからな」
料理が次々と運ばれ、食卓の上に並べられた。しかし、大食いのサイヤ人が何人も居るので、出される以上のペースで無くなった。悟空達は、躍起になって食べていた。まだまだ食べ足りなかったが、食材が全て無くなってしまったので、食事は終了となった。食事が終わると、ドクター・ストマックに厳しい表情で尋ねた。
「ご馳走さん。凄い美味かったぞ。でも、だからと言って、おめえを逃がす訳にはいかねえ」
「分かっている。別に逃げるつもりはない」
「逃げるつもりがないだと!?オラ達に捕まったら、どうなるか分かってるんだろ?」
「惑星ジニアの場所を白状させるつもりだろ?悪いが教えられんな」
「大した度胸だ。この状況下でも、そんな事が言えるなんてな」
悟空達は、ドクター・ストマックに手荒な真似をしたくなかった。素直に惑星ジニアの場所を教えてくれれば、美味しい料理を食べさせてくれた手前、二度とミレニアムプロジェクトに参加するなと念を押してから、無傷で逃がすつもりだった。しかし、ドクター・ストマックが打ち明けようとしないので、逃がす訳にはいかなくなった。
「この機会を逃す訳にはいかねえ。無理にでも話してもらうぞ」
「まあ待て。惑星ジニアの場所を教えないのは、止むを得ない事情があるからだ。もし話せば、ドクター・ブレインに俺の一族を皆殺しにされる」
「ドクター・ブレイン?ひょっとしてそいつが、ジニア人のトップか?」
「知らなかったのか?そうだ。あの悪魔のせいで、俺の人生が狂わされてしまった」
ドクター・ストマックの発言を聞いた悟空達は、ジニア人の厳し過ぎるルールに仰天した。惑星ジニアがジニア人にとって大事なのは想像出来るが、その場所を他人に明かした本人だけでなく、その一族まで皆殺しにされるとは流石に想定外だった。
「俺は、化学の研究と美味しい料理が楽しめれば、それで充分だった。宇宙中から食材を調達するのに、わざわざ征服する必要は無い。だが、ミレニアムプロジェクトの為に余りにも多くの命を奪ってしまった。その罪は万死に値する。だから俺自身は殺されても構わない。それだけの事をしてきた。しかし、惑星ジニアに住んでいる俺の一族に罪は無い。自分は大勢の人間を殺しておいて勝手だとは思うが、一族の命を犠牲に出来ない」
ドクター・ストマックは、腹立たしげに食卓を叩いた。本心ではミレニアムプロジェクトに参加したくなかったが、ミレニアムプロジェクトの提唱者であるドクター・ブレインが恐ろしくて逆らえず、止むを得ず悪事に加担してしまった。その罪の意識から逃れる為に好きな食事に没頭したが、どんな料理を食べても心から美味しいと思えなくなっていた。
次にピッコロが皮肉交じりに質問した。
「そんなにドクター・ブレインとやらが憎いなら、どうして元素戦士を使って反乱を起こさなかったんだ?隙を突けば、簡単に殺せるだろ?」
「ドクター・ブレインを殺す?馬鹿を言え。お前達は、ドクター・ブレインの恐ろしさを知らないから、そんな事が言えるんだ。あいつに勝てる者は居ない。ボラリスを倒した合体戦士でもな」
悟空達は絶句した。ドクター・ストマックが嘘を言っているとは思えなかったので、そんなに凄い奴が居るのかと圧倒された。
「ところが、ドクター・ブレインは、お前達を本気で倒そうとは思っていない。それどころか、お前達がジニア人を倒す事を望んでいる。ミレニアムプロジェクトの為にな」
ドクター・ストマックの不可解な言葉に、悟空達は一斉に首を傾げた。自分達がジニア人を倒す事が、どうしてミレニアムプロジェクトの為になるのか、皆目見当が付かなかった。
「以前、ドクター・ブレインは皆を集め、こう提案した。『今のペースでは千年以内に全銀河を征服出来ないから、ジニア人のクローンを大量に作り、そのクローンにオリジナルの知識と発明品を授け、オリジナルと同じ働きをさせよう。そうすれば、一気に遅れを取り戻し、ミレニアムプロジェクトが成就する』とな。ところが、ドクター・ハート以外は誰も賛同しなかった。ドクター・ブレインは、その時は何も言わなかったが、内心では反対したジニア人達を疎ましく思ったはずだ」
宇宙には何千億の銀河があり、一つの銀河には何千億の星がある。実際に知的生命体が住んでいる星は、どの銀河も百万前後だが、それでも相当な数である。この全てを千年以内に征服する為には、ジニア人の人数が足りなかった。そこでドクター・ブレインは、ジニア人のクローンを作ろうと考えたが、賛同を得られなかった。
ジニア人という種族は、知性が他種族より抜群に高いだけに、総じてプライドが高い。自分達のクローンを作って自分達と同じ働きをさせるなど、例えミレニアムプロジェクトの為であっても、受け入れられなかった。
「そこでドクター・ブレインは、ジニア人が死ねば、そのクローンを作れると考えたはずだ。だが、ドクター・ブレインが直接ジニア人を殺す訳にはいかない。そこで目を付けたのが、お前達だ。お前達がジニア人を倒しても、まさかそれがドクター・ブレインの狙い通りとは考え難い。建前上は敵だから、俺の様に刺客を送るが、殺さず捕らえるよう指示している。だから天津飯とやらも殺さなかった。元素戦士を元に戻す術に個人的な興味を抱いたからでもあるがな」
思い返してみれば、これまでのジニア人との戦いには不可解な点が合った。ドクター・リブやドクター・スパインとの闘いは、偶然の遭遇から始まったが、それ以降は、ジニア人の方から攻めて来た。ところが、ジニア人は一人ずつしか攻めて来なかった。大勢のジニア人が一度に攻めてきた方が、数が劣る分、悟空達は明らかに不利である。
また、ドクター・キドニーのケースを除けば、一人のジニア人が敗れてから、次のジニア人が攻めてくるまで、かなりの時間があった。時間があれば、悟空達は修行して更に強くなる。それもドクター・ブレインの狙いなら辻褄が合う。
「もしお前達が敗れたら、ドクター・ブレインは別の敵を用意し、ジニア人を抹殺させるだろう。そして、ジニア人を一掃した後、お前達、もしくは別の敵を始末する。そして、事前にジニア人から摂取した細胞を使ってクローンを大量に作り、ミレニアムプロジェクトを完成させようとするだろう。一人のオリジナルより、十人のクローンの方が、征服が早くなるからな」
ドクター・ストマックは、誰にも言えなかった苦しい胸の内を吐露すると、ようやく一息突いた。
「お前達に忠告しておく。ドクター・ブレインには絶対に勝てないから、生き延びたければ、地球を捨てて何処か別の星で細々と暮らせ。もしそこも見つかったら、また別の星に移れ」
「冗談じゃねえ。惑星ジニアに居る悟飯を助け出さずに、逃げる訳にはいかねえ」
「ならば、もし惑星ジニアに着いたら、その悟飯とやらを見つけ出して宇宙船に乗せ、すぐに帰れ。ドクター・ブレインに遭遇しても闘わずに逃げろ。話は以上だ」
話し終えたドクター・ストマックは、胸ポケットからカプセルを取り出し、それを飲み込んだ。その直後、血を吐いて絶命した。カプセルの中身は、実は青酸カリだった。悟空達は、無言で基地から立ち去った。


コメント