其の六十三 裏切り

初めて対面したフリーザとレード。しかし、互いに喜ぶ素振りは、微塵も見せなかった。

フリーザは、子供が何人も居たが、どの子にも一切の興味を示さず、子供が生まれた報告を受けても会おうとしなかった。そして、子供の養育を部下に任せていた。

一方、子供の頃のレードは、父親が側に居ない寂しさはあったが、不自由無い生活を送っていた。しかし、フリーザの死後、フリーザに恨みを抱く者達が、フリーザの血を引くレードの命を狙い、レードの居る星に攻めてきた。レードを世話する人や護衛兵は、逃亡するか殺され、レードは、命辛々逃亡した。

レードは、住む星を転々としながら徐々に力を蓄えると、自分の命を狙う者達を全て返り討ちにし、一代で帝国を築き上げた。こうして命を狙われる心配が無くなったレードだが、幼き頃の地獄の様な日々は、全て父であるフリーザのせいだと信じ、フリーザを激しく憎んでいた。

その二人が会ったのだから、対面を喜び合う雰囲気になるはずがなかった。

「誰かと思えば、確かレードとかいう僕の子供か・・・。僕は、これからベジータ達を処刑するんだ。本来なら孫悟空達と共に戦ってる時点で、お前も殺さなければならない。でも、この場から大人しく消えてくれるなら、お前だけは見逃すようドクター・スカルにお願いしてあげるよ」

幾ら親子間に愛情が無いとはいえ、フリーザは、レードを殺すつもりが無かった。邪魔さえしなければ、悟空達に助力した罪を免じ、レードだけは生かしておいてやろうと考えていた。しかし、レードがその申し出に応じるはずがなかった。

「父上。俺は、孫悟空の仲間になったのではない。強大な力を持つジニア人に対抗する為、一時的に手を組んでいるだけだ。ジニア人を撃退したら、その時こそ孫悟空と雌雄を決する。そして、父上が果たせなかった銀河系の支配を完遂し、真の帝王となる。父上の方こそ俺の邪魔をするならば、容赦なく殺す」

レードは、フリーザに凄んだ。フリーザは、途端に不機嫌となり、二人の間に険悪な空気が流れた。

「僕を殺すか・・・。それなりに腕に自信があるようだけど、僕を倒せると思わない方が良い。その思い上がった鼻っ柱を、へし折ってやる!」

フリーザもレードも、お互い一歩も譲る気は無く、対決は避けられない状況となった。

「父上。戦う前に一つ訊いておきたい。もし父上がドラゴンボールで永遠の命を手に入れていたら、俺を含めた子供達を、どうするつもりだったんだ?」
「僕の為に働くなら生かしてやった。しかし、お前の様に反抗的なら、後々の災いとならないよう殺していた」
「・・・そうか。父上の考えは、よく分かった。これで安心して倒せる」

レードは、気を溜め始めた。気が急上昇しただけでなく、筋肉が異様に盛り上がった。普段は冷静沈着なレードにしては珍しく、この時ばかりは熱くなっていた。フリーザも同じように気を高め、筋肉質の体となり、百パーセントの状態となっていた。お互い本気モードになった所で、戦闘が開始された。

この親子対決は、初っ端から激しい攻防戦となった。一方、ベジータは、少し離れた所から口惜しそうに戦いを眺めていた。もしレードがフリーザを倒したら、大きなショックを受け、二度と立ち直れないだろう。逆にフリーザが勝ったら、この場に居る全員が殺される。ベジータにとって、この戦いは、どちらが勝っても地獄だった。

戦闘は一進一退の展開が続き、二人とも体中が傷だらけになった。しかし、フリーザの一瞬の隙を突いたレードは、デスマジックを使った。自分より強い者には通じないが、自分と同等以下なら効く技で、技に掛かったフリーザは、自らの顔を自身の意思に反して殴り始めた。更にレードは、両目から破壊光線を何度も放ち、フリーザに大ダメージを負わせた。

デスマジックの呪縛を自力で破ったフリーザだが、ダメージが大きく、レードが断然優位な状況となっていた。まだ勝負が決した訳ではなかったが、悟天は安堵し、ベジータは苛立っていた。父の気持ちを察しているトランクスもレードの優勢を素直に喜べず、複雑な思いだった。

