突如として襲撃してきた火の元素戦士マズと水の元素戦士キュリを撃退する為、ピッコロとトランクスは、各々邪魔にならないよう互いに距離を置いてから戦闘を開始した。そして、戦闘に加わらない悟空達やリマ達は、固唾を呑んで二つの闘いを見守った。
ピッコロとマズの対戦では、まずピッコロがマズに殴り掛かった。それに対してマズは、避けようともせず、わざと頬を殴られた。
「ほう。なかなかやるな」
マズは殴られた頬を手で拭いながら笑みを浮かべた。一方、ピッコロは拳を火傷していた。火の元素戦士と言うだけあって、マズの体の表面は火の様に熱かった。しかし、ピッコロは火傷を気にせず攻撃を続行し、今度はマズも応戦した。
マズに触れた体の部位は悉く火傷したが、ピッコロは我慢して闘い続けた。また、戦闘が激しくなればなる程、マズの体は更に熱くなり、ピッコロの体から大量の汗が噴き出てきた。ピッコロは、ナメック星人なので、暑さや寒さには地球人やサイヤ人より耐久力がある。それにも拘らず、マズの熱さに耐え切れなくなったので、一旦戦闘を中断した。
「気を全く感じないし、体が異様に熱い。まるで火と闘っている様だ」
「ふっ。様ではなく、実際に火と闘っているんだ。俺の体は火で構成されているからな」
「何!?ただの火の分際で、これだけ強いのか?」
「ただの火の分際って、どれ位の火だと思っているんだ?体の大きさで判断するなよ。太陽一個に相当する火だぞ。つまり太陽と闘っている様なものだ」
マズの体の大きさは、ピッコロと大して変わらなかった。それで太陽一個に相当する火で体が構成されているのなら、かなりの火が凝縮されている事になる。ピッコロは、太陽一個とは流石に誇張だと感じたが、僅かな火でこれだけ強いとも思えなかった。そこでマズの体を構成する火が、果たしてどれ程なのか確かめる事にした。
ピッコロは両手から気功波を放ち、マズは両手から火を出して応戦した。二人の中間地点で気功波と火が激突した。ピッコロは気功波を出し続け、マズは火を出し続けた。もしマズの体の火が見た目程度だったら、これだけ長時間に渡って火を出し続けていれば、マズの体は消失している。しかし、マズの外見は全く変化なく、火も一向に衰えなかった。ピッコロは、マズの体が見た目以上の火で構成されていると判断し、気功波を出すのを止めた。マズも火を出すのを止めた。
「答えろ。一体どうすれば火から人間型の戦士を作れるんだ?」
「元素コアだ。ドクター・ストマックは化学博士。自然界に存在するもので戦士を形成する事を思い付き、元素コアを開発した。元素コアは、火や水といった無形の物に触れると、直ちに取り込んで規定のサイズの人間型を形作り、プログラムされた人格を備える」
「では、貴様の体内にある元素コアとやらを破壊すれば、貴様を倒せるんだな?」
元素コアがマズを形作り、人格まで与えているなら、その元素コアを破壊すれば、マズは元の火に戻る事になる。ピッコロの指摘は的を得ていたが、マズは慌てるどころか笑っていた。
「馬鹿め!元素コアは何千何万度の熱や、絶対零度の寒さでも壊れない頑丈な代物だぞ。容易に破壊出来ない。仮に元素コアを壊せたとしても、その時は俺の体を構成していた火が、この星全体を燃やし尽くす。これは元素コアを壊す場合に限らず、俺が死んでも同じ事が起こる。要するに、お前がこの星を守るつもりなら、俺を倒せない」
マズが死ねば地球が燃えて無くなってしまう。これでは地球を守る為に闘っても、結果として地球を滅ぼす事になってしまう。かつてない厄介な敵に、ピッコロは困惑した。
「その元素コアとやらは大量にあるのか?もしや貴様以外にも火の元素戦士が・・・」
「途方もない数の星を滅ぼす為には、大勢の元素戦士が必要だからな。これまでドクター・ストマックは、協力者達と共に、たくさんの元素コアを作ってきた。そして、俺の他にも火の元素戦士は居る。そもそもマズという名前は、俺個人のものではなく、火の元素戦士共通の名だ」
ピッコロは元素戦士の恐ろしさを思い知った。元素コアさえ作ってしまえば、後は征服した星の火や水から戦士を生み出せる。元素コアを一個作るのに、どれだけ手間が掛かるか知らないが、既に大量生産され、現時点における元素戦士は相当な人数になっているのは想像に難くない。
新たに現れた元素戦士達から地球を守る為には、全ての元素戦士を倒さねばならない。それと同時に、ドクター・ストマックを捕らえ、元素コアの製造を止める必要があった。尤もドクター・ストマックを捕らえるのは、別の目的もあるのだが。
