眠っているゴカンを抱きかかえたアイスは、帰還したばかりの悟天やレードの元に向かった。アイスが場所を移動すると、そこには悟天達の他に見知らぬ二人も居た。しかし、その内の一人は、レードに酷似していたので、アイスは、それが誰なのかを瞬時に理解した。
「お帰りなさい。この方がお爺様ね。初めまして。パパが倒しに行ったと思ってたけど、まさか仲間にして連れ帰るなんて思いもしなかったわ。もう一人の方は、どなたかしら?あなたのお名前は?」
アイスは、セルに名前を尋ねたが、セルが素直に答えるはずがなかった。セルは、アイスを無視して、レードに質問した。
「何だ、こいつは?おい、レード。もしかして、お前の娘か?」
「ああ。名をアイスという。孫悟天との間に、そこに眠っているゴカンという子を産んだ」
「孫悟空の息子と、フリーザの孫娘の間に子供が出来るとは驚いたぞ。なあ、フリーザ」
「僕の一族の末裔が、憎きサイヤ人の血を引いてるとはね。驚きを通り越して呆れたよ」
フリーザとセルは、侮蔑の眼差しでアイスを見詰めた。この二人の態度に、アイスは嫌悪感を抱いた。
この後、レードは、フリーザとセルに惑星レードの中を案内すると言い出し、悟天やアイスと別れた。悟天達は、彼等が住む御殿に帰宅した。最新のメディカルマシーンで悟天の傷を治し、ゴカンをベッドに寝かせた後、リビングで悟天とアイスの話し合いが行われた。
「あーあ、私も地球に行きたかった。悟天が生まれ育った星を一度見てみたいから。ねえ、今度連れてってよ」
「え!?あ、そ、そうだね・・・。今度地球に行く事があったら、その時に・・・」
地球に行くのが気まずいと思っていた悟天は、出来ればアイスの申し出を断りたかったが、押しの強いアイスに迫られ、つい安請け合いしてしまった。
「ところで、何でパパは、あの二人を惑星レードに連れてきたのかしら?」
「そこは俺も理解に苦しむんだ。地球に行く前は、自分の親を許さないと言っていたレード様が、急に態度を変えて、逆に迎え入れたんだからね。どういう風の吹き回しだろう?」
「やっぱり気になるわ!これからパパに会って、理由を聞いてくるわ!」
アイスは、悟天をその場に残し、単身でレードの元に飛んで行った。そのレードは、フリーザとセルを自分の基地に招き、そこで自軍について説明していた。
「現在、この惑星レードの他に百を超える数の星を支配している。また、宇宙科学連盟等の組織と不可侵条約を結び、各組織に加盟している星に手を出さない代わりに、貴重な情報や優秀な人材を無償で提供してもらっている。また、兵士達には常に厳しい訓練を課しているので、戦闘力が十万を超える者も少なくない。ここまでで何か意見はあるか?」
「意見?意見ねえ・・・」
フリーザが考え込んでいると、アイスが遠慮無しに部屋の中に入ってきた。
「パパ!話があるわ!ちょっと来てくれない?」
「何だと?今は忙しいんだ。話があるなら後にしろ」
「今が良いの!そんなに時間を掛けないから、とにかく来てよ!」
アイスは、レードの右腕を引っ張ると、強引にレードを奥の部屋まで連れて行った。奥の部屋に着いて、ようやく開放されたレードは、アイスの態度に苛立ちながら尋ねた。
「一体、何の用だ!?俺は、あの二人に大事な話をしている最中だったんだぞ!」
「その二人について話があるの!一体、何を考えてるの!?あの二人は、相当強いと思うけど、極めて邪悪な気の持ち主よ。何で連れてきたのか知らないけど、パパの為に働いてくれるとは絶対に思えないわ!今の内に始末しないと、後で大変な目に遭うわよ!」
味方の裏切りほど怖いものはない。誠実さを微塵も感じられないフリーザとセルは、レードにとって獅子身中の虫になるとアイスは確信していた。
「アイス。父上達は、いずれ俺を裏切るとでも言いたいのか?お前の心配も分からんでもないが、我が軍の事情を考慮すれば止むを得ない。現在の我が軍の中には、孫悟空達に対抗出来る者が一人も居ない。いずれ孫悟空達と雌雄を決するなら、今の内に一人でも多くの強い味方を得なければならない。あの二人は、心根がどうであれ、俺に匹敵する程の強さを持っている。だからこそ迎え入れたんだ」
