其の八十五 三番勝負

リマが悟空達と対戦する為、天津飯と餃子を連れて地球を訪れたが、この時は悟空達が疲労していた為に翌日に出直す事にした。次の日、惑星ジニアに向かうのを休止して戦闘メンバー六人が勢揃いした悟空達は、昨日リマ達が現れた場所で待っていた。午前十時過ぎ、リマ達三人が悟空達の眼前に再度現れた。その際に天津飯は、悟空達の人数が足りない事に気付いた。

「悟空。昨日は予告無しの突然の訪問だったから、お前達のメンバー全員が揃っていなくても仕方なかったが、今日は俺達が来るのを知っていた。しかし、それにも拘らず人数が揃っていない。お前の息子二人は、どうしたんだ?」
「あ・・・いや、ちょっと用事があってな、今日は来れねえんだ」

悟空達は天津飯に対し、ジニア人に悟飯が連れ去られた事や、悟天との確執を話していなかった。天津飯に余計な心配を掛けさせたくなかったからである。しかし、同じく事情を知らないリマが挑発的な言葉を口にした。

「おそらく俺を恐れて逃げたんだろう。逃げたきゃ逃げろ。臆病者に用は無い」
「パパは逃げてなんかいないわ!勝手な事を言わないでよ!」

リマの心無い発言に、すかさずパンが反論した。また、口にしないまでも、悟空達全員がリマに対して少なからず憤りを感じていた。場の空気が険悪になったと感じた天津飯は、リマを窘めた。

「リマ。幾ら何でも言い過ぎだ。俺は悟飯を知っているが、あいつは勇敢だし律義者だ。ここに居ないのは、何か特別な理由があるのだろう。悟天の事は余り知らないが、奴も悟空の息子だ。逃げたりなんかしない」
「そうか・・・。まあ、どうでも良い事だ」

リマは天津飯の説教を適当に聞き流した。

「さてと、それでは始めるとするか。こちらから闘いを挑んだのだから、そっちに闘い方の形式を選ばせてやる。幾つか提案するから、好きなのを選べ」

リマは四つの闘い方の形式を提示した。一つ目は双方が代表者を一人決め、その代表者同士が闘う形式。二つ目は悟空達の中から三人選び、その三人がリマ達三人と一対一で闘い、二勝した側が勝ちの三番勝負。三つ目は全員参加で双方が一人ずつ闘い、勝った者が続けて闘う勝ち抜き戦。四つ目は全員が一斉に闘い、片方が全滅するまで続く総力戦。悟空は、しばらく考えた後、淡々と己の考えを述べた。

「代表者同士の闘いだと、オラとリマの闘いになるだろう。でも、オラは天津飯と闘う約束をしたんだから、これは選べねえな。勝ち抜き戦だと、こっちが六人でそっちは三人で、人数が違うからフェアじゃねえ。総力戦もフェアじゃねえが、何より全員で一斉に闘うと、誰かが死ぬ危険性がある。これは殺し合いじゃなくて、純粋な勝負なんだ。やっぱり三番勝負しかねえかな」
「三番勝負だな?良かろう。では、闘う者を選べ」

悟空達は、リマ達から少し離れた場所に移動し、誰が闘うかで話し合った。

「オラが天津飯と闘う。誰かリマと闘いたい奴は居るか?強敵だぞ」
「俺にやらせて下さい!あの時の借りを返したいんです」

志願したのは、ウーブだった。以前にリマと対戦して惜敗した苦い過去があったからである。あれから懸命に修行して更に強くなったウーブだが、対するリマも大魔王となって更に手強い相手になった事は想像に難くない。ウーブを信じたい反面、分が悪そうな気もするが、悟空は、ウーブの意気込みを買った。

「分かった。ウーブに任せる。後は餃子か・・・。誰が闘う?」
「お爺ちゃん。私に任せて。わざわざベジータさんやピッコロさんが闘うまでもないわ」
「パンか・・・。別に良いが、ちゃんと手を抜いてやれよ。絶対に殺すんじゃねえぞ」

悟空達は、誰が闘っても餃子が相手なら余裕で勝てると思っていた。なのでパンが志願しても、誰にも異存が無かった。

こうして餃子と闘う者も決まったので、悟空は、リマ達に近付いて悟空側の戦闘メンバーを伝えた。するとリマの口から爆弾発言が飛び出した。

「孫悟空よ。何も賭けないで闘っても詰まらん。負けた側は、勝った側の言う事を一つ聞かねばならないというのはどうだ?」
「何!?まさかおめえ達が勝ったら、オラ達の命を差し出せとでも言うつもりか?」
「命までは取らない。俺の望みは、お前達の屈服だ。俺達が勝ったら、俺の前に土下座して、『参りました』と言え。闘っていない者も含めて全員でだぞ」

