其の六十九 化物登場

突如として出現した謎の化物の正体を明らかにする為、フリーザとセルは情報収集に着手した。化物が現れた星に調査員を派遣したり、治療が済んだ兵士達から詳細な情報を聞き出したりした。その結果、次々と新事実が浮き彫りになってきた。

まず化物が現れたのは、決まって兵士達が攻めた星の住人を殺している最中だった。そして、兵士達を殺せる力を化物は有していたのに、何故か殺さないように力を加減して攻撃し、傷付いた兵士達が逃げ帰るのを黙って見逃した。更に調査員からの報告によると、兵士達が逃げ帰った後で、住人が全滅していた。住人を皆殺しにした犯人は、化物以外に考えられないので、住人を守る為に現れた訳ではない事が分かった。

更に調査を続けると、化物によって滅ぼされたと思われる星の数が尋常でない事が分かった。化物が何時から出現したのか定かでないが、出現してから今日に至るまで、そんなに日数は経っていないはずである。しかし、既に数千もの星が滅ぼされていた。その中には惑星レードに属する星も含まれており、惑星レードの周辺には無人の星しか残っていなかった。この事実には、流石のフリーザやセルも度肝を抜かれた。

「私達は化物の姿を確認していないが、その存在を疑う余地は無い。まだ化物は、この惑星レードに現れていないが、このまま手を拱いてる訳にはいかない。こちらから出向き、化物を早急に倒さねばなるまい。さもなければ、この銀河内にある星が全て滅ぼされるぞ」
「化物に会う為には、兵士達がした様に、人が住んでいる星に行って、そこの住人を殺せば良いと思う。ジニア人の宇宙船が二台あるから、僕と君とで、それぞれ別の星に行こう」

化物の力は未知数だが、自分とセルなら単独でも化物を倒せるとフリーザは予測した。そこでフリーザは、一刻も早く化物を退治する為に、二人が別行動を取る事を提案した。それにセルが同意し、彼等は、それぞれ別々の星に向かった。既に化物が惑星レード内に潜伏しているとは知らずに。

その頃、今回の騒動を全く知らされていない悟天は、トレーニング施設の中で、黙々とトレーニングを続けていた。アイスを失った悲しみ、悟空に対する怒りが、悟天の人柄を豹変させていた。以前の温和さが微塵も無く、獰猛な顔付きとなった今の悟天は、昔のサイヤ人に似た雰囲気を醸し出していた。

実の父親を倒す事だけを考え、過酷な修行を己に課していた悟天の側では、同じくゴカンが修行に勤しんでいた。悟天同様、ゴカンも打倒悟空を目指していた。二人の執念は凄まじく、どんなに疲れても修行を止めようとはしなかった。

この日も体力の限界を超えて修行した悟天は、力尽きて倒れた。すぐに脇で控えていた兵士が悟天の元に駆けつけ、悟天を治療室に連れて行った。最新型のメディカルマシーンで即座に回復した悟天は、すぐに修行を再開しようとしたが、別の兵士が慌てて駆けつけてきた。

「た、大変です!ば、化物が現れました!」
「化物?そんな奴、お前達で倒せば良いだろうが!俺は修行で忙しいんだ!」
「そ、それが凄く強い奴でして、我々では手も足も出ません。このままでは、惑星レードが滅ぼされてしまいます」
「ちっ、使えない奴等め。仕方ない。俺が片付けてやる」

悟天は、修行を再開出来ない事に苛立ちながらも、ゴカンと兵士達をその場に残し、建物の外に出た。そして、大きな気を持つ何かに向かって飛んでいった。気が感じられる場所に着陸すると、そこには悟天が今まで見た事ない異形の生物が、応戦する兵士達を次々と殺していた。背丈は悟天より高く、頭部には三本の角が生え、全身を硬い皮膚で覆われ、先端が尖った尻尾まで生やしていた。悟天は謎の生物と相対した。

「貴様が何者かは知らないが、大体の見当は付いている。この惑星レードを襲撃する者と言えば、ジニア人を置いて他に居ない。貴様はジニア人の手の者だろ?」
「ほう。察しがいいな。隠す必要が無いから教えてやる。俺の名はジン。ドクター・キドニーの命により、この銀河を荒らすお前達を成敗しに来た」

修行に集中していた悟天は、フリーザやセルが星の侵略に着手した事を知らなかった。しかし、ジンは、悟天が彼等の悪事に関わっていると決め付けていた。訳も分からず濡れ衣を着せられた事も腹立たしいが、何より悟天を憤慨させたのは、ジンが悟天を全く警戒していない事だった。ジンが少しでも悟天を警戒していれば、敵となる相手に、自分の正体を無闇に明かすはずがない。ジンの人を見下した態度に、悟天は不快感を露にした。