劣勢に陥ったフリーザは、もう戦えない状態ではなかったが、早々に勝利を諦めていた。

「僕は、死んでも生き返れる。次こそお前を・・・」
「次なんて無い。父上を倒したら、直ちにバトルフィールドを破壊する。そうすればリバイバルマシーンも破壊され、父上は二度と生き返れなくなる。ドクター・スカルも死に、惑星ジニアの場所を聞き出せなくなるが、そんなのは知った事ではない。大事なのは、このバトルフィールドでの戦いに一刻も早く終止符を打つ事だ」

レードの言葉に、フリーザは仰天した。戦いで勝利する事を諦めても、生きる事まで諦めた訳ではなかった。そして、必死になって考え、この危機を乗り越える案を思いついた。

「待て!レード。お前の強さは、よく分かった。お前のような強い者を子供に持ち、僕は親として鼻が高いよ。これからは心を入れ替えて、お前の為に尽力しよう。悪い話ではあるまい。お前と僕が手を組めば、ジニア人なんて楽勝だ」

フリーザは、レードに取り入って、この場の危機を乗り切ろうとした。フリーザの節操の無さに、レードは思わず飽きれたが、このやり取りを見ていたベジータが、レードに向かって叫んだ。

「レード!騙されるな!フリーザが貴様の助けになるはずがない!フリーザは、この場で殺すしかないんだ!貴様が殺せないなら、俺が代わりに殺してやる!」

レードがフリーザを殺せないなら、自分が代わりに殺そうとベジータは考えていた。

「レード。お前は、あんな奴の言う事を鵜呑みにするほど馬鹿ではあるまい。実の父親と、仮初の仲間と、どっちの言葉を信じるんだ?」

レードは、言葉に詰まった。普通に考えれば、ベジータの言ってる事の方が正しい。しかし、悟空達とは一時的に手を組んでいると言った手前、ベジータの言った通りに行動する訳にもいかなかった。回答に窮したレードは、妥協案として、フリーザに条件を出した。

「父上。本気で俺の助けになる気なら、ドクター・スカルの居る中心部まで案内してもらおうか。そうしたら父上を信用しよう」

普段のレードらしい対応ではなかった。父親を信用出来ないと思いつつも、それでも信じてみたいという甘さが、レードの判断力を鈍らせていた。

「分かったよ。これから中心部まで案内しよう」

フリーザは、あっさり応じると、背後の扉ではなく、側面の壁に向かってエネルギー波を放った。壁には大きな穴が開き、レードに、その穴に入るよう促した。

「何の真似だ?そんな事をしなくても、父上なら正しい順路を知ってるだろう」
「正しい順路?そんなものはないよ。バトルフィールド内の通路は、ドクター・スカルが自由に操作しているからね。彼が僕の裏切りを知れば、僕を中心部に近づけないよう通路を変えるだろう。確実に中心部に行く為には、中心部まで一直線に進んだ方が良いんだ。通路は動かせても、中心部の位置を動かす事までは出来ないからね」

フリーザが穴に入り、レードが後に続いた。ベジータ達三人は、フリーザの罠ではないかと疑ったが、結局は穴に入った。フリーザとレードが先に進み、その後をベジータ達三人が歩いた。やがてフリーザとレードは、中心部に着いた。そこには怯えた表情のドクター・スカルが居た。

「フ、フリーザ!何故、裏切るんだ!?お前を信じて、新技法で改造までしてやったのに・・・」
「僕は、かつて宇宙の帝王と呼ばれていた。その帝王が他人の為に働くなんて、おかしいだろ?君には感謝してるけど、死んでもらうよ」
「くっ、動くな!一歩でも動くと、こいつ等の命が無いぞ!」

ドクター・スカルは、白衣のポケットの中から銃を取り出すと、足元に倒れているパン・ウーブ・ピッコロに向けて銃口を向けた。

「これは只の銃ではないぞ!これで頭を打ち抜かれれば、こいつ等でも・・・」
「ふっ。僕にそんな脅しが通じると思ってるのか?人質が通じる相手かどうか分かるだろ?」
「くそっ!あの男さえ、ブロリーさえ生き返っていれば、こんな事にはならなかったのに・・・。無念だ」

観念したドクター・スカルは、銃口を自分の蟀谷に当てて発砲した。

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