其の八十八 元素戦士の乱入

悟空と天津飯の対決は、序盤こそ互いに一歩も引かない展開だったが、双方が手の内を見せておらず、ここからがいよいよ本番だった。

「悟空よ。久し振りに闘ったが、更にパワーやスピードが上がっているな。以前のお前が相手だったら、変色拳や四身の拳で勝てただろう。しかし、お前がどんなに速くても、百の目からは逃れられんぞ」
「百の目!?」

天津飯が体に力を入れると、体中から何かが浮き出てきた。それは目であった。天津飯の全身は無数の目で覆われた。目だらけになった天津飯の異様な姿に、間近で見ている悟空は気味悪さを感じた。

「百目拳。悪いな、悟空。これで俺の勝ちが決まった」
「もう勝って気でいるのか?目がたくさんあるのは凄いけどよ。闘いでは相手の動きを目だけで見るもんじゃねえぞ」
「ふっ。百目拳は見る為だけの技ではない。真の恐ろしさは別の所にある。今からそれを見せてやる。来い!悟空!」

不安を感じた悟空だったが、敢えて挑発に乗った。正面から攻めると見せかけて、天津飯の目の前で迂回し、側面から迫った。しかし、天津飯の腕にある目から光線が出たので、動きを止めて光線を避けた。気を取り直して飛び上がり、急降下して真上から接近した。ところが、天津飯の頭頂部や肩にある目から光線が放出されたので、身を反らして光線を避けた。ならばと瞬間移動で天津飯の背後に移動したが、背中にある目からの光線を浴びる破目に陥った。

光線を浴びた悟空は、一旦天津飯から離れた。好機と見た天津飯は、悟空の後を追った。悟空は、太陽拳を使って天津飯の追跡を止めた。ところが、天津飯は、背中を向けて、背中の目から悟空に光線を放った。光線を避けた悟空だが、その間に目が回復した天津飯に追いつかれ、手四つの体勢となった。天津飯は、悟空を逃げられない状況にしてから、至近距離で正面の目からの光線の集中砲火で悟空を散々に苦しめた。

頃合を見て天津飯が攻撃を止めて手を離すと、悟空は、すぐに天津飯から距離を置いた。大ダメージを負った悟空だが、まだ充分に闘える状態だった。これは天津飯にとって計算違いだった。悟空がタフなのは知っていたが、これだけ攻撃を受ければ、死なないまでも勝負は決まると思っていたからである。悟空のタフさが自分の想像を遥かに超えていたと悟った天津飯は、情を捨て、殺す位のつもりで闘わないと勝てないと思った。

「悟空よ。俺の百の目は見えるだけでなく攻撃も出来る。これによって俺には死角が無くなったばかりか、全方位への攻撃が可能となった。俺が四身の拳を止めた理由が分かったか?」
「・・・ああ。四人のまま今の技を使えば、お互いに攻撃が当たっていたかもしれねえ。下手をすると同士討ちになる」

もし天津飯が四身の拳を使った状態で百目拳も使えば、悟空にとって更に脅威となっていたが、マイナス面もあった。全方位に攻撃出来るからこそ、他の三人には攻撃が当たらないよう配慮しなければならない。それでは互いに気を使って、思う存分攻撃出来なくなる。互いが互いの足を引っ張るなら、むしろ一人で闘った方が良い。天津飯は、悟空との決戦に先立ち、どうすればミスを少なくして悟空に勝てるのかを、何度も頭の中でシュミレーションしていた。

悟空は、百目拳の打開策を考えた。気功波を使って攻撃しても倍の力で跳ね返されるなら、百の目にも止まらないスピードで天津飯に近付いて攻撃するしかない。その為にはスピードを上げなければならないが、超サイヤ人になれば簡単にスピードを上げられる。まさか天津飯を相手に超サイヤ人になるとは、戦闘前の悟空は思いもしなかったが、そうせざるを得ないのは、それだけ天津飯が手強くなったと認める事でもあった。

「天津飯。オラに勝つ為に凄く修行したんだな。感心したぞ。でも、負ける訳にはいかねえんだ」

悟空は、超サイヤ人に変身した。ところが、元々あった天津飯の額の目が光った瞬間、悟空の意思とは無関係に変身が解けてしまった。変身前の状態に戻ってしまった原因が分からず呆気に取られている悟空に、天津飯は淡々と真相を語った。

