其の八十六 餃子の超魔術

パンと餃子の闘いが始まった。まずパンが餃子に向かって突進し、先制攻撃を浴びせようとしたが、空を切った。その後もパンの攻撃が何回も繰り出されたが、餃子には一回も当たらなかった。この餃子の回避に、パンは悔しがるよりも驚いていた。餃子が回避した時の動きが全く見えなかったからである。パンばかりでなく、彼女の後方で観戦していた悟空達ですら見えなかった。しかし、悟空は何となく餃子の動きの秘密が分かった。

「あれは瞬間移動だ。餃子は、パンの攻撃が当たる直前に近くの場所に瞬間移動している。だから餃子の動きが見えねえんだ。でも、オラの瞬間移動とは種類が違うようだ。オラの瞬間移動は、気を感じ取って移動するから、対戦相手に近付く事は出来ても遠ざかる事は出来ねえ。でも、餃子は誰も居ない場所に移動している」

この悟空の読みは当たっていた。餃子が使っていたのは、正式名称がテレポーテーションで、餃子が魔界での修行で会得した術の一つである。テレポーテーションと瞬間移動は同義語だが、餃子のテレポーテーションの優れている点は、悟空の様に気を探らなくても移動が可能な為、誰も居ない場所にも移動出来る。その代わり、移動先の場所を頭の中でイメージする必要がある為、知らない場所には移動出来ない。しかし、今回の戦闘においては、この弱点は全く支障が無かった。

攻撃が全く当たらないので、パンは一旦止まって一息入れようとした。ここで餃子は、間髪入れずに攻勢に転じてきた。パンの眼前に突然現れて顔面をパンチし、パンが反撃する前に姿を消し、今度はパンの背後に現れて背中を蹴った。そして、パンが後ろを振り向いた時には再び姿を消し、パンの足元に現れて足払いした。パンがバランスを崩すと、横から体当たりしてパンを吹っ飛ばした。

餃子は、テレポーテーションを駆使して、現れては攻撃して消え、すぐに別の場所に現れて攻撃して消えるヒットアンドアウェイ戦法を取っていた。それに対してパンは、全く対処出来ず、立て続けに攻撃を喰らっていた。

吹っ飛ばされたパンは、すぐに立ち上がったが、餃子を警戒して即座に反撃しようとしなかった。餃子も攻撃を止め、何やら怪しげな動きを始めた。餃子が両腕を何度も交差させるので、パンは呆気に取られていた。やがて餃子は、怪しげな動きを止めると、急に勝利宣言した。

「これで僕の勝ち」
「何を言ってるのよ!まだ闘いは始まったばか・・・」

パンは、飛び掛かろうとしたが、体を全く動かせなかった。必死になって動こうとしたが、微動だにしなかった。餃子に何かされたのは間違いないが、それが何なのか分からないので、餃子を睨みつけて問い質した。

「餃子さん!あ、あなた、私の体に何をしたのよ!?」
「君が立っている場所に、見えない結界を張った。それも一つじゃない。何重にも結界を張った。僕は結界を重ねて作れるから、一つ一つの結界の力は弱くても、数を増やせば、どんなに強い人の動きも封じれる強力なものになるんだ」
「さっきの動きは、結界を張る為のものだったのね!?ゆ、油断したわ!」

結界と聞いたパンは、以前にバトルフィールドで対戦したザンギャを思い出した。ザンギャも結界を使い、それに捕らえられると動きを拘束され、パワーを奪われて痛みも発生した。しかし、拘束力は一定で、ザンギャより圧倒的に強ければ破るのも簡単だった。一方、餃子の結界は、身動きを封じる以外は特に弊害が無いが、重ね掛けが可能なので、数によっては餃子より遥かに強い者でも容易に破れない。また、ザンギャの結界は目に見えたのに対し、餃子の結界は目に見えない。

餃子は、テレポーテーションを使わずにパンに近付き、両手両足を使って攻撃してきた。餃子の結界は、一度作られれば、放置されても消えない。これもザンギャの結界より優れている点だった。ザンギャが結界を作ると、絶えず両手を使って結界を維持しなければならなかった。

パンは、先程のテレポーテーションを使った攻撃に引き続き、結界で動きを封じられた上での攻撃を受け続けた。幾ら鍛えているとはいえ、立て続けに攻撃を受ければ、流石に体力が低下した。これ以上の攻撃を受けるのは危険だと判断したパンは、超サイヤ人2に変身し、全ての結界を一気に破った。

「もうここまでよ!覚悟しなさい!」

自由の身になったパンは、餃子に猛然と飛び掛かり、餃子の右手首を掴んだ。テレポーテーションで攻撃を回避されるのを防ぐ為だった。力はパンの方が上なので、餃子は強引に振り解けなかった。ようやく反撃の機会が訪れたパンは、餃子を殺さないよう気を付けながら、何度も攻撃した。攻撃を止めて手を離すと、餃子は力無く倒れた。餃子が受けたダメージは大きく、餃子から感じられる気が小さくなっており、戦闘継続は不可能に思われた。

