其の九十七 ボラリス撃破

リマの力を借りて合体したゴジータは、正面から堂々とボラリスの元に歩み寄った。対するボラリスは、悠然とゴジータが来るのを待った。そして、双方が目と鼻の先の距離で向かい合った所で、ゴジータが先に攻撃を仕掛けた。ゴジータは、パンチ、続けてキックを繰り出したが、ボラリスに素早い動きで避けられてしまった。しかし、回避されたのを悔しがるどころか、ボラリスの行為を鼻で笑った。

「宇宙で最も硬い金属と豪語していたくせに、どうして俺の攻撃を躱したんだ?ビビってるのか?」

ボラリスが何故ゴジータの攻撃を避けたのか、それはボラリス自身も分からなかった。ボラリスは、己の素早さを見せつける為にリマの攻撃を避けた事もあったが、それ以外の攻撃は避けずに全て受けた。体の硬さに絶大な自信を持っていたからである。今回のゴジータの攻撃だって、自分には通用しないと高を括っていたから避ける意思が無かった。ところが、本人の意思とは無関係に体が動き、攻撃を避けた。まるでボラリスの体がゴジータの攻撃を恐れるかの様に。

「ふ、ふん。俺の素早さを今一度見せ付ける為だ。俺は、お前より速く動ける」
「ふっ。詰まらない言い訳しやがって。だったら、今度は避けずに喰らってみろよ」
「良かろう。お前が俺の体に攻撃を当てても、お前だけが痛い目を見る事になるがな」

ボラリスは、再び繰り出されたゴジータのパンチを避けずに受けるつもりだったが、またしても体が勝手に動き、パンチを避けてしまった。この時、自分が本能的に恐れている事に気付いた。ゴジータに対して恐れているのではない。最高の硬さを誇る自分の体が傷付くのを恐れていた。

「どうした?まだ自分の素早さを見せびらかしたいのか?」
「う、五月蠅い!お前の汚い拳で触れられたくなかっただけだ!」
「苦しい言い訳だな。本当は分かっているんだろ?お前の体に傷が付くとな。頭では分かっていなくても、体が分かっている。だから動いてしまうんだ」
「馬鹿にするな!だったら、次は絶対に動かないから、俺に攻撃してみろ!」

ボラリスは、体が勝手に動き出さないよう両足で踏ん張って立った。それを見たゴジータは、振りかぶってボラリスの胸部を殴った。しかし、殴った右の拳を左手で押さえて痛がった。一安心すると同時に、得意顔になったボラリスだが、次の瞬間、ボラリスの胸部に罅が入った。ゴジータの攻撃も自分には通用しないと安堵した直後だっただけに、ボラリスが狼狽えたのは語るまでもなかった。

「ば、馬鹿な!?俺の体に罅が・・・」
「やっぱりな。その罅は、今の俺のパンチだけで出来たものじゃない。お前の体は、これまで攻撃を受け続けてきたが、その度に劣化していたんだ。目に見えないから分かり難かったがな。そして、俺の攻撃で遂に限界を迎えたんだ。俺達の力を見縊り、調子に乗って攻撃を受け続けたのが裏目に出たな」

ゴジータの拳は、少し出血している位で、回復しないと使えない程のダメージを負っていなかった。ボラリスを殴り、その程度の傷で済んだのは、ゴジータの体が頑丈だからでもあるが、何よりボラリスの硬度が劣化しているからだった。

「・・・やってくれたな。俺の体に傷を付けた罪は重いぞ。もう手加減しない」
「どうやら自分の体が傷付いたのを見て、闘争本能に火が付いたみたいだな。面白い。ようやく俺も本気で闘える」

体だけでなく、誇りまで傷付けられたボラリスは、ゴジータに対して憎悪の感情を抱いた。そして、ボラリスが手加減しないと言うので、ゴジータは気を最大にまで高めた。先程のボラリスへの攻撃は、本気ではなかった。相手が本気でなければ自分も本気にならない。それがゴジータの流儀だった。

ゴジータとボラリスによる激しい攻防戦が始まった。ゴジータの攻撃は、まともに当たればボラリスの体に罅が入ったが、それでも肉弾戦はゴジータにとって不利だった。ゴジータの攻撃が当たればゴジータも傷付くが、ボラリスの攻撃が当たってもボラリスは傷付かない。しかもボラリスの動きが余りにも速いので、ゴジータでも易々と攻撃を当てられなかった。その結果、ゴジータの全身は、早くも傷だらけになった。対するポラリスは、体の数箇所に罅が入った程度だった。

精神面においてボラリスは、ゴジータを圧倒していた。最初こそ体を傷付けられた事に腹を立てていたが、次第に怒りが消え、闘いを純粋に楽しむようになっていた。まるで子供が玩具を与えられて喜んでいるかの様であった。一方、合体していられる時間に制限があるゴジータに精神的余裕などあるはずなかった。