「真実の目だ。この目には見た者の現状の姿ではなく、真の姿が映し出される。そうすると、実際にその人物もその姿になってしまう。悟空よ。お前の真の姿は、言うまでもなく変身前だ。だから変身前の状態に戻された。俺の力では超サイヤ人に変身したお前に敵わないのは分かっていた。俺がお前に勝つ為には、超サイヤ人の力を封印する必要があった。真実の目を会得した俺に、もう超サイヤ人は通用しないぞ」

日々強くなっている悟空に勝つ為、天津飯は、悟空以上の猛特訓を積んでいた。しかし、超サイヤ人になって更に何段階も強くなる悟空を上回るのは、どんなに特訓を積んでも無理だった。そこで超サイヤ人に勝つよりも封じる道を選んだ。超サイヤ人の力を封じる事が出来る技を、三つ目人の先人が遺した巻物を注意深く読んで探し、遂に該当する技を発見した。その技こそが真実の目だった。そして、厳しい修行の末に真実の目を会得した。

悟空は、気功波を使えず、超サイヤ人への変身も封じられた。ダメージも負っており、百目拳の打開策も思いつかない。正に八方塞の状態だが、勝負を諦めていなかった。それどころか、己の劣勢を喜んでいた。表情は自然と笑みになり、天津飯との闘いを心から楽しんでいた。

ところが、次の瞬間、信じられない出来事が起こった。謎の二人組が突如として現れ、その内の一人が背後から悟空を襲撃した。状況を理解出来ずに動揺する天津飯を、もう一人が襲い掛かった。悟空と天津飯は共に倒され、謎の二人組は冷笑を浮かべながら足元の悟空達を見下ろしていた。

「こいつ等が本当にあのジンに勝ったのか?全然大した事ねえじゃねえか」
「ジンに勝てたのは仲間の力を合わせてだったのでしょう。あそこに居る連中も含めて、全員始末しましょう」

この二人組は、人の形をして筋肉質の体型をしていたが、服を着ておらず毛が生えていなかった。片方の全身が赤色で、もう片方は全身が青色だった。悟空を襲ったのは赤い方で、天津飯を襲ったのは青い方だった。

この二人組の突然の乱入は、リマや餃子も予想しておらず、初めは呆然としていた。しかし、リマ達が事態を把握すると、沸々と怒りが込み上げてきた。そのリマ達とは対照的に、ベジータ達は冷静だった。まずピッコロとトランクスが素早く二人組の前に移動した。そして、ベジータは、リマの脇に立った。

「悪いな、リマ。勝負は中止だ。邪魔が入ったからな」
「お前達は、あの二人が何者か知ってるのか?」
「知らん。だが、誰の命令で来たのかは分かる。あれはジニア人の手先だ」
「ジニア人だと!?何だ、それは?」
「後で話してやる。トランクス達があの二人を片付けた後でな」

ベジータも悟空との勝負をジニア人のドクター・リブが送り込んだリブマシーンに妨害された事があった。なのでジニア人の手口が分かっていた。ジニア人のやり口には相変わらず気に入らないが、内心喜んでもいた。リマ達との勝負が中止になったので、土下座が回避されたからである。

一方、ピッコロは、折角の勝負を邪魔された事に対する怒りを押し殺して二人組に尋ねた。

「貴様等は、何者だ?名乗れ!」
「火の元素戦士マズ。こっちの青いのは水の元素戦士キュリ。ジニア人のドクター・ストマックの命により、お前達を殺しに来た」
「やはりジニア人か・・・。しばらく大人しくしていたが、また現れやがって!すぐに倒してやる!」

今にも飛び掛からんとするピッコロ達に、悟空は足元から話し掛けた。立ち上がる事も出来ない程の重傷を負っていたが、意識は明瞭だった。ちなみに天津飯は気を失っていた。

「き、気を付けろ。こ、こいつ等、とてつもなく強いぞ」
「分かっている。元々ダメージを負っていて、尚且つ不意打ちだったとはいえ、お前を一撃で倒したんだからな」

悟空と天津飯は、パンとウーブによって運び出され、すぐに餃子に回復してもらった。幸い悟空も天津飯も致命傷を負っておらず、無事に回復した。しかし、天津飯は、人生を懸けた勝負を妨害されたので、現実を受け入れられなかった。餃子が慰めの言葉を掛けても耳に入らない程に気落ちしていた。

そして、ピッコロ対マズ、トランクス対キュリの闘いが始まった。

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