「もうここまでね。さっさと降参しなさい。これ以上は命に関わるわ」

パンは、勝利を確信し、餃子に降参を迫った。しかし、餃子は、降参を拒み、右手を自分の胸の上に乗せた。すると餃子の全身が光に包まれた。やがて光が消えると、餃子は何事も無かったかのように立ち上がった。餃子の全身の傷が消え、餃子から感じられる気が元の大きさに戻っていた。餃子は、新たに身に付けた術である回復を使い、自分の傷を癒していた。パンは、目の前で起こった出来事に仰天し、呆然と立ち尽くしていた。

「そ、そんな、傷を治せるなんて・・・。こ、こうなったら、気絶させるしかないわね」

驚いたのはパンばかりではなく、観戦していた悟空やピッコロも同様に驚いていたが、それ以上に感心していた。

「あの力、他人にも使えねえかな?もし他人の傷も癒せるなら、大いに役に立つぞ」
「その通りだ。奴が仲間に加われば、主力として闘わせるのは流石に無理があるが、後方支援なら大きな存在となる。奴を仲間にする為にも、この三番勝負は絶対に勝たねばならない」

パンと餃子の闘いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。パンは、餃子の背後に回りこんで一撃を浴びせ、餃子の意識を失わせようとした。ところが、餃子の後ろに回り込んだ途端、再び動けなくなった。餃子は、パンの次の行動を読み、自分の背後に事前に結界を張っていた。

「え!?い、何時の間に結界を作ったの!?それらしい動きは見えなかったわ!」
「僕の結界は、わざわざ手を動かさなくても作れる。さっきの動きは、君を騙す為にわざとやった」

人を気絶させるには、その人の後ろの首筋を叩くのが最も簡単である。なので餃子は、パンが自分の背後に回りこむと予想し、戦闘の合間に自分の背後に結界を何百も作った。パンは、餃子の読み通りに行動し、見えない罠に嵌った。必死になって結界を破ろうとしたが、結界の数が多過ぎる為、超サイヤ人2の力を持ってしても打ち破れなかった。その間に餃子は、右手の人差し指に全身の気を溜めた。そして、パンの腹部を指差し、新たな必殺技を放った。

「これで終わりだ!超どどん波!」

餃子の指先から放たれた超どどん波は、至近距離からパンの腹部に命中した。大ダメージを負ったパンは、変身が解け、意識を失ってしまった。まだ結界に体の自由を奪われているので、立ったまま気絶していた。

「もうこの子は闘えないよ。僕の勝ちで良いよね?」

悟空達に異論は無かった。こうして三番勝負の一試合目は、餃子の勝利で幕を閉じた。餃子が手拍子すると、全ての結界は消え、パンは地面に倒れ伏した。餃子が俯せになって倒れているパンの背中に手を触れると、パンの全身は光に包まれた。するとパンは、完全回復して立ち上がった。そして、己の敗北を悟り、素直に負けを認めた。

「あんな凄い術が使えるなんて驚いたわ。悔しいけど完敗よ」
「僕が勝てたのは、君が僕の術を知らなかったからだ。もう一度闘えば、多分僕が負ける」

パンの方が実力は上だった。それでも勝ったのは餃子だった。もしこれが試合ではなくて実戦だったら、パンが超サイヤ人2になって攻勢に転じた時点で決着が付いていた。パンが実力を出し切れなかったのは、餃子を殺さないよう力をセーブしなければならなかったからである。一方、実力で劣る餃子は、パンを殺してしまう心配が無い為、思いっきり闘えた。もし当たり所が悪くても、死ぬ前に回復してあげれば済むので、手加減する必要が無かった。

パンは、敗れはしたものの、堂々と悟空達の元に戻ってきた。悟空達は、誰もパンを責めなかったが、焦りを感じていた。土下座回避の為には、もう負けられないからである。一方、餃子は満足そうに天津飯やリマの居る所まで歩いてきた。リマは、餃子に労いの言葉を掛け、天津飯に激励の言葉を贈った。

「餃子よ、よくやった。天津飯よ、お前で決めてこい!」

天津飯は、力強く頷き、前に向かって歩き出した。そこには既に悟空が立っていて、天津飯を待ち構えていた。

「悟空よ。お前達を辱めるつもりはないが、だからと言って負ける訳にはいかない。悪いが勝たせてもらうぞ」
「面白え。最初から全力で来い。オラも手を抜かねえ」

先程の餃子の見違える程の闘い振りを観て、天津飯も以前に比べて相当凄くなっていると悟空は肌で感じていた。その悟空の背中をパンは、後方から心配そうに見つめていた。悟空が負けるかもしれないと本気で思っていた。

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