「銀河を荒らすだと!?俺が何時そんな事をした?それに貴様等ジニア人の方こそ、多くの銀河を荒らしているじゃないか。自分達の行いを棚に上げて、よくそんな事をほざけたものだ!恥を知れ!」

今にも飛び掛からんとしている悟天だが、ジンは淡々と反論した。

「それは違う。俺達は星を滅ぼす前に、その星に住む知的生命体を検査している。俺達の役に立つか立たないか、また研究対象に相応しいかどうかを確かめている。そして、無価値と判断した種族のみを殲滅している。その場合でも、もしかしたら検査ミスがあるかもしれないから、念の為に細胞を摂取している。しかし、お前達は星に住む住人を、いきなり皆殺しにしようとしていた。こちらの検査後なら一向に構わないが、検査前だと困る」

ジニア人にとって無価値な種族という検査結果が出ても、全滅させる前に細胞を摂取していた。そうすれば、本来なら殺すべきでなかったと後に発覚しても、クローンとして復活させられるからである。しかし、検査前に皆殺しにしてしまったら、細胞の摂取が出来なくなるかもしれないので、ジニア人にとって都合が悪かった。しかもジンの創造主であるドクター・キドニーは、生物学者なので、検査や細胞摂取が出来ない事を他のジニア人以上に嫌っていた。

「お前達の事情など知った事じゃないが、だったら最も研究すべき対象であるはずのサイヤ人を、どうして殺そうとするんだ!?」
「無論サイヤ人を研究したい気持ちはあるが、こちらには既に孫悟飯というサンプルがある。無理して他のサイヤ人まで捕らえる必要は無い。何よりサイヤ人は、ミレニアムプロジェクトを邪魔する存在だ」

ジニア人にとっては伝説の存在であるサイヤ人を生け捕りにして研究したい気持ちは、生物学者であるドクター・キドニーなら当然持ち合わせていた。しかし、それ以上に優先すべきは、ミレニアムプロジェクトの完遂である。サイヤ人を捕らえるのに躍起になって、計画が遅れてはならない。ドクター・キドニーは、ミレニアムプロジェクトに支障を来すなら、躊躇わずにサイヤ人を抹殺するつもりだった。

「また俺達は、この銀河の征服にも同時に着手した。手始めに、この辺りの星から滅ぼしている。今のペースで進めば、全てを攻め滅ぼすのに三ヶ月も掛かるまい。その気になれば一月、いや一日で滅ぼす事だって不可能ではあるまい」
「一日で滅ぼすだって!?」

悟天は思わず呆れた。銀河内には何千億もの星があり、その中で知的生命体が住む星は百万程ある。その百万の星を一日で滅ぼすというのだから、ジンの言葉に呆れざるを得なかった。しかし、ジンは大言壮語を吐いてるつもりがなかった。それが出来る自信と根拠があった。

「冗談はともかく、よくこの惑星レードに侵入出来たな。この星の内外は監視されていて、侵入者が星に近付けば、すぐ分かる仕組みになっている。しかし、貴様は誰にも気付かれずに侵入した。やはり宇宙船を使い、ワープして来たのか?」
「違う。どうして星を襲撃してきた兵士達を殺さず、黙って見逃したんだと思う?実は兵士を殺し、そいつの姿に化けて成り代わったからだ。この様にな」

ジンの姿は、一瞬で兵士に変わった。ジンは外見を自由に変えられる能力を有していた。

「なるほどな・・・。兵の数は大勢居る。一人位別人に成り代わっても、誰にも気付かれない。そして、上手く惑星レードに侵入した後は、機を見て元の姿に戻り、暴れていたという事か・・・」

ジンは再び元の姿に戻った。

「話は終わりだ。そろそろ始末させてもらうぞ。我が軍に加わると言うなら話は別だがな」
「馬鹿を言え。誰が貴様等に味方するか。返り討ちにしてやる」
「俺を創ったドクター・キドニーは、オーガンの一員だ。お前達が今まで破ってきたボーンのロボットやサイボーグとは訳が違うぞ。ちなみにドクター・キドニーの知能指数は四千だ。それだけでもドクター・キドニーの偉大さが分かるだろ?」

悟天は、思わず絶句した。余りにも高過ぎる知能指数に圧倒された。

「ジニア人に味方しないのなら仕方ない。血祭りにする」
「お前がどんなに強くても、あの男を、孫悟空を殺すまで、俺は絶対に死なない!」

悟天とジンの戦いが始まろうとしていた。

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