「そんな凄い物を作り出したドクター・ストマックというのは、かなりの天才だな」
「当たり前だ。ドクター・ストマックはオーガンの一員で、知能指数が七千五百もあるのだぞ」
「ドクター・ストマックとやらは、そんなに知能指数が高いのか。一度お目に掛かりたいものだな。そのドクター・ストマックは、何処に居るんだ?」
マズは自分に自信を持ち過ぎているせいか、聞かれた事を隠そうともせずに答えた。ならばとピッコロは、ついでにドクター・ストマックの居場所を聞き出そうとした。そして、マズは、調子に乗って話してしまった。マズの話によると、ドクター・ストマックは地球から遠くない場所にある星を拠点としているそうである。カプセルコーポレーション内に保管してあるジニア人の宇宙船なら、一瞬で移動出来る場所にある星だった。
「ドクター・ストマックの側には、大勢の元素戦士が居る。お前達が行っても、殺されるだけだ」
ついピッコロにドクター・ストマックが居る星を教えてしまったが、もしピッコロがこの場を切り抜け、その星に攻め入っても、そこには大勢の元素戦士が居るから、ドクター・ストマックの身に危険が及ぶ事は無い。うっかり話してしまったが、何も心配する事は無いとマズは安心していた。
長時間戦えば、熱のせいで体力の消耗が激しくなる。マズに勝つには短期決戦しかないと判断したピッコロは、重いマントとターバンを脱ぎ捨てた。実はピッコロが身に付けているマントとターバンは、以前と同じ重さではなかった。ピッコロが強くなるにつれて重くしていた。つまり今までピッコロは、本気とは程遠い力で闘っていた。対するマズは、体が更に発熱し、体中が火に包まれた。実はマズも、これまで本気で闘っていなかった。双方フルパワーの状態で戦闘が再開された。
ピッコロとマズは、激しい攻防戦を繰り広げた。最初は熱さに我慢する程度だったピッコロは、体力が低下すると、徐々に押されてきた。後退を続け、遂には観戦している悟空達の側まで追いやられた。ところが、悟空の側に居た天津飯に近付き、何事か耳打ちした。先程は闘いを妨害されて落ち込んでいた天津飯だったが、この頃には大分落ち着いていたので、ピッコロの話を冷静に聞く事が出来た。そして、大気圏近くまで高く飛び上がった。
天津飯が上空高く飛び上がるのを確認したピッコロは、反撃に転じた。マズの腹部を蹴り上げると、次に気功波を出して、マズを宇宙空間まで押し出した。マズは地球に戻ろうとしたが、その前に天津飯が真実の目でマズを見た。するとマズの体から元素コアが飛び出し、マズは元の火に戻った。宇宙空間は真空状態の為に火は一瞬で消え、元素コアだけが地上に落下した。あれだけ猛威を振るっていたマズの呆気無い最期だった。
ピッコロは地面に転がっている元素コアを拾い上げた。元素コアは、クリスタルに似ていたが、クリスタルより遥かに硬かった。ピッコロは、元素コアを握り潰そうとしたが、少々の力では無理だった。思いっ切り力を入れて握ろうとしたが考え直し、カプセルコーポレーションに持って行ってブルマに分析してもらう事にした。
天津飯が地上に降り立った。天津飯は、マズが宇宙に飛び出したら、真実の目を使うようにピッコロに指示されていた。マズは元が火なので、真実の目で見れば火に戻るとピッコロは考えた。しかし、地球上で試す訳にはいかなかったので、マズを宇宙にまで吹っ飛ばしたのである。そして、大気圏近くで待機していた天津飯は、地球に被害が及ばないよう心掛けて真実の目を使った。
「天津飯。お前が居てくれて良かった。俺一人の力では奴に勝てなかったかもしれない」
「奴には俺の闘いを邪魔されたからな。少しすっとした。それより大丈夫か?酷い火傷だぞ」
ピッコロは、全身に火傷を負っていた。皮膚が焼ける臭いすらした。天津飯の力を借りずに闘い続けていれば、焼け死んでいたかもしれない。
ピッコロは、先のドクター・スカル率いるスカルボーグ達との闘いの折、復活したピッコロ大魔王と融合して大きな力を得ていた。その後も修行を続け、更にパワーアップしたピッコロですら手古摺ったマズは、非常に手強い敵であった。こんなに強い元素戦士が他にも大勢居るなら、悟空達が総動員しても勝てないかもしれない。
しかし、ここには元素戦士の天敵とも言える天津飯が居る。天津飯が真実の目を使えば、場所にさえ気を配れば、労せずに元素戦士を倒せる。この先の闘いに天津飯の存在は不可欠だと、ピッコロや悟空は強く感じていた。
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