日増しに強くなる悟空達は、レードにとって現在は頼り甲斐のある味方であっても、ジニア人を倒した後では大きな脅威となる。もしレードが単身で悟空達全員を相手に戦えば、敗北が明らかである。その為にレードは、後に裏切られるかもしれないと覚悟した上でフリーザとセルを自軍に迎え入れねばならなかった。レードの心を変える事が出来ないと悟ったアイスは、これ以上何も言わなかった。
ところか、この二人のやり取りを、フリーザとセルが物陰から覗き見していた。そして、フリーザ達は、レード親子に聞こえないよう小声で話し合った。
「あの女、私達にとっては邪魔な存在となりそうだ。レードの娘でなければ、すぐにでも殺したいのだが・・・」
「ふっ。僕に考えがある。まあ、任せておいてよ」
フリーザは、ある邪悪な計画を胸に秘め、セルと共に先程の部屋に戻った。アイスは、レードへの説得を諦めて基地を後にし、レードは、憮然たる面持ちで部屋に戻った。レードが部屋に戻った時、フリーザとセルは、素知らぬ素振りで着座していた。
「思わぬ邪魔が入って話が中断してしまったが、我が軍に修正すべき点があるかどうか意見を聞きたい」
「軍の良し悪しは、率いる者によって決まる。お前の様な中途半端な男が率いる軍では、どんなに部下が優秀でも大成なんて出来ない。孫悟天を見れば、お前の甘さが一目瞭然だ。奴を手元に置きながら、どうして洗脳しないんだ?」
レードは、言葉に詰まった。何時まで経っても悪に染まらない悟天を、レードの命令なら人殺しも辞さない冷酷無情な部下とする為には、洗脳しかない。その事は、レードも分かっていた。しかし、アイスが承知するはずがない。レードは、アイスに遠慮して、悟天を野放しにしていた。
「それだけじゃない。どうして複数の組織と不可侵条約を結ぶんだ?脅して屈服させろ!」
「そ、それは、力尽くで言いなりにさせるより、手を組んだ方が彼等の自尊心を傷付けず、事が進み易いと思ったからで・・・」
「甘い!帝王とは全てを支配する者だ!己の我を通し、他人の意向など全く意に介さない者だ!お前は、帝王の意味を履き違えている!そんな甘い考えでは、真の帝王になれない!」
フリーザの剣幕に圧倒されたレードは、言い返せずに萎縮してしまった。気を良くしたフリーザは、遂に恐ろしい事を口にした。
「お前が真の帝王となる為には、甘さの原因を絶たないと駄目だ。それは、あのアイスとかいう娘だ。だからアイスを消せ!」
「ア、アイスを!?待ってくれ、父上。アイスは・・・」
「娘だから殺せないとでも言うのか?僕だって好きで殺せと言ってるんじゃない。必要な犠牲なんだ。一人の人間を殺すだけで真の帝王になれるなら、難しい話じゃないだろ?」
レードは、余りにも予想外なフリーザの提言に混乱してしまい、まともに反論出来なかった。しかし、どうしても受け入れられなかった。
「だ、だが、アイスは・・・」
「これだけ言っても、まだ分からないのか!?非情になりきれないなら、お前に帝王の資質は無い!帝王とは頂点に君臨する唯一無二の存在だ!当然、孤独なんだ!その孤独に打ち勝てない者が、頂点に立てるはずがない!娘を連れて、どこか偏狭の星で、ひっそりと暮らすが良い!」
レードにとってアイスは、唯一の心の拠り所だった。そのアイスを失う事は、己の身が裂けるよりも辛い事だった。しかし、フリーザの言い分も分かる。レードは、窮地に陥った。
「ア、アイスを殺す事に、孫悟天は絶対に承知すまい。場合によっては、孫悟空達と全面戦争に発展する可能性すらある。それを考慮すれば、アイスを生かした方が・・・」
「ふっ。だったら、その孫悟天にアイスを殺させよう。それだったら、奴も文句を言うまい」
「ち、父上は、何を考えているんだ・・・?」
レードは、フリーザの底知れぬ冷酷さに恐れ戦いた。
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