このリマの土下座欲求は、事前の打ち合わせも無くリマが勝手に言い出した事で、天津飯は知らなかった。この話は悟空の仲間達にも聞こえており、当然の事ながら全員が激昂したが、悟空は了承してしまった。

「良いぞ。じゃあ、こっちが勝ったら天津飯と餃子を帰してもらうぞ」
「て、天津飯を!?そ、それは困る・・・」
「だったら条件は無しだ。オラ達が負けても土下座なんてしねえぞ」
「くっ・・・分かった。勝てば良いんだ。認めよう」

リマは嫌々ながらも受け入れた。こうして双方にとって受け入れ難いペナルティも決まった。そして、仲間達の元に戻った悟空は、早速ピッコロとベジータから怒鳴られた。

「悟空!どうしてあんな条件を飲んだ!?俺達に相談もしないで勝手に決めるな!」
「カカロット!俺は闘わないのに、何で負けたら俺まで土下座しないといけないんだ!?」
「そんなに怒るなよ。土下座する羽目になっても、明日には忘れてるさ」
「それで済む問題か!?土下座する破目になったら、後で貴様を殺してやる!」

悟空は猛る二人を抑えようとしたが、二人は中々納得しなかった。

「公平に闘いたいなら、三番勝負でなくても、三人による勝ち抜き戦にすべきだった!お前と天津飯が最初に闘えば、お互い百パーセントの状態で戦える。何故それを選ばなかった!?」
「リマが言ったのは、六人対三人の勝ち抜き戦だった。だから選ばなかったんだ」

リマが三人対三人の勝ち抜き戦を提案していれば、それを悟空が選んでいただろう。これなら一人が不覚を取っても、残った者で挽回出来る。総力で勝る悟空達にとっては、三番勝負より勝ち抜き戦の方が都合良かった。悟空は、自分が闘う形式を選んだつもりだったが、実はリマの思惑通りに誘導されていた。

「リマの奴、最初は純粋な勝負と思わせておいて、後にとんでもない要求を突きつけてくるなんて、とんだペテン師だ。最初から知っていれば、こちらはベストメンバーで挑んでいたのに・・・。今から闘うメンバーを変えられないかな?」
「トランクス!まさか私が餃子さんに負けるとでも思っているの?」
「い、いや、そういう訳じゃない。でも、くれぐれも油断するなよ、パン」

トランクスは、以前の様に「パンちゃん」ではなく、「パン」と呼び捨てにした。それはパンを子供扱いしていない事を示していた。既に二十歳を過ぎたパンは、立派な成人になっていた。それだけでなく、パンが二十歳になった時、トランクスとパンは婚約した。しかし、パンの父親である悟飯が捕らわれたままなので、二人の結婚は、悟飯の救出後にする予定となっていた。

一方、リマと天津飯も口論していた。

「リマ!悟空達に土下座を欲求するなんて聞いてないぞ!お前がどうしても勝ちたいと言うから、三番勝負以外は不公平な闘い方を提示し、悟空に消去法で三番勝負を選ばせるよう助言したんだぞ!一体、何を考えているんだ!?」

リマが提示した四つの闘い方の形式は、実は天津飯の発案だった。

「奴等が俺達に向かって頭を下げ、負けを認めるんだぞ。その光景を想像してみろ。気持ち良いと思わないか?」
「俺は個人戦でも団体戦でも勝ちたいとは思うが、何か見返りが欲しい訳じゃない。俺は武道家としての誇りを汚す真似をしたくない!」
「もう決まった事だ。後には引けない」

リマは、明後日の方向を見て話を切り上げた。天津飯は、気持ちを切り替えて餃子を激励した。

「餃子。お前の相手は女とはいえ、悟空の孫だ。甘く見るなよ」
「うん。任せて天さん。僕、絶対勝つよ」
「ああ。期待しているぞ」

両陣営の最後の話し合いも済み、いよいよ闘う時が来た。まずパンと餃子が前に出た。

「私より年下に見えるけど、実はお爺ちゃんと同世代だなんて驚きだわ。お爺ちゃんも実年齢に比べて、かなり若く見えるけど、上には上が居るのね。まあ良いわ。とっとと終わらせてやる」

パンは、餃子を甘く見、闘う前から勝った気になっていた。パンがそう思ってしまうほど、餃子から感じられる気は小さかった。これでも以前に比べて気が大きくなっていたが、パンの気に比べれば小さかった。しかし、パンが後に痛い目に遭うとは、この時の悟空達は誰も思ってすらいなかった。

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