フィジカル面でもボラリスは、優位な立場だった。生物ではないので、どんなに闘っても疲れないし、痛みも感じない。一方、ゴジータは、闘い続ければ疲れるし、攻撃されれば大きな痛みを感じる。

しかし、ゴジータに焦りは無かった。正攻法で駄目なら、別の手法で闘えば良い。ボラリス打倒の最大の難関は、その硬過ぎる体である。当初は真っ向勝負で、その体を破壊しようとした。しかし、それだと自分の体も傷付くので効率が悪い。気功波を使えば自分の体は傷付かないが、ボラリスの動きが速過ぎるので、命中させるのが難しい。余裕が無いので、余計なエネルギーの消耗は避けたかった。

ならばボラリス自身にボラリスを攻撃させたらどうだろうかとゴジータは考えた。それならゴジータの体が痛まないし、一方のボラリスは、攻撃した箇所と攻撃された箇所が傷付く。自らの体を攻撃するなど普通に考えればありえないが、ゴジータは、本気でその為の作戦を闘いながら思案した。

ある作戦を思い付いたゴジータは、ボラリスが殴り掛かるのを待ち構えた。そして、ボラリスが右の拳で殴り掛かってくると、ボラリスの右手首を掴んだ。そして、ボラリスの右手首を捻った。するとボラリスの右腕が捩れ、根元から右腕が千切れてしまった。ボラリスの体は、打撃には強くても、関節技には弱かった。

ゴジータは、切断されたボラリスの右腕を、ボラリスの胸部に向かって思いっきり投げた。ボラリスの腕と胸部の硬度は同じだが、腕にはゴジータの力が加わっていた為、腕が胸部を突き抜けた。ボラリスの胸部には大きな穴が開き、大ダメージを負ったボラリスは跪いた。

ゴジータは、ボラリスが動けない間に両手に気を溜め、ビッグバンかめはめ波を放った。ボラリスは、避ける間もなく、まともに喰らった。ボラリスの全身に罅が入り、所々が欠けた無残な姿となった。しかし、それでもボラリスは、活動を停止しておらず、ふらつきながら立ち上がった。

「まだ動けるのか。さすがにしぶといな」
「くっ。俺をそう簡単に倒せると思うなよ」

ボラリスは、全身を発光させた。元々は天津飯の真実の目を封じる為の機能だったが、強過ぎるゴジータに対抗する為には、形振構っていられなかった。先程はサングラスで目を守っていたが、その後の元素戦士との戦闘の最中にサングラスが外れて地面に落ち、しかも何度も踏まれて使い物にならなくなっていた。裸眼のゴジータは、思わず目を背けた。

生物でないボラリスには気が無い。その為、ボラリスの動きを把握するには目で追うしかない。ところが、目を背けてしまったゴジータには、今ボラリスが何処に居るのか目で確認出来なかった。ボラリスは、好機到来とばかりにゴジータに襲い掛かったが、ゴジータは、目を背けたままボラリスの攻撃を避け、逆にカウンターを喰らわせた。予想外の反撃に遭ったボラリスは驚愕した。

「ど、どうして俺の動きが分かったんだ?」
「ふっ。空気の流れを読んだからさ。お前が動けば空気の流れが変わる。そこからお前の位置を特定したんだ」

ゴジータは、視界を封じられても冷静だった。見えないなら肌で感じ取ろうと、空気の流れを読むのに全神経を集中させた。そして、空気の流れが乱れたのを感じ取り、ボラリスの接近を悟った。かつて悟空がミスター・ポポに教わった技術だった。

ボラリスは、ゴジータの凄さに身震いした。そして、発光を止めた。

「最早お前に打つ手は無い。これで終わりだ。最後に敗因を教えてやる。お前は、俺達に勝てるチャンスが何度もあったのに、自惚れて俺達を見縊り、すぐに倒そうとはしなかった。逆に俺達は、お前の猛攻に耐えながら、勝機が訪れるのを待った。俺達の決定的な違いは、勝利に対する貪欲さだ。勝利への執念とも言えるかな」

貪欲さや執念があるからこそ、人は不利な状況でも決して諦めない。元素戦士が決して持っていないものだった。ここが元素戦士よりも人が優れている点だった。

ゴジータは、ボラリスに向けてファイナルかめはめ波を放った。観念したボラリスは、避けようともせず、まともに喰らった。完全には消滅しなかったが、全身の半分以上を消失し、体内の元素コアも破壊され、原形を留めていなかった。ボラリスの活動が完全に停止し、ゴジータの勝利で激闘の幕は閉じた。

「今回は一人だけだったから何とか勝てたが、もう一人同じ奴が居れば、流石に勝てなかった。恐ろしい敵だった。さて、ドクター・ストマックとやらを捕まえないとな。既に天津飯を連れて惑星ジニアに移動していなければ良いんだけど・・・」

ゴジータは、一抹の不安を抱えつつも、頭上に浮かんでいるドクター・ストマックの基地に向かって飛び上がった。観戦していたピッコロ達は、ゴジータの後に続いた。

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